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第205話 ザマァッ!!

「あなたの装備は刀………それも()()()!」


「ん、そうだね。で?」


「けれどあなたは右手でしか抜いていなかった」


「んで?」


「フリーにしていた左手は遊ばせていた。僕を挑発するだけだと思った………けど」


「けど?」


「あなたは収縮したスクリーンを開いて、僕に見えないよう操作していたのか!」


「はは。当たりぃ。気付くの遅えんだよ雑魚スケ」


 少年は二重の意味で龍弐を見誤った。


 ひとつは力量差。それも絶対的な。龍弐は冒険者としてデビューしたのは京一よりも遅いが、ライセンスを取得したのはずっと前である。ダンジョンに臨む前から着々と準備し、そして実力を伸ばした。群馬ダンジョンレベルなら単独で攻略が可能だと母親に判断された奏よりもレベルが上なのだ。


 そしてもうひとつ。これはエリクシル粒子適合者なら誰しも可能とする技術だ。


 スクリーンの縮小機能を限界まで引き出して、相手に見れなくする技術である。しかしこれをやると自分自身でさえ目視が難しくなるほど文字が小さくなる。


 龍弐は時代錯誤の武芸者気取りの男を相手に遊んでいた時でさえ、これを使ってスクリーンを見ていた。相手に悟られぬようにしながら。


「けど解せないな………確かにパーティ専用のチャットは使えるにせよ、あなたは指を動かす素振りをしていたけど、とてもではないがフリック入力をしていたようには見えない」


「ははっ。確かに、こんなちっぽけなスクリーンじゃ文字の入力はできねぇわな。でも見ることはできる。みんなの安否が確認できりゃ、それでいい。それに、なにもチャットだけが通信手段じゃねぇんだなぁ」


「………まさか………あの配信者か!」


「またまた当たりぃ。賢くなってきたねぇ。オメデトォ。じゃ、バイバーイ」






 希望の光が見えた瞬間でした。


 孤立無援になってから一日以上が経過しましたが、そこでやっと潰れてしまったフェアリーが自己修復を済ませ、全機能を取り戻します。


 今まで音声だけの配信でしたが、フェアリーが回復すればカメラも使えます。映像でこちらの状況を報せることができるのです。


 すると、盛り上がっていたコメントに知ったアカウントが発言したのが見えました。


 そのなかでも特に胸が躍ったのは『これから迎えに行きますんで、待っててくださいっす』というものでした。


 私のパーティの男性のなかでは最年少にして高身長。非戦闘員である私も「姐さん」と慕ってくれる、可愛い幼獣を連れたあの子。


 これまでの私たちはダンジョンを直線的な攻略しかできませんでしたが、彼が参入してからより戦略に特化した形になれたと思います。


 通常ではできなかったことを可能にした今なら、彼の発言の信憑性も向上します。迎えに行く。待て。と言うなら、私はいくらでも待ちます。


「こんなことならフェアリーを庇っておけばよかったかな。そうすればもっと早く、見つけてもらえたのに」


 独りごちる私に、さらなるコメントが殺到します。ここまでくれば、視聴者の皆さんも、私たちがただ無策のまま分断されたわけではないと理解するでしょう。そうなる前から、ダンジョンのなかで雨宮さんとも通信できず、呆然と時間を過ごす私の姿に「異常だ」とか「余裕かよ」とか「命が危険になってるのにボーッとするなんて自殺行為」だとか、違和感を感じているようでした。


「始まりは、西坂さんを薬で半ごろ………いえ、眠ってもらった時でしょうか」


 全快したフェアリーを前に、私は語りかけます。







「そもそも、あんたたちは、マリアの配信があったから追って来られたわけでしょ?」


 もう動かないふたりと、意識が朦朧としながらも地割れのスキルで片足を抜き、追尾を開始する敵に、鏡花は迅を担ぎながら移動を開始する。


「ま、配信者だからね。動画をアップするのがマリアの仕事だし。情報漏洩のリスクは理解してた。………けど、すべてがデメリットになるとは限らない。危機は時としてチャンスにもなるわけ。わかる?」


「なにを言っている………!」


「あんたたちは、まんまと私たちに嵌められたって言ってんのよぉっ! ザマァッ!!」






「自分たちが誘導されてたって気付かないのか?」


「どこに?」


()()()()()()()にだよ」


 心理戦で氷のスキルを使う女たちを出し抜いた俺は、すでに逆転することのない勝利を確信し、しかし残心は解かずに相対する。


 もう遠慮する必要がない。俺の手枷をなっていた制限をすべて外す。なんて心地良いことか。


 女の方は俺の変わり様を警戒し、周りの男たちに停止するようシグナルを送る。たった今溶かした氷でできた水溜りのなかで立ち止まっていた。俺のスキルを警戒はするが、水には作用しないゆえ、ギリギリの距離を保てるよう計算し尽くした動きをしていた。


「テメェらの敗北に招待してやったんだよ」


「あら。そんな不躾な招待状をいただいた覚えはないのだけど」


「いいや。ちゃんと受け取ってるぜ?」


「心外ね。援軍が来ないなら、あなたに勝ち目が増えたとは思えないのだけど」


「それこそ心外って言いたいとこだが、問答も面倒だな。一応肯定しておいてやるよ。その上で考えてみな。勝ち目とやらがどんな増減をしてるのか。ちゃんとテメェの目で分析できてんだろうな?」


「………再分析完了よ。やっぱりあなたの勝機は薄いわね」


 心理戦で一本取られたとはいえ、この戦力差を逆転されることはないと豪語する。


 なんなら俺との傲慢さで勝負してやってもいいのだが、度肝を抜くもっと良い手段が残されている。それを使わない手はない。


「じゃ、聞こうか。なんで俺たちの勝機が薄いって?」


「それを教えたら、心理戦の醍醐味が無くなるじゃない」


「そりゃそうだ。なら、当てようか? 利達だろ。昨日の配信で、利達の体調不良を見たお前らは、今もこいつが戦力外だって考えてる。そうだな?」


「だとしたら?」


「大間違いって奴だよ。やれ、利達っ」


「なんですって!?」


 やっぱりな。こいつらの分析のキーとなったのは利達だった。


 利達はチーム流星でも、マリアのパーティのなかでも最年少とはいえ、エリクシル粒子適合者のなかでもほんの一握りしかなれないスキル持ち。そんな利達が体調不良で戦力外とすれば無視し、全戦力を俺に投入しようとしてたのだろう。


 でもそれが間違いだ。


「………ちょっと。いい加減にしてよね。冗談だとしても心臓に悪いわ」


 こちらの合図でギョッとした女たちが立ち止まり、数秒後に俺を睨む。あれだけの演出をしたのに、なにも起きなかったからだろう。


「今度やったら氷の像にしてあげ───」



「そいつは勘弁っ!」



「は? ぇ、ちょ、んだぁぁああああああああああ!?」


 憤るあまり俺に大股で接近した女たち。そこに利達の咆哮が炸裂した。


「堪え性がない奴らだな。だから()()()()んだよ」


 俺は利達とともにニヤニヤしながら、盛大にスピンしたあとで転倒した三人を見下ろす。


「な、んで………!?」


「いつ、俺が利達が戦力にならないって言ったよ?」


「は?」


「お前たちが勝手に利達を戦力外だと勘違いしてたんだろうが」


「そんな………でも彼女は高山病のはず」


「確かにな。でもそれって、昨日の時点でだろ? 回復する可能性は満載だったわけだ。まだわからないか? じゃ、昨日俺たちの身になにがあったのか言ってみな?」


「あなたたちは分断されて………」


「なんで?」


「なんでって、それはこっちの誰かのスキル………ああっ!」


「馬鹿だな。やっと気付きやがった」


 反撃の準備は完了していると察知しても、もう遅い。


評価、ブクマ、そしてなによりのたくさんのリアクションありがとうございます。


なんと、日間ランキングに入っておりました。とても心が躍っております。

ミスりました。昨日更新するはずが、うっかり忘れてしまい、今日になってしまったことをお詫び申し上げます。

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