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第176話 冒険者の行動履歴

「信じようが信じまいが、変わらねえ事実ってのもあらぁな」


 包丁によって切断され、葉とフィルターがすべて分断された煙草を見つめていた鉄条は、楓の悩みの種のひとつを見抜いていた。


「今、ダンジョンになにがいるか。あのニンジャって奴だけが、第三勢力として動くだけでなく、所在も掴めていねぇ。奏と龍弐だけで勝てるかどうかだ」


「あら。京一を頭数に入れないのね」


「入れてやりてぇのは山々だがよ。あの使者って野郎がどう動くかが問題だ。京一たちは板挟み同然よ。使者の勢力にぶつかるだけじゃねぇ。ニンジャにも追われることになる。ったく………いつからダンジョンは、こうも面倒くせぇ修羅場になりやがった」


「単純なのはあなたの性格と、ただ運が良かっただけよ。未開発地同然だったダンジョンは、私がまだ現役の時代から政府の勢力が手が伸びて、冒険者たちをどう扱えば効率的に経済の回復が果たせるかっていうお題目ばかりが暗躍。私や里山さんには何度も圧力がかかったというのに。あなたはなにも見ていないんだから。もっと仲間に感謝すべきよ」


『鉄条はメールすら見ませんからね。僕が管理して、鉄条を駒に例え、彼の機嫌を損なうことなく双方の意向と利益を天秤にかけるのにどれだけ苦労したか』


「ほら。やっぱり里山さんだけが貧乏くじを引いているじゃない。困ったリーダーさんね」


「うっせ………」


 楓と里山の鋭い視線を無視する鉄条。


 様々な思惑が這いずり回り、利益を奪い合おうとするパワーゲームのなかで常に快勝してきた裏で、里山たちがどれだけ苦労してきたかなど、鉄条だって知っていた。


 ただ鉄条は今も昔も、考えることがどうも苦手で、仲間に丸投げしてきたのも事実。その代わり、ここぞという勝負では負けたことがなかった。実力がものをいうのがダンジョンだ。力こそがすべてであるそこで、鉄条は戦いにおいて負けたことがない。仲間を誰ひとりとして死なせたことがない。


 ゆえに里山も、鉄条を信じていたし、なにより分担された役割を存分に発揮できた。不満はあっても一度だってパーティの解散、あるいは鉄条の更迭を進言したことはない。今でも酒を飲み交わす仲だ。


『ニンジャ、ね。こちらでも調べているけど、詳細は不明なままだ。けど、わかってきたこともいくつかある』


「なんだよ」


『ニンジャの役割さ。ダンジョンの平和維持を謳いながらも、治安維持に貢献する正義の味方。けどそれは表向きな姿で、本当は外国人のエリクシル粒子適合者───通称、エージェントがダンジョンで不正を働いた場合に、逸早く察知して処分する。それが本当の姿だ』


「ああ、スクリーンを不正改造した集団ですね。しかし、それならなにも問題ないのでは?」


 楓の質問に、里山は首を横に振る。


『いえ。処分というのは………処刑を意味しています。不正改造したスクリーンではビーコンが消えるので、その時に殺していると思われます』


「処刑って………おいおい。随分と物騒じゃねぇか。そんなキルマシーンが徘徊してるってのかよ。人間同士で殺し合わせるたぁ………ついに新政府サマどもも、なりふり構ってられねぇってか」


『そうだ。ビーコンが消えた外国人の冒険者の数はこちらでも把握している。そしてニンジャが最終的に狩ったエージェントが発していたビーコンが消えたのは………埼玉ダンジョン』


「くそっ。やっぱ京一たちを追ってやがったか!」


 事態はより深刻さを増す。得体の知れない化け物が、それも不可視ときたものが確実に京一たちを追っている。もしかすると、すでに射程に捉えているかもしれない。


 不安だけが増すなかで、鉄条たちにはなにもできないのが現状だった。


「警告する術はないのでしょうか?」


『こちらから通信することもできますが、システム上、なんらかの特例がない限り認められていません。そしてその許可を出すのも………先日、僕たちに釘を刺そうとしたあのひとたちです』


「使えねえ連中だぜ。利己的な保身と、テメェの稼ぎにしか興味がねぇ奴らが、俺たちが目をかけてるガキどものためにわざわざ自分から動くはずもねぇ。………いや、待てよ?」


 ピンときた鉄条は、伏せていた顔を上げる。


「………あったぜ。ひとつだけ」


「なにをしようというの? 鉄条。まさかあなたに限って、奥さんと鍔紀ちゃんを危険な目に遭わせるようなことはしないと思うけど」


「どうなるかまではわからねぇが、やれるだけやるさ。楓、ここは頼むぜ。ジープ借りるからな」


「え、ちょっと。待ちなさい鉄条!」


 楓が止める前に素早く移動した鉄条は、テーブルの上にあった楓が所有していた二台目のジープの鍵をひょいと拝借。家を出るとガレージに停めてあったジープにイグニッションキーを乱暴にぶち込み、エンジンをかけた。


「どこに行こうっていうの!? それもこんな時間に!」


 追ってきた楓は、こうなった鉄条は気絶でもさせなければ止まらないと知っているので、それは面倒だと諦めてガレージのシャッターを上げてやる。代わりに行き先だけは尋ねた。


「西京都だよ。そこに唯一の通信手段があったのを忘れてたぜ」


「西京都………ああ、そういうこと。ならいいわ。行きなさい。あなたの家族は守ってあげるから。その代わり、ガソリン満タンで返しなさいよ?」


「………そこは無事に帰って来いって言うべきなんじゃね?」


 楓は微笑むばかりで返答はしない。それが答えであった。鉄条は鼻を鳴らし、アクセルを踏むと乱暴なアクセルワークとハンドル捌きで砂利道を走り抜け、数分で国道に出た。


「………里山ぁ」


『なんだい?』


 通信は繋げたままだったので、コーヒーを飲んでいた相棒の応えをすぐに耳にする。


「西京都に着いたら合流してぇとこだが、お前に調べてほしいことがあんだ。まずはそれを優先してくれや」


 あとで文句を言われるかもしれないが、鉄条は隠し持っていたもうひとつのパッケージをジャケットのズボンから出すと、器用に片手で一本抜き取り、ライターで着火する。


 夜風に紫煙が流れていくなかで『どうせ報酬も出さないつもりだろ?』と呆れている里山の苦言を、聞いていないことにした。


『なにを調べてほしいって?』


「冒険者のログだ」


『ログ?』


「ああ。ふたりいる。ひとり目は祭刃龍弐。もうひとりは………三内奏」


『まさか………きみは楓さんの娘さんを!?』


「まぁな」


 しばらく沈黙が訪れた。里山は変わらず衝撃を受けた顔をしていて、やがて正気を取り戻すと、しっかりと首肯する。


『………きみが言いたいのは、そのふたりの()()()()のことだろう? 知ってのとおり、ダンジョンのなかにいる冒険者の行為の仔細まではこちらで把握することはできない。監視カメラの設置は不可能だからね。しかし機械的に送信される信号なら目視するまでもなく把握することができる。その上できみが知りたがっているのは、ふたりの行動履歴。ダンジョンに入ってからのすべて。それくらいなら僕だって調べられるさ。けど時間をもらうよ? なにしろ部署が違うし、僕には調査権限がない。こっそりと侵入するしかないのだから』


「構わねえ。やってくれ」


『やってくれって………それがひとにものを頼む態度かな? なんて言うだけ無駄か。いいよ。できるだけ早く済ませる。きみはきみで、精々西京都で無茶をしないことだ。お互い長生きしたいだろう?』


「違いねぇや。じゃあな」


 鉄条は通信を切ると、耳に装着したワイヤレスイヤホンを外して、タブレット端末とともに無造作に助手席に投げ捨てた。


新作を書きたいのに詳細が定まらないのでなかなか進まないという。だからこっちに浮気しちゃう私です。

今調べているのはドリフトです。しかも自動車ではないという無茶振り。頭おかしくなりそうです。

YouTubeでミニカーで強引にドリフトさせる動画を見ています。坂道の前で車道を傾けることで発生するわずかな荷重移動で………? この仕組みを見つけたひとは天才です。四輪駆動もクラッチもないのに、強引なカーブは成功した時は喝采ものです。

あ、本編から脱線してしまいました。かっこいい大人たちの姿を書きたかったのですが、なかなかうまくいかないものですね。


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