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第188話 良い子は真似しないでね

「では皆さん。スクリーンを見てください。パーティ用のクラウドに、元埼玉県のマップをアップしました。まずそこから現在地を特定していきましょう」


 議長を務めるのは奏さんだ。いつものことなので静聴しながら言われたとおりの作業を開始する。


 この会議は西坂を黙らせ、ついでに聞いていない内に行わなければならない。


 そして配信中に行った。フェアリーはマリアが俺たちの頭上に設置。全員の頭が見えるくらいのポジションで固定。リスナーの意見も取り入れるべきだという鏡花の意見があったからだ。いつかマリアが御影によって殺されそうになり、反撃に転じた際に、あの超絶胸糞野郎を追い詰めるためにマリアチャンネルを視聴していた理系の大学教授や著名な心理学者やらが味方になり、見事に仕留めた例もある。


「もうそれなりに歩いたし、鶴ヶ島市に入ったって考えるべきかねぇ」


「方向としては川越市に近いだろうな」


 龍弐さんとアルマの意見に全員が頷く。


 改めて思うが、よくここまで来れたなと感心した。


 すでに埼玉県の七割まで縦断していることになる。鉄条のおっちゃんが踏破した場所まであと少しといったところだ。


 ただ、苦痛は感じてはいない。時代が進むに連れて技術が発展し、様々な支援を受けられる恩恵があるからか。


 あとはこのメンバーもそうだろう。今はもう引退してしまった先人たちが現役だった頃、スキル持ちとかいう覚醒者はいなかったはずだ。


 戦力でいえば八人のうち七人が覚醒しているという前代未聞の構成。その戦闘能力は自分で言うのもなんだが、やはり凄まじい。モンスター相手に苦戦したのが数回しかない。むしろ人間同士の衝突に苦労した印象さえあるくらいだ。


 外界から隔離された密閉空間のなかで粒子通信技術で清潔を保ち、テントを張ってプライベート空間を作り、現地調達や少し値が張るが外の食材を購入して手元に置いておける。そして俺たちには料理人がいる。衣食住が揃った完璧なメンバーだからこそ、ここまで来れたんだ。


 鉄条のおっちゃんからすれば「贅沢だ」だの「信じられねえ」だの、やっかみを受けるが、それが技術の発展。てか俺のせいじゃない。


「現在、ここまで来たことのある冒険者は………本当に少ないです。私が記憶している限り、手と足の指の数を足しても、足りていないでしょう」


「へぇ、じゃあ奏さんやぃ。実際に俺たちの目の前で足の指を折り曲げて数えてくれよぉ」


「龍弐。私の笑顔が消えた時があなたが死ぬ時であると宣告を受けたいですか?」


「物騒だねぇ。じょーだんだよぉ、じょーだん。だから、えと………マジで怖いからその笑顔やめてぇ?」


 また龍弐さんの茶々が飛ぶが、奏さんの割と本気の脅迫にチャラけた表情が真っ青になっていく。


 マリアがメンタルブレイクしないよう、初撃を暴力にしないだけまだマシな方ではあるが。


「疑問に思ったんすけど、このまま東京に向かうとして………ん? どこから入ればいいんすかね?」


 もうこのふたりのやり取りに慣れた迅は、もう臆することなく問いかける。良い傾向にあると言える。仲間なんだし遠慮はしないべきだ。


「アルマさん。こっちの方には来たことないの?」


 ヒントを得るべく利達がアルマに尋ねた。しかしアルマは被りを振る。


「残念ながら東松山を拠点にしてたから、ここまで来たことがないんだ。だから俺もノープランでな」


「じゃあ、こういう時に頼りになるのって………鏡花か?」


 俺は鏡花を見る。鏡花は西坂の尻にタイキックをかまし続け、内臓破裂寸前まで追い込んだためスッキリしているかと思いきや、ギロリと睨まれる。


「あんたね………私をなんだと思ってるのよ。困った時に助けてくれる青い猫型ロボットとでも考えてるわけ?」


「そういうことじゃないんだけど、なんていうかな………ほら、群馬でも小腸エリアで行き詰った時、打開策を示したり、ゲートが封鎖されてたら迂回すべきだって言ったろ。知識量は相当なもんだと思ったんだけど」


「ふん。殊勝な意見に免じてキックは許してやるとして………群馬ダンジョンは調べられる機会と時間があっただけよ。埼玉ダンジョンは初めてだし、わからないことの方が多いわ。むしろ、そういうのは事前情報を収集したとか豪語するどこぞの()()()()()()()()()様の方が詳しいんじゃないの? あんたの目的地は東京なんだし。ゲートのひとつくらい知ってるんじゃない?」


「くそ………せっかくその名前を忘れかけてきたってのに掘り返しやがって。………残念だけど、それなら俺も同じだ。埼玉ダンジョンから先のゲートは知らない」


 埼玉ダンジョンに突入するための道のりは、他の配信者パーティの動画を見て学んだが、埼玉ダンジョンで本格的な活動をする配信者は知らない。冒険者だけの純粋な死活をかけた冒険だ。


「どうやってゲートを探すつもりだったわけ?」


「探すっきゃねぇだろ」


「まさかとは思うけど、端から端まで歩き続けるとか言わないわよね?」


「うん。そのまさかだ」


「ハァ………」


 酷ぇ。鏡花だってノープランだろうに。条件は同じなのに、なんで俺だけがこんな扱いをされなきゃならねぇんだ。


「あ、じゃあ………私たちがまさに今、埼玉ダンジョンの奥にいて、東京ダンジョン手前まで駒を進めた先駆けのパーティになったんですね!」


 鏡花と比較して、マリアの表情はかなり明るい。


 日々、チャンネルの登録者数が増えたこともある。俺たちが過激な内容を選びがちで、ファンたちが楽しんでいることもあるだろうが、やはり一番の要因は彼女の言うとおり、俺たちが埼玉ダンジョンを攻略しつつある冒険者と配信者の混合パーティであるからだ。


 群馬ダンジョンや栃木ダンジョン、茨城ダンジョンと比較しても埼玉ダンジョンのレベルは高い。前記した三つのダンジョンをやっと攻略できるほどの実力では、間違いなく命を落とす。戦いにすべてを特化させた冒険者のなかでも選ばれた一握りだけが行動できるレベルだ。


 そんななかで日々楽しみながら冒険をしているのは間違いなく俺たちくらいだ。迅と利達が所属していたチーム・流星のレベルは高かったが、それでも不運が連続して攻略を断念した。


「………という喜ばしい事実もありますが、私たちに課せられた理不尽極まりなく、そして迷惑なチャレンジャーを忘れてはいけません」


「奏さんやい。たった今、俺の顎に突きつけられてるライターもまた理不尽で迷惑極まりないと思うんだワァアッ!? ふっ、ふーっ!」


「お黙りなさい龍弐。次に変なことを言ったら眼球を狙います」


「良い子は真似しないでねぇっ」


「良い子こそあなたの真似をしてはいけないという教訓となるでしょう」


 やっと会話に復帰しつつも、理不尽な制裁を続ける奏さん。龍弐さんの顎にほぼ密着したライターが火を噴くも、神がかった反射神経で上体を後ろに逸らして息で火を消す。ふたりとも教訓の押し付け合いをしているが、俺から見たらどっちも真似をするべきではない。コメントでもそうあった。


ブクマありがとうございます。


私は龍弐と奏さんの絡みが大好きです。

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