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第189話 西へ

「現在取り掛かっているのは、東京ダンジョンへと続くゲートの捜索。そして使者から課せられた刺客への応戦。先程ひとりを戦闘不能にしましたし、刺客たちのレベルも然程脅威にはならないのかもしれません。なら、私たちが全力で取り組むべきは………」


「東京ダンジョンへと続くゲートの捜索か」


「あ、アルマさん! 冷静に分析してないで、スキル使って俺を助けてぇ! 俺の顎をローストしてもおいしくないよぉ!」


「ごめんなぁ、龍弐。俺、このなかじゃ新参者だから。先輩には逆らえないなぁ」


「薄情なこと言わないでさぁんほぉぉおおおおおお!?」


「うるさいですよ龍弐。先にお鼻を焼いて欲しいのですね。そうですか」


 会話しながら取っ組み合いをする奏さんと龍弐さん。もう滅茶苦茶になりそうな雰囲気だが、ならないのは俺たちが慣れているからだ。慣れって怖いな。マリアなんてもう泣かないし。


「東京ダンジョンへのゲートがあるとすれば、どこだろうな。直進すれば所沢まで行けるかもしれないけど」


「もし所沢に無かったとしたら、左右どっちかを選ばないといけないんすね。どっちかが無ければ元来た道を戻らないといけないってことっすか」


「うわぁ。面倒くさぁ」


 アルマと迅と利達が、スクリーンのマップを忙しなくタップする。


 パーティ共有モードに切り替えれば、マップに自由に書き込めるようになる。俺は最近知ったばかりで、俺のスクリーンには各々が指で描いた文字や記号がリアルタイムで共有されている。


「龍弐さん。なんか知りません?」


「鏡花ちゃんさぁ、今俺の状態見て、なんとも思わないわけぇ?」


「いつものことですし」


「くそぅ! えぇと………俺としちゃ、飯能市とか秩父市とかにあると思うんだけどなぁ。ね、奏さんやぃ。今真面目な話ししてるわけ。だからライター退かし………ちょっと待って? いつの間に左手にも持ってたの? ダメ。左右はいけない。良い子のトラウマになっちまうよぉぉおおおおおお!?」


「飯能と秩父かぁ………」


 鏡花に問われた龍弐さんは、片手で自分のスクリーンをタップするも、その隙にライターを増やした奏さんの理不尽なお仕置きに処され続けられる。


「東京ダンジョンまであと一キロメートル以内の高度まで来た。それから賭けになるなら、いっそのこと進路を変えて、所沢ではなく秩父市跡地を目指すのも手段かと思います」


 マリアが言う。


「そうか。所沢から左右を選ぶんじゃなくて、秩父から東に行けば、戻ることなく探し続けられるってことか」


「はい。ただ迂回することになりますし、結局は同じ距離を歩くことになりそうなんですけどね」


「しかも伝説バカの言ったとおり、壁沿いに歩いて探すことになるのか。………けど、そうするしかなさそうね」


 地道な作業こそ目的を達成できることもある。俺たちはこれまで、偶然にも行き当たりばったりで偉業を成し遂げたこともあったが、本当にそれも偶然で、確率も低かっただろう。それを考えれば、たまには賭けに出ず、着実に成果を求めに行くのも悪くはない。


 本当に未知数な地域に足を運ぶのだ。臆病過ぎることこそ、むしろ効率性が上がるかもしれない。


「じゃ、ここは関越道跡地を沿うルートから外れて、西に向かうってことで。てなわけだからさ、奏さんやぃ。話し合いは終わり。このライター下げて?」


「終わったなら好都合。また始めればいいだけのこと」


「鬼っ畜ぅ」


「黙れ」


 龍弐さんの長い前髪が炙られてチリチリになってきた。異臭も漂う。


 結局終わったのは、この会議が終了した二分後で、奏さんがプラスチック製のライターを握り潰して壊してからだった。


「そうと決まれば早く行こうよ。そこの鬱陶しいのが起きない前にさ!」


 利達がワクワクしながら言った。西坂とやっと別れられることをとても喜んでいる。


 確かにこの会議は、マリアが所持しているフェアリーによって配信されていて、誰だろうと閲覧可能になっていた。ただし、高性能AIがセンティブだったりアブノーマルな内容になったと判断すれば、フィルターをかけることになっている。龍弐さんをお仕置きする奏さんが、ついにライターで炙り始めたところなんて、モザイクどころか画面そのものが暗転していただろう。


 西坂があとでこの会議内容を閲覧してしまえば俺たちを追うことはできるが、一応手足を拘束しているので外すのにも時間がかかる。追おうとしても遠すぎて、簡単には合流できないはずだ。多分。


「必要ないお荷物くんをパーティから追放する、かぁ」


「なんていうかそれ、二百年前に流行ったライトノベルのタイトルみたいだよな」


「ああ、あったねぇそんなの。てかさ、アルマさんってラノベ好きなのぉ?」


「かなり好きだぞ。今だって読んでるし」


「へぇ。じゃあ今度お勧め教えてよぉ。俺も教えるからぁ。エッグい拷問やってる奴なんだけどねぇ」


「コラ、龍弐。まだ配信してるんだろ? まーた良い子には見せられない内容になっちまうじゃないか。でもそんな生粋なサイコパスが、今の龍弐を作ったって考えると、どうにも否定できねぇんだよなぁ」


「あははぁ。アルマさんだって似たようなもんじゃなぁい。廃油飲ませたあと、火刑に処そうかって言った時、マジでこのひとやべぇなって思ったもぉん」


「そいつはお互い様だ。俺だってお前が、吐きそうな西坂の口と尻の穴を瞬間接着剤で塞いで、清涼剤代わりにワサビと辛子を塗ったマスクを被せようって言った時は、こいつヤベェって思ったし」


「あっははぁ」


「ははは」


 うん。ヤベェのはお互い様。これで龍弐さんとアルマが有能でなければ、西坂と同じ処分を受けていたに違いない。


 本当に敵に回したくないふたりだ。味方でいてくれてよかった。


 そして俺たちは、ついに西坂を追放して、爽快な気分で歩き出す。


 配信が終わっても、龍弐さんに昔読ませてもらったライトノベルに登場する悪役が品のない声で猥雑な話しが実際に飛び交って、最終的に龍弐さんだけがまた奏さんにシバかれた。


 ダンジョンのなかを歩くのももう慣れたもので、なんならスキップしながら移動することもできるが、それをやると奏さんにシバかれる。出現するモンスターのレベルも高く、警戒しながら進まなければならない現状。しかし一定の間隔で俺たちの前に現れるため、時間と距離さえ気をつけていれば八人の視覚の外から奇襲を受けることはない。


「こう人数が増えると、もうジープは使えませんね」


 埼玉ダンジョンという、群馬ダンジョンとは異なり地形の変化が激しく、車道に向かない通路が続いていた一方で、西へ進路を変更した途端にジープで移動できそうな幅の通路に出て、時間短縮ができなくなった要因に惜しむ奏さん。


「一応、俺もバイク持って来たんだけどなぁ」


「二人乗りできそうですね」


「おいおいキョーちゃんやぃ。それでもひとり乗れないんだぜぃ? しかも確率的に、野郎を俺の後ろに乗せなきゃならないじゃん。なにが嬉しくて野郎からギューッとされなきゃならねぇんだか」


「女の子ならいいと? セクハラですね。死にたいんですか?」


「まーた奏さんの目がおっかなくなるぅ。冗談だよぉ」


 殿に近い場所から、先導の龍弐さんへ、殺気を惜しみなく混ぜた視線が突きつけられる。もし奏さんのスキルが「製造」ではなく「目からビーム」なら、すでに龍弐さんの胸に風穴が貫通していたところだ。


「ん………んん?」


「どうしました? アルマさん………あの。いくら暇だからって、メンバーの半分が未成年の構成なんですから。堂々と喫煙なさろうとしないでくださいよ」


 カチカチと音が鳴り、アルマの唸りが聞こえたので奏さんが振り返り、呆れた。


「ごめんって。最近吸えなくてさ。なんか口が寂しくなっちまって」


 アルマは苦笑しながら、咥えていた煙草をパッケージに戻した。


ブクマありがとうございます。550ポイントを突破し、テンションが上がります。


明日から私のペンネームでもある愛すべき群馬県の桐生へと旅立ち、七連勤で疲労した体を休めて参りますが、暇があれば書こうと思います。

私もラーメン屋に勤めていた身。好きなものを作り、好きなものを飲めるという環境を堪能してきます。昼から飲む酒はさぞおいしいことでしょう。………多分、飲まないとは思いますが。

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