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第216話 鬼にニトログリセリン

 ですが、この状況において、ひとつだけ───死活問題となる重要な問題が浮上し、私と彼女の間で一方的だったとはいえ、締結した条約じみたものが消し飛ぶどころか助けてくれた意味さえなくなりそうで、ついに口を挟んでしまいました。


「ま、待って………待ってください六衣さん!」


「えー、なにぃ?」


「そ、そのっ………六衣さんはスキルを用いるんですよね?」


「そうだよぉ。それであのお馬ちゃんとお友達になるのぉ」


「でも、六衣さんのスキルを使うと、ここら一帯が大変なことに………」


 六衣さんのスキルは「()()」という、まさに()()()()()()()()()()のコードをそのまま形にしたような、私の知るスキル持ちのなかで、もっとも対人戦対モンスター戦も関係なく殺傷力のある凶悪なものでした。


 私は六衣さんのスキルを二度ほど目にしたことがあります。遠くで感じたものも加えると四回にカウントされるでしょう。


 震源は埼玉で、それが群馬ダンジョンまで届いて広域を震撼させ、ダンジョンに降り積もる大雪で雪崩を発生させ、群馬ダンジョン上部に降り注いだほどです。


 実際に間近で見た爆発は、死ぬかと思ったほどでした。


 で、今回で三度目になるそれが間近で発生したとなると、もう私の命の保証は皆無に等しいでしょう。


「ああ、そのことかぁ。安心していいよぅ。マリアちゃんはお友達だし、ちゃんと守るからねぇ」


「い、いえ、でも………」


「私ね、あれからもっと強くなったの。いっぱいモンスターを吹っ飛ばしたよぉ。お陰で誰もお友達になれなかったけど………でもね、最近やっとコントロールできるようになったのぉ。そもそも、私がスキルを使ったのに、なんでマリアちゃんはまだ無傷なのかなぁ?」


「………えっ!?」


 そういえば、指摘されてやっと自覚しました。


 ディーノフレスターに絞め殺されそうになった私は爆発に巻き込まれて解放されたのですが、あれは───私の知る六衣さんの殺傷力の塊でしかないスキルより小規模で、しかも六衣さんが遅れて登場するという、とてもではないですが自爆とは程遠い遠距離攻撃だったように思えます。


 だから私は少々の火傷で済んだのでした。無傷ではありませんでしたが。



「私ねぇ、()()()()()()ができるようになったんだよぉ」


 

 なんですか。その悪魔に神の力を与えたようなチートっぷりは。


 リモート自爆とか、わけがわかりません。具体的なイメージとしては、おそらく………六衣さんが任意の場所で自爆できるといったところでしょうか。


 いや、でも、しかし、



「それって自爆って言いませんよね!?」



「自爆だよぉ。爆発の規模で体力が減るもぉん」



 自爆の概念をなんとするか。自らを爆発させるなら、体力も減る。ゆえに自爆。


 そこにいようがいまいが、体力が減るスキル。一見、誰もが忌避したいスキルでしょう。私だって嫌です。痛いし。


 けれどもすべてにおいて規格外な六衣さんは、どんな状況下であっても喜んで自爆しようとするド変態です。


 さらに付随するなら、六衣さんのステータスには回復もあります。オートリペアというやつです。


 このオートリペアという私のパーティのなかでも誰も持っていない能力があるからこそ、多少体力が減っても数秒で元通りになると。


 六衣さんと決別する形になって数週間。彼女は遠隔自爆まで身につけました。


 鬼に金棒どころじゃありません。「鬼にニトログリセリン」じゃないですか。


 最強最悪な悪魔が、より凶悪になったのです。


 私はもう、白目を剥くしかありませんでした。



「そういうことだからぁ………あのお馬ちゃんとお友達になってくるねぇ!」



 ディーノフレスターに肉薄する六衣さん。


 ディーノフレスターはより距離を取ろうとするのですが、六衣は二度目の後退を許しませんでした。


「あはぁ!」


 狂気入り混じる満面の笑みで、ディーノフレスターの配合でリモート自爆を行ったのです。


 尻の肉が弾け、鮮血を散らすディーノフレスターは悲鳴を上げることはありませんでしたが、なんとその爆発の衝撃波を推進力に利用し、自らも六衣さんに肉薄するのでした。


「やっと遊ぶ気になったのぉ? いい子だねぇ!」


「コ、ロス!」


「えひひひひぃ!」


 飛ぶような勢いで接近するディーノフレスターは、首を伸ばして連続で六衣さんに噛みつき攻撃を仕掛けるのですが、六衣は紙一重で躱します。


 ところが最後の、燕返しに等しい両サイド同時噛みつきを回避できませんでした。


「あ」


「六衣さんっ!」


 腕の肉を噛みちぎられた六衣さん。白いふわふわとしたジャケットが、赤く染まります。


 しかし、腕の肉が千切れようと、六衣さんは痛がるどころか………笑っていたのです。



「学習能力がないなぁ。それでどうなったのか、もう忘れたのぉ?」



「ンボァアアッ!?」



 六衣さんの血で染めたディーノフレスターの口元が、ボッ! と弾けました。


 いったいなにが起きたのか理解できぬまま、呆然と観察すると、突如私が座り込んだ場所の手前の地面でなにかが落下し、私のすぐ横を通過して壁に突き立ちました。


 私の中指くらいある、白いなにか。よく見れば、それはディーノフレスターの折れた牙でした。


「私の血って、任意のタイミングで爆発させられるんだよぉ。これで牙が折れるの二回目だねぇ」


「ゴブ、ゴボッ………」


 なんて恐ろしい、スキルの応用でしょう。


 つまり、六衣さんは傷付けば傷付くだけ、凶悪さが増していくのです。


「ついでに言えばぁ、こんなこともできるよねぇ」


 唇や牙の半分を失ったディーノフレスターが、火傷を負った舌を伸ばします。どれだけ離れていようが瞬時に届く槍のような一撃は、かつて京一さんたちを苦しめました。


 けれど六衣さんは、脱いだジャケットを無造作に舌に叩き付けて巻きながら、横に移動して回避。伸びた舌は回避を悟るとすぐ回収されるのですが───またボン! と爆発し、ちぎれた舌が地面の上でビクンビクンと蛇のように踊ります。


「ディーノフレスターの舌を………ちぎった………!?」


 京一さんのスキルや、龍弐さんの刀でも耐えたあの舌を破壊したことに驚愕を禁じ得ません。


 やはり、六衣さんこそ最強なのかもしれません。


「あははぁ! 待て待てぇ!」


 六衣さんは可愛く笑いながらディーノフレスターに襲い掛かります。


「ンブ、ゴア!」


 逃亡しようとすればリモート自爆で尻を焼かれ、退路を塞がれたばかりか進路にはこれまでは餌という認識でしかなかった人類が逆に脅かしてくる。交戦しようにも、まともにぶつかれば爆発で肉を抉られる。


 ディーノフレスターにとって、こんなにも最悪な敵はいなかったでしょう。


「えい! やぁ!」


 可愛い掛け声に反して、スキルはまったく可愛くありません。出血する腕に触れた右手でビンタを繰り出せば、ビンタそのものが爆発するからです。


 自爆ビンタが左右で繰り出され、ついに血が乾いたのでしょう。六衣さんはディーノフレスターの前脚の蹴りをヒラリと避け、首の付け根に飛び付きました。



「お馬鹿なお馬ちゃん。ここは広くないから、自慢の逃げ足も使えないねぇ。───マリアちゃん。壁貼って自衛してねぇ。全力で、だよぉ?」



「は、はいぃぃぃいいいいいっ!!」



 言われずとも。残りのスキルポイントをすべて使って、八層の防壁を展開。


 すると、オレンジ色に染まる六衣さん。



 来る。あの京一さんでさえ絶望の淵に立たせた、悪魔の業火が。



「いつなのかは知らないけど、これは私からのお馬ちゃんへのお誕生日プレゼントだよぉ。生まれて来てくれてありがとうねぇ。ハッピーバースデートゥーユー」



 イカれています。



 その、なにもかもが。



 ディーノフレスターに抱きついた六衣さんが、ついにダイレクト自爆を決行。



 私の視界がオレンジ色から赤へと変色します。最終的には真っ白になりました。



 バリンバリンと防壁が割れていく音がします。



 ああ、神様。どうか命だけは助けてください。




いつもありがとうございます。


作者からのお願いです。

面白い、興味が出たと感じていただけたら、ブクマや⭐︎を全力でぶち込んでいただけると作者は尻尾をガン振りして続きを書くことでしょう。感想などがあれば涎も垂らすやもしれません。モチベ維持のためにも、何卒よろしくお願いします!

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