第211話 聞き覚えのある音
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「がは、ごふっ………な、なんだこの犬の………とんでもねぇ攻撃力は………!?」
「まだ意識があったんですね。あなたのレベルは………おそらく30以上なのでしょう。防御力に全振りしました? でも残念ながら、それだけではワン郎ちゃんの攻撃力に耐えられるはずがない」
「は? モンスターとはいえ、まだこんな小せえのに………?」
二十回以上は床と天井を往復して叩きつけられた西坂さんの根性は評価できますが、もう形勢は動かないでしょう。迅くんがワン郎ちゃんを私に派遣してくれた時点で、すでに詰みの形が完成していたのですから。
倒れたまま、もう指ひとつ動かせない西坂さんは、疑問の答えを乞います。油断してはいませんが、それくらいなら教えて差し上げてもいいでしょう。
「忘れました? 迅くんだってスキル持ちですよ?」
「………あ」
「そうです。迅くんのスキルは変動。自分のレベルを操作することができます。とはいえ、自分のレベルを無条件でカンストさせるわけではありません。テイムしたワン郎ちゃんたちのレベルを吸収したり、分け与えたりできるんですね。一緒に旅を続けて数週間。迅くんたちもレベルを上げましたし………今、ワン郎ちゃんに割り振られたレベルは50は行っているんじゃないですかね?」
「ごじゅっ………!?」
「ええ。っていうか、まだ違和感に気付いていないんですね。埼玉ダンジョン最奥部に近いこの場所で、モンスターが少ないと思いません? 西坂さんだって襲われた回数は少ないはずです。それはなぜなのか。ワン郎ちゃんがここに来る前に、あらかた片付けてくれたからでしょう。お陰で私も襲われる回数が少なくて、スキルポイントの消費を最低限に留められましたよ。………それと」
ワン郎ちゃんを労ったあと、西坂さんに視線を向けると、シバ犬に似たワン郎ちゃんは私を救助対象兼指揮者だと認識したのか、一歩前に出て、いつでも西坂さんに殺人タックルを仕掛けられるよう構えました。
「西坂さんのスキルは便利でいて、本当に不便なんですね」
「………あ? なにがだよ」
「だって、時間遡行ができるんでしょう? なら今すぐにでもしたいところ。ですが、まったくその素振りがない。考えられる可能性は三つ。私が油断した瞬間に時間遡行でダメージを無効化して襲い掛かる算段を立てたから。スキルポイントの残りが少なく、回復できる余力がないから。最後はもっとも有力ですね。ダメージそのものを消せるわけではない。つまり、ツケ払いです。ある一定の間隔で、その時に負ったダメージが返ってくるんじゃないですか? 私の攻撃力は高くありませんが、手数だけはありましたし。ここで時間遡行をすれば命取りになる。だからあなたはもう、回復する手立てがない。………ね?」
「っ………」
「なるほど。三つ目が正解でしたか」
まるで名探偵になった気分でした。アニメや漫画で見る方のです。
私のパーティは超攻撃特化でいながら、最年長組を発端に、京一さんや、最近では鏡花さんまで「精神攻撃は基本」のようなスタンスになっています。あれでいて───というのは京一さんに失礼でしょうが、彼は頭が切れます。肉体接触さえすればどんな部位でも新しい関節を作ってしまえるスキルは、対人や対モンスター戦でも猛威を振るうのですが、特に対人戦では冷静に敵を分析できる能力を有しています。
これまで見ているか、観察するしかなかった私は、その背中を見て学び、こうして実を結ぶことができました。こんなにも気持ちがよかったなんて知りもしませんでした。
「回復を可能にしただけのスキルが使えない以上、あなたにはもう勝機はないでしょう。………ワン郎ちゃん。適当にこらしめてください。ただし殺さないように。京一さんたちが処遇を決めるでしょう。とは言っても………あれよりも残虐な刑に処されるのは確定ですが」
「ワンッ!」
「や、やめろ………来るな………来るなぁあああああ!」
命令権が私に移行したため、ワン郎ちゃんは早速西坂さんをオモチャにしに行きました。
悲鳴を上げて逃げようとする西坂さんですが、迅くんと他のモンスターの幼獣のレベルのほとんどを振ったワン郎ちゃんに、新しく取り出した銃など当たるはずがありません。銃弾の嵐を瞬時に遡り、また西坂さんをゴム毬のように轢いて弾き飛ばしました。
「ああ、気持ちいい。泣いて許しを乞うクズ野郎を完膚なきまでボコるのって、こんな最高な気分になれる………あっ」
恍惚とした表情で、思いのすべてを吐露した時にはすでに失態を悟りました。
なんていうか、久々でした。インモラルブロックワード機能が発動したとスクリーンに表示されていました。確かに私の発言とは思えない、コンプライアンスに触れる言葉だったと思います。
ですがコメントでは読唇術を使える方がいたようで、そのまますべてを明かしてしまうと、瞬時に賞賛の声が集まります。アンチコメントもあったのですが、熱狂のお祭り騒ぎの前ではすべてが流れてしまう始末。
「さ、さて………ワン郎ちゃんが来てくれたなら、もう安心ですね。きっと迅くんがみんなを集めて、ここに来てくれるでしょうし。私はこのまま待って───え?」
ワン郎ちゃんにオモチャにされる西坂さんが洞窟の奥に逃げてしまったせいで、すでにフェアリーの視界から去ってしまいました。
その時です。
私の耳に、とある聞き覚えのある音が響いたのは………。
「すげぇな。マリアのやつ」
「すぐに見つけて、お祝いしよっ。西坂のクソ野郎も丸焼きにしてさ!」
「今回ばかりは俺もその接待に参加させてもらう。ほら、ここらにもスライムがいただろ。人間がスライムを丸呑みしたあとって見たくねぇか?」
「それ、グロ画像確定じゃん。胃袋が内側から溶かされて死ぬよ?」
「心配すんなって。奏さんがきっと、スライムの酸性を中和する方法を考えるって。口や鼻から出るのか、尻から出るのか実験しようぜ」
「いいね。じゃ、あたしはケツから捻り出す方に一票!」
「龍弐さんみたいな言い方しやがって。奏さんに怒られるぞ」
全快になった利達が、刺客の女たちを散々踊らせて、駒のように回転させながら壁に突き立てたことにより、俺たちの戦いは終わった。
氷のスキル持ちの女も、ただ転ばされるわけではない。奴なりの抵抗をしたようだが、足元の水溜りを凍らせたのが最後。アイススケーターも真っ青になるくらいの回転力を与えられ、しかも三人が衝突しても衰えず、加速していく一方だった。
そして俺が足元の岩を折り畳んで隆起させると、跳ね飛ばされた三人が壁の岩を自分の体で穿孔し、やっと回転が止まった頃には意識を失っていたようで、壁から下半身を生やした状態のままピクリともしなかった。
その時だ。迅がテイムした鳥の幼獣、通称ピー助とやらが飛んできて、利達の肩に止まった。利達が対応すると、ワン郎の進路がわかるらしく、そのまま俺たちを導いてくれるらしいとのこと。
全員の集合を待つよりも、マリアのところに集まった方が効率もいい。俺たちはピー助の先導で走り出す。
気分は最高だ。マリアがまさかスキル持ちに覚醒するとは夢にも思わなかった。
だが、配信の途中で、フェアリーが拾った音に、俺と利達は愕然となる。
カポーン───と。風呂桶を落とした時のような、蹄の音だったからだ。
ブクマ、評価ありがとうございます。
お陰様で、またもや日間ランキングに載りました!
日頃からの応援により興奮した作者のサプライズです。筆が加速したことにより、金曜日にも更新することができました!
皆様のお陰です。
………本編のこの流れは最悪なのですが。
次回は日曜日を予定しております。間に合わせます。
作者からのお願いです。皆様からのブクマ、評価、感想で、このとおり作者の更新スパンはかなり短縮されました。喜ぶとそれだけ応えてしまいたくなる性格なのです。もし面白い、先の展開が気になるなど思っていただければ、ブクマ、評価、感想などを存分にぶち込んでいただけると、来週の更新もすごいことになるやもしれません。よろしくお願いします!




