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第173話 製造・加速・置換・回転

 ブロック状の空間に満ちる流星のプロセスは、こうです。


 加速と回転が加わった杭を、鏡花さんが連続で置換しているからです。


 最初に杭をダーツと置換した鏡花さんは、右回転しつつ加速する杭を降下させます。しかし天井の高さは二十メートルほどで、そんな高さではすぐに地面に着弾してしまうでしょう。


 そこで握れるだけ握ったダーツをすべて投げ、上空から斜めに降り注ぐようセット。垂直─縦軸より、斜め軸の方が飛距離が伸び、水力が得られるからです。


 杭はこの空間を何度も走り抜けます。一度たりとも同じ場所から軌道を描きません。


 鏡花さんのすごいところは、この空間を走り抜く杭が龍弐さんのスキルによって毎度加速しているのに対し、正確に置換で回収し、推力を増していることでしょう。


 例えるなら、難易度が一般人どころかエリクシル粒子適合者でもクリアが難しいモグラ叩きでしょうか。それも時間の経過でさらに難しくなるクソゲーです。


 鏡花さんはダーツを投げる作業とスキルの発動を同時に行なっています。高い場所を舞うダーツが置換され、杭が天井近い場所から射出されます。毎秒何十という数が消費されるなかで、鏡花さんは正確に、一度も失敗することなく杭の加速を促すのです。


 一度でも失敗すればすべてが水の泡と化すこの作業は、鏡花さんに絶大なプレッシャーを与えることでしょう。それを精神力でカバーし、限界まで加速する杭を、理想的な速度に達するまで、あるいは自分のポイントの限界まで置換し続ける超人的な試みは、配信を目にした視聴者さんたちを驚愕させます。


 なかには、やっとこの合体コンボの意味を理解した方々もいて、驚愕の度合いも増していきます。



 自動車、電車、飛行機など、動力で推進力を得るためには、十分な距離が必要とされますが、限定的な広域のボックスのようなフィールドでは、十分な運動エネルギーを蓄積することはできないでしょう。



 よって鏡花さんはスキルで滑空をループさせることで、距離を稼ぎました。龍弐さんのスキルも相まって、ループする毎に早くなっていくので、今となっては無数の光が頭上を覆い尽くすような印象でした。



「アルマさんっ」



「了解だ! 京一、迅、退け!」



 ヒットアンドアウェイを絶妙なタイミングで繰り返させていたアルマさんが、鏡花さんの合図により、ついに本格的な撤退を促します。


 京一さんと迅さんが、同時に左右に跳びます。キメラは左側面を支えるスティンガーブルの角をすべてへし折った京一さんへ狙いを定め、追尾しようとします。


 ところが、




「食らえやクソスライムがぁぁぁあああああああああッッッ!!」




 鏡花さんがついに上空の置換ループを終えます。龍弐さんが事前に渡されていたダーツをスキルを用いて投げた先は、キメラの頭上。そのダーツが置換され、絶大な加速と、重力と、超重量で、考えただけでも恐ろしくなるような威力となった杭が、キメラの胴体に直撃しました。



「ギュ、ヒュ」



 キメラが鳴きました。


 肺のなかの空気を、外部からの圧迫により押し出されたような声でした。


 垂直に落下した杭は、加速と重力と重量でキメラを上から押し潰したからです。背中に直撃を受けたキメラは一瞬のことに理解が追いつかず、しかし抗おうと踏ん張るのですが、京一さんと迅くんにより新たな関節が生まれるくらいにボコボコにされたスティンガーブルの角程度では、杭の威力に対抗できるはずがありませんでした。


 脚としたスティンガーブルの角は、本体となるスライムが体積を膨張させ修復材とするも、上からの圧力に耐えられる耐久力は、もう消えていたのです。損傷した箇所から崩れ、数秒で胴体が地面に叩きつけられました。


 するとキメラは、背中から生やしたウッドアームコングの双腕で、付け根辺りを穿ってもなお加速し、圧力を強める杭を抜き取ろうと掴むのですが、五指が触れた途端に弾かれます。


 なぜなら、利達ちゃんのスキルが働いているからです。


 回転をも付随された杭は、貫通力を増し、さらに外部からの介入を許しませんでした。


 ウッドアームコングの五指が弾け飛び、それでも手のひらで押さえて回転を弱めようとするのですが、利達ちゃんのスキルは衰えることはありません。本来鋼鉄をも歪めてしまう強度と筋力を有するウッドアームコングの腕であってしても。


「あと少しだ! みんな頑張れ! それから京一、最後の一撃はお前に託す!」


「俺が?」


 アルマさんが京一さんに、備えるよう言いました。


「見てもわからないだろうけど、あの杭の回転で引火しないよう、俺のスキルで熱量は抑えてある。奏たちは大したもんだ。俺だって全力でやらないとすぐ誘爆しそうで、集中しないとな。だから動けねぇ。京一に託すしかねぇんだ」


「わかった。で、なにをすればいい?」


 キメラのなかにいるスライムの核を潰せ。そうすりゃ倒せる!」


「けどスライムだぞ。核なんてどうやって見つければいい?」


 京一さんの疑問はもっともでした。配信に全力を尽くす私や、視聴者さんたちも「どうやって?」と尋ねています。


 これまで遭遇したボス級のスライムは、すべて伝説の冒険者である三内楓さんによる、尋常ではない倒し方を用いました。


 京一さんは「どうせこいつは試しに触れて確かめるだろう」と先読みし、発熱しないよううまく調合された石灰で酸を奪い、消臭ビーズで水分を奪い、そして最後に液体窒素で凍らせて破砕。これで核が停止したのでしょう。


 二度目は楓さんの娘さんの、奏さんによる───なんというか、敵愾心を丸出しにし、殺意をもって容赦のない倒し方でした。特殊調合などしていない生石灰そのものを投下。それだけです。水に触れた大量の、それこそ何百キログラムの生石灰によって発熱は滞ることなく、燃焼して核が止まりました。


 今回は冷気も熱もありません。特に熱は悪手に直結しています。


「これを使いな。お前たちの倒し方を参考に、作ってみたんだ。案外うまくいくぞ」


 アルマさんがスクリーンから取り出し、投げ渡したのは小さなペットボトルでした。ジュース類のもので、しかし内容物はコーラに似ているのですが、コーラよりも暗い色をしています。


「お前のスキルは物理的に敵を折り畳むんだろうけど………液体までは折り畳めないなんて常識は捨てろ。自分ならできるって信じることだ」


「水も折り畳む………?」


「意味わからないだろうけど、やってみろよ。俺だってセカンドスキルを初めて使った時、俺ならできるって信じてた。エリクシル粒子適合者は、もしかしたらそういう特権を持ってるのかもしれねぇぞ?」


 確かに、水は折り畳むことができません。液体を折り畳むという発想は小さい頃にお風呂で実験して、不可能だと知っています。


 けれどアルマさんの言うように、特権があるのだとしたら。


 私は覚醒者ではないので、その感覚は共有できませんが、少しでも力になれるなら、京一さんを信じます。………いえ、京一さんを信じなかった時など、なかったです。


いつもありがとうございます!


なんと申しましょうか、1話投稿するのにこんな時間をかけてしまうなど、私にとってはなかなか無いことなので、自分でもびっくりしています。


今回のスキルの合体コンボは、去年の秋から温めていました。エスカレーターに乗っている際、手すりなどにビー玉を乗せて転がしたらどこまで早くなるのか。日本最大の長さのエスカレーターから転がしたらどんな速度になるのか………なんていう小学生みたいなことを考えていたその日の夜、製造と加速で打ち出した矢を置換で無限ループし推力を高め、破壊力を増し………という発想です。


案外、いい感じな形になったのではないでしょうか?

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