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第209話 マリア覚醒

 多分、これを避けられない死として察知する感覚───というものなのでしょう。


 私はパーティの魔改造で、新人の頃とは比較もできないほどの成長を遂げました。


 モンスターには通用しないとはいえど、こうした対人戦なら、スキル持ち以外なら制圧できるでしょう。


 ………それも、昨日までの話なのですが。


 私は死期を早めたくて、西坂を挑発したわけではありません。


 強気に出れたのも、とある確信があったからです。


 きっかけは些細なものでした。


 私は、地割れに巻き込まれても死ななかった。


 この事実が、私を強くしました。自信というわけではありません。もっと根本的なところです。


 つまり、なにが言いたいのか。それは西坂さんで実験して、理解してもらうとしましょう。


「じゃーねー。………うん? ………は?」


 構えたサブマシンガンが、私を撃ち抜くべく発砲します。


 避けられる距離でもありません。あまりにも近すぎた。胸や肩、首や頭を凶弾が貫く───はずでした。


 でも西坂さんが呆然とするように、()()()()()()()()。ご覧のとおり()()です。


「龍弐さんが、以前お酒に酔って京一さんに絡んだ時がありました」


「え、え? なんのこと?」


「敵対したスキル持ちが驚き、狼狽する瞬間を見るための条件です。京一さんと、解答は一致していました」


「どゆこと?」


「わかりませんか? 今のあなたの顔そのものなのに」


 パラパラと私の足元に銃弾が落下し、様々な転がり方をして拡散していきます。


「おそらく西坂さんは、この付近に潜伏していたのでしょうね。そしてフェアリーが自己修復を完了させ、映像付きの配信を開始して、私がいるポイントを割り出した。違いますか?」


「う、うん。そうだけどさ………なんで撃っても死なないのー?」


「それがわからない時点で、あなたは京一さんたちよりも弱い。最年少の迅くんや利達ちゃんよりも。おかしいと思わなかったんですか? ここはダンジョンですよ? あなただってモンスターと遭遇したはずなのに。交戦しながらここに来た。でも、配信者である私はこのとおり無傷です。モンスターに襲われなかったわけではない。レベルだって高いわけでもない。なのに、なんで私は生きているのでしょうね?」


「いや、え、う? ………え、えっと………いやいや、もしかして………は? ま、まさかだけど………」


「そうです。その顔が見たかった! 京一さんと龍弐さんの言っていたことが、やっと私にもわかった!」


 多分、私はダンジョンに入ってから、テンションが最高潮になっているのでしょう。


 狂喜乱舞。心が弾むとか、そんな次元ではありません。


 西坂さんの言う「()()()」が現実となった。私だって真実なのか信じられませんでした。


 でも、そうだったのです。


 私は今、確固たる確信を得て、自制心が利かなくなるほど、自分の異常とも言える成長に、もう叫ばずにはいられませんでした。






「敵対したスキル持ちが驚愕し、狼狽する瞬間。それは私が、スキル持ちに覚醒したのだと発覚した時です!」






「ま、マジ………げべァッ!?」


 まるで潰れたカエルのような鳴き声をしながら吹っ飛ぶ西坂さん。


 私はただ、叫びながら西坂さんに接近し、しかし一メートルもない距離で立ち止まると、両腕を突き出しただけでした。到底、それだけでは届かない。そう、()()()()()()


「が、ふ………なんだ!?」


「わからなければそれで結構です。そのまま気絶していれば、まだ楽に済んだものを。不幸ですね。でもこれは私にも非があります。なにしろ私の攻撃力は、皆さんの半分も無い………ていうか、一割くらいですし。それじゃ西坂さんも楽に気絶できませんよね。すみません」


「くそ………な、なにがどうなってやがる!」


 西坂さんが構えたサブマシンガンから、幾多ものマズルフラッシュが見えました。でも、そのすべてが私に届くわけではありませんでした。


 先程の龍弐さん式「ハラスメントキャノン」なるバズーカ砲を浴びる、西坂さんと同じことを再現してみせました。驟雨のような銃弾を浴びつつ、私は前進するのです。ただの配信者が一変し、化け物のようにも見えたでしょう。


 しかし、これでも配信者としての魂が残っていたようです。悪い癖が出たとでも言いましょうか。私は唐突に立ち止まって、フェアリーに向けてピースサインを出します。不敵に笑いながら。


 コメントも確認します。ああ、なんていうか、もうすごいことになっていました。



《もしかして俺たちって、歴史的瞬間に立ち会った?》


《覚醒者のなる瞬間を初めて見た》


《てか前代未聞だろ!?》


《マリアが強すぎて変な声出た》


《マリアちゃんすごい!》


《テレビですごいことになってるよマリアちゃん!》


《SNSもすごい。たった数秒前のことなのに》


《マリア。雨宮です。各業界からのリモートインタビューとか、特番の打診とかがすごいから、新しいインカムを送ったから、届き次第打ち合わせしましょう。まずはその不届き者をこらしめてください。あとで覚醒したお祝いをしましょう》


《マネージャーさんかな?》


《パパです。本当なら娘がダンジョンにいることが不安でなりませんが、強くなっていく娘を見るのも楽しみのひとつになっています。昨日まであまり眠れない夜が続きましたが、その困難を打ち破っても油断せずに………喧嘩別れした手前、なんて言えばいいのかわからないけど、とにかく無事に帰ってきてください。パパの望みはそれだけです》


《パパ☆降臨》


《マネージャーもパパも本物か? まぁどっちでもいいけど》


《おいおい。速報でも言ってたけどよ、これって………マリアチャンネルの全員がスキル持ちになったってこと!?》


《八人中八人がスキル持ちは笑えない。いやマジで》


《敵対したくねぇんだけど?》


《安心しろ。俺たちはすでに眼中にねぇだろ》


《勝てるとは思えない》


《勝とうとも思えない。初手土下座&命乞い確定不回避レベル》



 いやはや、外界もお祭り騒ぎなようで。


 私たちの行動のすべてが、私の配信によってテレビにも報道されているのは知っていましたが、コメントにもあるように、エリクシル粒子適合者が配信中に覚醒しスキル持ちになる瞬間を収めたのは、史上初だと思います。速報になってもおかしくありません。


「クソ………こんなこと………隠してたのかよ!?」


「いいえ? 私もつい数時間前に確信を持ったので。あの地割れで落下したにしては、あまりにも軽傷だったと思わなかったんですか? 瓦礫の下に埋まっていてもおかしくなかったのに」


「そりゃそうだけど………」


「死ぬかもしれない窮地に立たされて、それでも諦めなかった。などがスキル持ちに覚醒する条件なのかもしれませんね。モンスターに囲まれはしましたが、このスキルのお陰で無傷でいられましたし」


「チートかよ………!」


「そうですよね。以前の私も京一さんや鏡花さんをチートだと思っていました。でも今は違います。西坂さんとも対等でいられる」


「………それはどうかな?」


 ニヤッと笑う西坂さん。なんて気持ち悪いのでしょう。本当に御影そっくりなんだから。初心者だと思って侮っているのでしょう。………まったく。



 叩き潰したくなる。



 いえ。叩き潰す。絶対に。


ブクマありがとうございます。


マリアが覚醒しました。これはこの物語を書いて一ヶ月後に思いつきました。去年のことです。


もしマリア覚醒の胸熱展開に興奮していただけたら、ブクマや☆など思う限りの応援をしていただければ幸いにございます。次回の更新は、皆様からの応援で私が胸熱になれば、また水曜日を予定しております。

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