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第22話 狂っているとしか

 マリアの同行を許した翌日のこと。


 俺はほぼ強引にスクリーンにリトルトゥルーが作ったというアプリを登録させられた。今後はこのアプリで一週間のみではあるが、自由に使えるという。とはいえ、メインカメラはマリアが持っているし、その他の権限といえば鏡花以下しか与えられておらず、できることは極端に少ない。


 で、早速お試しのパーティを組んだ初日はといえば。



「そっち行ったわよー」



「面倒くせぇ敵だな」



 鏡花はマリアの護衛という名目で力を温存し、午前は俺がメインで戦うことになった。しかし午後になってもフォーメーションは変わらず、俺は前線に駆り出される。


 今日遭遇したのはホッピングホーンという、二足歩行の鹿だ。前足は使わないので退化したが、全体重を支える後ろ足は筋肉が異常発達し、胴の半分ほどのサイズにまで肥大化している。


 大した敵ではないが群れを作って生息し、移動するにも戦闘するにもすべてジャンプというトリッキーなスタイル。それが群れ全体で襲い掛かってくるので手数がギリギリとなってしまう。


 俺の戦闘スタイルは両手を使うことを主眼とするが、どうしても足りない場合はやむなく片手で対応する。何度も教わった戦い方だ。ダンジョン突入後、一週間以内にこんなにも役に立つとは思わなかった。


 ただ数が多すぎる。四十匹は潰した。ホッピングホーンはその名の由来どおり、ジャンプからの角を突き出す攻撃を得意とし、素材も角がそれなりに高額で取引される。が、パーティを組んだ以上、収穫できる素材はすべてメンバーで山分けとなる。割に合わない仕事だ。やめたくなった。






「………すごい」


 私はつい、感嘆してしまいました。


 ホッピングホーン対策は事前に学んでいます。ジャンプする敵の足を狙えば機動力が極端に低下し、仕留めることが可能だと。


 しかし京一さんの戦い方は、ボススライムの時から考えていましたが、やはり異常でした。



 狂っているとしか思えません。



「………言うだけあるってことね。初心者って忘れてしまうわ」


 先輩冒険者の鏡花さんは頬に冷や汗を伝わせて呟きました。


 ちなみに、私たちのマイクはミュート設定にしています。マイクは京一さんのみに設定してあります。ここで話したことはインカムを通してマネージャーの雨宮さんだけにしか聞こえません。


『ホッピングホーンの背骨を、片手で掴んで折り畳んでる………有り得ない………』


 愕然とするのは私たちだけでなく、京一さんをパーティに勧誘することを絶対とした雨宮さんも同じでした。


 そのとおり。京一さんは群れ全体を相手にしながら、セオリーどおり足を狙うわけでなく、ギリギリまで引き付けて角を回避し、伸ばした手で背中を掴むと、強靭な握力で握り潰して、本来曲がる方向にない角度まで胴を反らし絶命させているのだから。こんな戦い方、私たちは知りません。


 鏡花さんを前線に出さないよう指示したのは雨宮さんで、デビュー戦を飾ると仰っていましたが、


『これは………私たちはとんでもない子をスカウトしてしまったのかもしれないわね』


 と、賛美していました。まだお試し期間であるはずなのに、もうメンバー登録しているつもりになっているのでしょうか。


『マリア。よく見ていなさい。彼の戦い方を。とても参考になるものではないけど、学ぶことは多いはずよ』


「で、でも………どう学べば?」


『これは鏡花さんもそうだけど、敵の接近を紙一重で避けているわよね? 一瞬の判断で複数体の敵をそれで対処している。あなたもいずれ、これができるようになれば………大成するわ。きっとね』


「………待ってください。私は戦いなんて、とても」


『東京にはもっと危険なモンスターがいるかもしれない。強くなるには、今のうちに学ぶしかないの。実戦という経験に勝るものはないわ』


 言っていることはわかります。


 でも雨宮さん。あなたは忘れています。


 配信者は冒険者に並ぶ人気な職業。最近では西京都で人気を博すアイドルもエリクシル適合者と判明すれば、ダンジョンで配信を行う時代。


 けれど戦闘を積極的に行うのは任意であって、必然ではないはずです。契約書にもそう明記してありました。もちろんダンジョンはモンスターの生息地。回避できないやむない戦闘については果敢に挑まなければこちらが死んでしまいます。つまり逃げられない場合は戦う必要があるだけで、それ以外は戦う義務が生じないはず。


 なぜか雨宮さんは積極的に私に戦わせようとします。契約違反です。どこにどう訴えるべきでしょうか。


「おい。終わったぞ。素材回収くらいは手伝えよ」


「しょーがないわね」


 五十匹のモンスターの死骸が山積みになります。これを短時間で行った京一さんに、驚愕したまま動けませんでした。鏡花さんは動けるようで、ホッピングホーンの角の回収に加わります。



《やっぱ頭おかしいよ。こいつ》


《流石は伝説的なレジェンド!》


《歪みねぇな。伝説的なレジェンド》


《素手でモンスターの骨を潰すとか、頭おかしいだろ》



 コメント覧は今日もお祭りです。


 つい数日前までは固定されたようなコメントばかりでした。ファンはそれなりにいたのですが、いただけるコメントが少なかったのです。しかし今はどうでしょう。流れる勢いで新規のコメントをいただいています。


 投げ銭の額だって数日前より桁がひとつ増えました。今では皆殺し姫こと鏡花さんが加わった時の倍近くです。なんか、逆に怖くなってしまいました。


 京一さんって、本当に何者なんでしょうか?






  ▼ ▼ ▼ ▼ ▼






「群馬の小腸ぉ?」


「まさか知らないで迷宮入りしたんじゃないでしょうね?」


 

その日の夕方に近い時間。富岡跡を進む俺に、鏡花が呆れながら言った。


「………まぁ、聞いたことくらいならあるけどよ」


「本当に?」


「………多分な」


 俺が目を通した配信者のダンジョン攻略動画には、確かひとつだけそんなことを言っていた記憶が───あるような、無いような。


「まぁいいわ。あんたの疑問を解決するついでに教えてあげる。ダンジョンは生き物よ」


「ああ、それなら確か最近聞いたことあるな」


 鉄条がそんなことを言っていた。ダンジョンに挑む俺に、たったひとつだけ与えられたアドバイスだ。


「確か、一度見た景色を二度と見れると思うな………だったか」


「なんだ。知ってるじゃない。つまるところ、そういうことよ」


「いや、どういうことだよ」


 始まりはつい先程だ。青蛍群石(サファイア)の動画で見た暗号を参考に進んでいたはずが、いつしかその暗号が途絶え始めたということ。それ以外にも長く感じた通路や、動画と実物とで比較した結果、高低差が合わないことから、内心かなり焦っていて、顔に出てしまったのかもしれない。それを尋ねられたため、正直に打ち明けて、勝手に呆れられた。


「ダンジョンは構造を作り替えるの。だからそのひとの言ったとおり、()()()()()()()()()()()()()


「マジかよ。じゃあ、俺が見てきたダンジョン攻略動画は………」


「そうね。今後、あまり役に立たなくなるわね」


 この事実については愕然とするしかなかった。


 だが同時に腑に落ちた。


 なぜ青蛍群石(サファイア)の攻略動画で得た正規ルートの先が、あるはずのない広間に繋がっていたのか。楓先生が殺意を込めるほどのボススライムが鎮座する空間に出たのか。


 ダンジョンの構造が作り替わっているなら、すべてに合点がいく。


たくさんのブクマ、フル☆をぶち込んでくださりありがとうございます!

読者様からのガソリンを確かに受けとりました!


でも皆様の気合いはこんなものではないはず。作者はまだまだ書き続けますので、たくさんの応援をお待ちしております!

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