第172話 えげつない組み合わせ
アルマさんの指示で迎撃を開始する京一さんと迅くん。
私はいつも後ろから皆さんを見ているだけでしたので、奏さんの苦労も知っています。奏さんは龍弐さんと京一さんを幼い頃からよく知り、戦い方も熟知しているので扱い方には難がないものの、最近では迅くんの参入があり、時々指示にミスをすることがありました。
ですがアルマさんは、パワータイプの京一さんと迅くんを、とてもうまく使っていました。
四種類配合のキメラに対し、強引に押す時もあれば、柔軟に退かせる。使い時を知っている指示です。迎撃開始から数十秒。被弾はなく、危うい場面はない。最適な指揮官と言えるでしょう。
「伏せろ!」
急にアルマさんが声を張り上げました。
緊急を要する声音に私はギョッとするのですが、京一さんと迅さんは臆することなく、その場に四肢を突いて頭を低くしました。
その上を火炎が通過します。
早業と言うべきテクニックでした。
キメラも本腰を入れて、私たちと敵対したようです。サラマンダーの頭と胴体と尻尾をメインに有するキメラは、口腔が焼けても神経を通わせていないからか躊躇いなく火炎を吐きます。それも初撃と比較しても圧倒的に縮めたピッチで。
ですがその火炎はすべて京一さんたちの頭上を掠め、物理法則をも敵対したかのような急激な軌道を描き、天に昇ります。
それがアルマさんのスキルでした。炎を使う敵に対し、天敵とも言えるでしょう。キメラが発する火炎は、アルマさんがいる限りすべて照準が定まることはありません。
「キメラの動きを止めるだけでいい! ふたりで撹乱しつつ、足にちょっかいをかけ続けろ。ウッドアームコングの腕は脆くはなったがスライムが新たに露出したな。絶対に触れるなよ! 迅はそのまま押し込め。京一は反対側から逆に押し込んで、キメラを反転させてやれ!」
的確な指示は奏さんにもできますが、京一さんと迅くんを同時に操るまでには至りません。
対してアルマさんはおふたりの特徴を素早く理解し、得意とする接近戦をより良くするべく、キメラを翻弄しつつも奇襲を仕掛けるようにします。死角からの奇襲はもちろん、反撃された際には適宜対応していく様は、まさに圧巻でした。
アルマさんはオーダーを遂行するに相応しい力量をしているため、奏さんも安心してプランに移行したようでした。
「あのキメラ、推定………一トン以上はありそうですね」
「サラマンダーの頭と胴体、ウッドアームコングの両腕とかいうワガママなハッピーセット付き。貫くにゃ骨だねぇ」
「ならば、こちらも同等、あるいはそれ以上の重量を用意するだけです。いきますよ!」
巨大なキメラを破壊するべく、こちらも作業が始まりました。
まずは奏さんが動きます。周囲の木々に触れると、とんでもない光景となります。
触れた木々がメキメキと音を立てて圧縮されていくのです。それも一本だけではありません。密集してはひとつの塊となりました。
地中の根まで巻き込んだ影響で土や岩までもが木々と同化し、やがて………
「………ふぅ。完了です」
連続でスキルを使い続けた影響で、疲労困憊となった奏さんは、掘削機で掘り起こされたような惨状となった地面に、ついに座り込んでしまいますが、成果はありました。
ズズン………と音を立てて地面に突き立ったのは、矢ではなく一本の杭でした。私の身長ほどはあります。密集させて製造した木の数二十本以上。地面までも巻き込んだので、かなりの重量となるでしょう。
「龍弐。あとは頼みます」
「任されてぃ。利達、合わせてね。一緒にやるよ?」
「わかった。龍弐先輩!」
「鏡花ちゃん、そっちはどう?」
「いつでも!」
奏さんから指揮権を移譲された龍弐さんが、利達ちゃんと鏡花さんにコンタクトを取り、隣にいた利達ちゃんの首肯、製造に使われなかった木の枝に立つ鏡花さんの同意を得られた時、ついに全貌が明らかとなります。
ちなみにこの試みは、テスト段階は動画にしませんでした。撮れ高を優先したいという雨宮さんの意向と、不完全なものを見せたくないという奏さんのプライドによる判断でした。
よって、お披露目するのが、今日この時が初めてとなります。
コメント覧はやはり騒然としていました。
当然でしょう。
スキル持ちは特別です。上位となる冒険者パーティにひとりいるかいないかの覚醒率。ふたり揃えば奇跡。それが私のパーティときたら、八人のうち七人が覚醒者。こんな数字は異常です。
そんな異常な数の覚醒者を揃えた私のチャンネルの登録者数は、百万人を突破したところでした。まだ伸び悩む気配がありません。
確実に世間からの注目を集めるこの動画で、初となるスキルの合体。リスナーが興奮しないわけがありません。
『なにしてんだこのマジキチ』
『ヤバ過ぎて意味わかんねぇんだけど』
『合体ってなに? 変形して合体?』
『マジキチ姐さんのネーミングセンスがダセェ』
『おい。男ひとりに女三人で合体って羨ましいぞ』
『冷静に考えて、製造ときて加速と回転と置換を組み合わせる必要あるのか?』
『あるに決まってんだろ。マリアチャンネルのメンバーは全員どこか頭おかしいんだからよ』
『やり遂げろよ。迅。利達。全員で見守っているぞ』
そう。そのとおり。頭がおかしいのです。
残念なことに、遺憾ながら私もそのひとりに認定されているのが現状ですが。
そんなコメントを他所に、ついにプランが本格始動します。
「ぬ、ぐっ………やるぞ利達ぁっ」
「あいよっ」
龍弐さんは超重量の杭を両手で掴んで、数センチ浮かせました。どんなストレングスをしていれば、一トン以上の重さを持ち上げられるのでしょうか。
「今だ!」
「いくよ鏡花パイセン!」
数センチ浮いた杭に利達ちゃんが触れたその時、ふたりの手が霞みます。ですがそれよりも先に、杭が地中に再度埋め込まれる寸前で消失したのです。
私はフェアリーと視界をリンクさせます。今のフェアリーは私の視点で撮影をする状態にあります。アップデートで追加された新機能です。
私は視点を上に向けました。実験でプロセスを熟知していたからです。
それからは目まぐるしい景色となりました。はっきりと申し上げれば、初見しかいないので、この配信でなにが起きているのか理解できる方はほぼいないと思います。
奏さんのスキルで超重量の杭を作り、持ち上げた龍弐さんが加速を、触れた利達ちゃんが回転のスキルを付随。
消えた杭は上空へ。これは鏡花さんのスキル、置換です。
ゴッ。と空気が鳴ります。
このボックスのような閉鎖された空間で、頭上に幾多もの流星が走った。そんな印象でしょうか。
「お、恐ろしいことを考えるなぁ………覚醒者が揃うと、こんなえげつない組み合わせができるのかよ」
視線を逸らして幾多もの流れ星と化した杭を見たアルマさんは、どうやら仕組みを瞬時に理解したようでした。
「回転力を緩めるなよ利達! 全部鏡花に委ねなぁっ!」
「わかってるよ龍弐先輩っ。絶対に止めないから!」
私も初めて知りました。自分のスキルが他人のスキルに介入、あるいは干渉できるなど。おそらく鏡花さんの許可、あるいはふたりのスキルを組み込む前提での演算処理を可能とする頭脳があるからでしょう。
アルマさんの仰るとおり、これはえげつない組み合わせだと思います。
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