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第202話 地割れと氷

「あんた、私を誰だと思って喧嘩売ったの? 舐めてるわけ?」


 鏡花はダーツを投げ、壁に直撃した瞬間に置換。敵たちと同様に壁にしがみ付くが、唯一違うところは直立姿勢であること。敵たちは逆立ちするように頭を下に向けていた。


「うちの()()()()鹿()なら、ある程度なら通用したんだろうけど。私はそんな甘くない。私のスキルはあの()()()()鹿()と違って応用が利くの。あんたたちが想像してもなかった方法で怖がらせてやるだなんて、朝飯前だわ」


「想像もしていなかったが………だが、これは………なんだ? お前のスキルに地面を柔らかくする内容はないはずだ。馬鹿げている! こんなの聞いていない!」


「ははっ。ああ、そういうこと。あんたたちさぁ、本格的に私のスキルポイント削りに来てたのね。本当、笑えないわ。冒険者としてだけじゃなくて、思考までレベルが低いんじゃないの?」


「なんだと………!」


「この程度の挑発に怒る時点で知れたもんだわ。ほら、なにしてるの。遊んであげるからかかって来なさい」


 戦慄したのはなにも敵勢だけではない。


 鏡花にしがみ付くしかない迅もまた、鏡花の強さに粟立っていた。


 しかし道理は納得できる。思い返してみれば、鏡花という存在が、オールラウンダーとしてマリアのパーティに貢献しているかは、もはや言うまでもない。


 彼女のコードは「()()()()」であり、マリアと出会うまでは群馬ダンジョンでその名を轟かせた。マリアのパーティに入って、京一が仮体験でリトルトゥルーに所属してからは「()()()()()()()()()」というぶっ飛んだ謎のパワーワードとミーム化したことでインパクトが霞んでしまっていたが、鏡花は本来なら群馬ダンジョンを単独で行動できるほどの猛者だった。


 そして鏡花は冒険者のなかでも一割しかなれないという覚醒者───スキル持ちであり、そのなかでもほんの一握り、あるいはひと摘みしか存在が確認されていないセカンドスキル持ちである。


 戦闘スタイルは攻防一体を可能としたオールラウンダー。なにかを入れ替える「置換」というスキルが、これ以上となく鏡花の才能を支えて伸ばした。


「減らず口を………ッア!?」


「あら、どうしたの? なにか言いたいなら言ってみなさいよ」


 ストーカーたちが鏡花の挑発で動き出す寸前のことだった。迅の目の前で恐ろしい現象が発生する。


 壁に片足を突き刺して、逆さに吊り下げられていた三人の男たちが、一瞬で入れ替わった。配置はランダムで、パッパッと連続して瞬間移動する。


 それを行ったのはもちろん鏡花だ。満悦した表情で敵を観察している。


「うぷっ………これがお前の………」


 地割れのスキル持ちの男は青褪めてはいたが、辛うじて意識を繋いでいた。それ以外は嘔吐して、以降動かない。失神したのだろう。力なく両腕を降ろしていた。



()()()()()()()っていうの。久々にやったけど、やっぱり対人戦なら便利よねぇ、これ」



「ふざけ………おぇ」


 マリアのパーティは全員が戦いに精通している。モンスター戦は当然として、御影や桑園といったクズたちを相手にしようが、決して負けることはない。折り畳みスキルで骨の関節を増やす京一や、加速スキルで目視不可能な速度で奇襲する龍弐、製造スキルで増えたり曲がったり爆発する矢を作る奏。


 絶対に会敵したくないランキング上位を独占する布陣ではあるが、そこにはもうひとり、鏡花がいる。人間シャッフルという、三半規管を狂わせ、最悪脳にダイレクトにダメージを与える凶悪なテクニックを有しているのだから。


「あんた、私を誰だと思ってるわけ? 舌舐めずりなんてしてないで、さっさと殺しに来ればまだ勝機はあったのに。ま、精々そこで反省することね。言っとくけど、下手に暴れない方がいいわ。壁に突き立った足は、完全に固定したわけじゃないし。暴れると外れて、あんたがご丁寧に貫通させた割れ目に自分から落ちることに───」


「姐さん、来たっす!」


「───っと、無駄口たたいてる場合でもなくなったか」


 鏡花は迅を振り返る。鏡花から離れて壁にしがみ付きながらも、片手は常にフリーにしていた。視線は忙しなく毎秒ごとに右往左往している。


 その迅がやっと告げたのは、パーティのなかでもスキルを用いれば鏡花のレベルをも上回るはずが、彼女に背負われるというお荷物他ならない屈辱に甘んじる犠牲を払いつつも得た吉報だった。






「京一先輩っ」


 別のエリアで利達が叫ぶ。


 鏡花たちと同じく、三人に囲まれつつも、昨日と違って近接格闘戦に持ち込んでからというものの、京一は病み上がりな利達を庇いつつ、敵を一挙に引き受けた。


 昨日よりも気合いが入っている。遊ぶのをやめた印象だ。


 そう。昨日よりずっといい。こっちの方がわかりやすい。面倒なことを考えるのは苦手な性分だ。なんの駆け引きなのかも不明な追いかけっこなんて昨日で飽きていたからな。


「下がってな。絶対に前に出るんじゃねぇぞ!」


 三人の攻撃を引き受け、防御に徹する。


 多勢の猛攻には慣れている。こんなので潰れていては、モンスターが群単位で襲い掛かって来た時に対応すらできない。


 三人はまったく武装しておらず、軽装で、俊敏力にものを言わせた装いだ。けどそれで俺が引き下がると思っていたら大間違いだ。なんたって、()()()からな。龍弐さんの攻撃はスキルを使えば目視すらできない。そんな化け物に強気に出れるくらい散々鍛えられた。


「さて、龍弐さん式で言うなら………小鳥の諸君。餌をねだりに来たところ恐縮だが、俺が出せるのはお前たちが思いもしない予想を裏切るようなフルコースだ。それでもいいなら、たんと食べていきな」


 突きを最小限の動きで絡め取り、関節を極める。敵勢はもちろん俺のスキルを理解しての近接戦を選んで挑んでいる。俺が触れた瞬間に新たな関節が増える寸前の、間隙を縫うような阻止を連発し、攻撃によって仲間を守っていた。


 この連携というのが厄介で、どうにも見抜くことができない。敵どものなかにスキル持ちがいるのかどうかを。


「予想を裏切るフルコースか。それは是非とも食べてみたいわね」


 女が怪しい笑みを浮かべた。


「チッ!」


 舌打ちとほぼ同時に、全力で腰を落とす。両腕の防御を上半身を下に落とすことで省き、回避によって得たわずかなインターバルでスキルを使う。俺たちが立っている通路にだ。


 ガゴン! と岩が割れる。土を巻き上げながら岩を折り畳みつつ、隆起した岩に掌底を連打。その連打すべてにスキルを使うと、割れた岩が飛来。散弾となる。


 だが、予感が的中した。散弾のような岩の破片すべてが敵どもに届かずに落下する。物理法則を無視した軌道だ。重力が増した印象だが、体は重くない。


「景気がいいな。隠さずにスキルを使ってくれるなんてよ」


「ちまちました攻防は嫌いなの。だからさっさと片付けさせてもらうわ。でもまさか、こんな方法で回避されるとは思いもしなかったのだけど」


 岩の破片が落下した理由は、急な重量の増加によるものだ。すべてに氷が覆っている。


 嫌な予感は、まさに物理的な悪寒だった。首筋辺りを冷えた空気が撫でつけたことで、スキルを警戒できた。


 それだけではない。口調もどこか鏡花に似ていて、どうにも彼女が重なる。テクニカル面やスキルの応用においては奏さんよりも上だ。共に行動するようになって今日や昨日の仲ではない。彼女から学ぶことも多かったため、比較することでどんな攻撃を繰り出すのかを注意深く探ることができた。


ブクマありがとうございます。


今週投稿した短編が10位入りして、初めての興奮を覚えました。いやぁ、ビビった。

そんな興奮が筆を進めてくれました。形になるとテンションが上がるものですね。


さて、そろそろこの流れを打ち破る新風を吹かせようと思います。

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