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第218話 今度こそ仕留めろ

 洞窟のなかは光源となる採取禁止類とされる鉱石のお陰で、ある程度の目視が可能となっています。


 そのお陰でディーノフレスターが敗走する、その先も確かに見えるのです。


 ズドン! と砲撃を思わせる音が響き、天井が崩れると土煙が舞います。そこから降ったのは落石だけではなく、ふたりの姿でした。


「ワン郎!」


「ワン!」


 いつの間にか私から離れていたワン郎ちゃんは、主人の呼応によって疾走します。ディーノフレスターを追い抜き、こちらに走ってくるひと───鏡花さんを背負った迅くんへと。


 迅くんはワン郎ちゃんが胸に飛び込むと、それを吸収します。彼のスキル「変動」によるものです。迅くんのスキルはレベルのコントロールにあります。テイムしたモンスターのレベルを自分のものとしたり、逆に自分のレベルを分け与えたりと。今回の場合は前者です。


「このクソモンスが! 埼玉と群馬の時の礼だ! オラァッ!」


「ベッ!?」


 迅くんはワン郎ちゃんのレベルを吸収し、ディーノフレスターに急接近します。その俊敏力と攻撃力は、常時の龍弐さん以上でした。とてもではないですが、レベル50のそれではありません。


 全力の正拳突きをディーノフレスターの顔面に突き刺すと、ギュンとあの巨体が飛び、私たちの横を特急電車を連想させる速度で通過します。


「な、なにが………え?」


「おい、迅。今のストレングスは犬を吸収しただけじゃ出ないだろ。どうやった?」


 狼狽する私の代わりに、本気モードのままの龍弐さんが厳しい口調で尋ねます。


「賭けだったんすけどね。いや、まさか人間にも作用するとは思わなかったっす」


「こいつ、私のレベルを半分も持って行ったんですよ。よいしょっと」


 ブレーキをかけ、私たちの隣で停止すると、鏡花さんが不満げに答えながらワイヤーの留め具を外して迅くんの背中から降りました。


「へぇ、そりゃあ………これから迅は主戦力になれるってわけだ」


「色々試す必要があるっすけどね。俺は鏡花の姐さんのレベルを30くらい借りようとしたんすけど、20しか吸収できなかったんで。ひとりが限界なのか、ふたり以上が可能なのか、実験してみねぇとなんとも」


 でも、それってすごいことです。


 今、迅くんは私たちの誰よりも上にいます。自分のレベルは1で、鏡花さんのレベルを20も借りて、最後にワン郎ちゃんのレベルを50すべて吸収したとすれば、まだ見たことはありませんが、推定ではありますがレベル50以上60未満の龍弐さんをも上回るレベル71になるはずです。


 これでもし私のパーティ全員のレベルを吸収すれば、前代未聞の300に届くのではないでしょうか。


 群馬ダンジョンでは、当時公表されていたトップ冒険者のレベルは40ほどだったのが、京一さんのステータスを公開したことによりランキングが大きく上回りました。その京一さん曰く、奏さんは自分より上で、その上に龍弐さんがいると。私のパーティに精鋭の化け物が揃ってしまったと実感した瞬間は、今でも覚えています。


「その実験は後でやるとして、だ。まだやれるな? あのクソ馬、今度こそ挽肉にするぞ。気合い入れろ」


「押忍ッ! 龍弐の兄貴ッ!!」


「いいねぇ、それ。私も混ぜてよぉ」


 私のパーティの前衛と、六衣さんが洞窟の奥に飛ばされた呪物精霊を睥睨します。なんていう気迫でしょう。もう、負ける気がしませんでした。


「マリア」


「はい? ………わ、どうしたんですか? 鏡花さん」


「よかった………無事で」


 鏡花さんはとても疲れているようで、座り込みながらも、重たく感じる体を動かして私を抱擁してくれました。


「ご心配おかけしました。みんなを信じて頑張った甲斐がありました」


「頑張り過ぎよ。………スキル持ちになったのは意外というか、予想外だったけど………でも、そんなのどうだっていい。よくひとりでいながら、生きててくれたわ。………あとはみんなに任せましょ。あの馬が終わったら、マリアに触ろうとしてくれたクソ野郎を八つ裂きにしてやらないとね」


「あ、はは………」


 どうか八つ裂きだけは、配信外でして欲しいものです。


 でもハイになったみんなは、多分ディーノフレスターを倒したあとは地面を掘り返してでも西坂さんを探し出し、凄惨な処刑をするでしょう。ディーノフレスターが倒れた瞬間に、配信を締め括って閉じると決意しました。


 というか、六衣さんがしれっと混じっていますが、おふたりはなにも感じていないのでしょうか───あ、迅くんはちゃんと反応していました。隣に並んだ六衣さんをちゃんと警戒しているようです。握り拳が若干震え、チラチラと横目で確認していました。安心………いえ、なにも安心できないのですが。


「コロ、ズゥッ!?」


 起き上がったディーノフレスターが、損傷した足を引き摺って移動を始めたその時でした。


 その壁をぶち破るほどのなにかが、絶え間なくディーノフレスターの横から襲ったのです。


 しかもそれらは絶えることなく、着弾すると爆発を繰り返します。


「へぇ。これがディーノフレスターか。やっぱすげぇモンスターだな、っと!」


「アルマさん! 奏さんも!」


 ぶち抜かれた壁から発射される無数の矢に混じり、アルマさんがディーノフレスターが踏み留まっている隙を突いて回し後ろ蹴りを放ちます。首にヒットすると、反対側の壁に打ち付けられます。矢が止むと、アルマさんが持っていたマッチをすべて着火し放ち、ディーノフレスターに触れた途端に炎上しました。


「ゴァァァァアアアアアアアア!!」


「あ、逃げた」


「心配せずともいいでしょう。ニャンちゃんもそう言いたげですし。もうあそこには王手をかけられる存在がいるということです」


 アルマさんのスキルで炎上したディーノフレスターは、先程とは反対側に走り出します。


 穴から這い出た奏さんは追撃せず、焼け爛れた尻を見送りました。


 すると───確かに、王手をかけられる逸材が、すでにそこにいたのです。


「利達! スキル全開! このまま突っ込む!」


「あいよぅ、京一先輩!」


 利達ちゃんを背負った京一さんが、地面を滑っていました。


 アイススケーターのように滑走する手段といえば、利達ちゃんのスキルに他なりません。



「また会ったなクソ馬! 随分とイケメンになったじゃねぇか! 今からもっと人前に出られなくなるくらい、滅茶苦茶にしてやるぜッ!」



 京一さんは推進しながら腰を大きく落とし、開脚すると回転を始めます。利達ちゃんは投げ出されないようにしっかりと背中にしがみ付きます。


 その回転数が限界を突破した時、右足が跳ね上がり、迎撃しようとしたディーノフレスターの鼻先を踵が捉えます。


「そっち行ったぞ! 今度こそ仕留めろ!」


「ナイスだぜ、キョーちゃん」


 二振りの刀をクロスさせた龍弐さんが賞賛します。


 京一さんの蹴りであの巨体が浮き、またもやビュンと飛んだのです。そこには龍弐さんや、合流したアルマさんたちが待ち構えていました。どうせ逃げられないのだから、というのが逃亡しても余裕のスタンスを一貫した理由なのでしょう。


 京一さんは利達ちゃんをパージして、自らも最終攻撃ポイントに加勢します。




「呪物精霊だか知らないが、それだけで俺たちに勝てると思ってんじゃねぇぞカス!!」




 拳が、蹴りが、刀が、矢が、ビンタが、無防備なディーノフレスターの全身に突き立てられます。



「オワリ、ジャナ、ィイ………」



 ビクンと震えたディーノフレスター。


 意味不明な言葉は、ついに───遺言となります。


 全身がブレたと思った次の瞬間、ディーノフレスターは他のモンスターと同様に、粒子となって消えたのです。



日曜日に更新できず申し訳ありませんでした。


ええ、予想どおりポケモンやってました。ということでレジェンズZAのストーリーを四日でクリアしてしまいましたとさ。特に土曜日なんて「あと少しだけ…」なんて思ってたら、気付いたら朝になってたんです。ストーリー後のあいつに蹂躙されて我にかえり「あ、更新してなかった…」と思い出させられました。でもすごく面白かったです。追加ストーリー楽しみですね。


ひと段落しましたので、更新や別作に注力していきたいと思います。こんな作者ですが、寝不足の頭を叩き起こすためブクマや☆や感想など、燃料を注ぎ「とっとと書けやぁ」と喝を入れていただければ幸いです。どうかお願いします。

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