表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

175/215

第170話 出たなスライムッ!!

 ところが、攻略の糸口を早くも掴みかけたその時だった。


「チッ………学習が早ぇな」


 アルマが毒づく。


 今の徹甲榴弾で激しく損耗させたはずの前足の付け根から、水色の液体が溢れ出す。俺たち人間で言う、負傷した傷口から血液が滲み出るような現象だ。


 ただ、次の現象については人間とは異なる。それがアルマが舌打ちした理由だ。


 水色の液体───亜種進化したスライム本体が、損耗した部位をカバーした。ジェル状の液体は地面に落下することはなかった。



「スライム………ふ、ふふ………死すべしッ!!」



「龍弐。奏のアレ、なんだ?」



「あー、大したことないよぉ。親子共々、スライムを見たら絶対殺したくなる精神的な発作みたいなもんだから」



 やはりキメラの本体がスライムであると認知していても外見が合成獣とあれば別だが、スライム本体を視認してしまうと豹変するんだな。


 しかし、一方で体内にスライムがいると視認しただけで、さらなる攻略法の糸口を掴んだことも事実だ。


 三内家は徹底してスライムの攻略方法に注力している。俺のような駆け出し冒険者でも難なく行える薬品の散布から、奏さんのような原料をぶち込んで抹殺する方法まで。必ずなにかあるはず。硬い表皮を突き破って直接攻撃する、それこそ俺では考えもしなかったような鬼畜なやり方が。


「………ともかく、こうチマチマやってるだけじゃ手数も足りず、ジリ貧に陥るか。ならこっちから打って出る。奏。龍弐か京一を出したいんだけど」


「殺す殺す殺す殺す。殺ぉっすッ! スライムは絶対にッ、殺ぉっすッ!!」


「あー、うん。なんでもない。ごめんな」


「ふひゃひゃひゃひゃ!」


 ダメだこりゃ。新種のスライムを見たばかりに、いつもの発作が酷くなる一方でコミュニケーションにもなりやしない。


 迅と利達が不安そうな目を向けるのにも気づかず、奏さんは自分の世界に浸っていた。


 コメントを見てみると、奏さんの壊れっぷりにリスナーが爆笑するか戦慄するかのどちらかだ。


「とりあえず、奏がああなっちゃ指揮系統がどうのとか言ってられないか。俺がやるしかない。奏が言ってた()()()()()()とやらの全貌が見えないから、一旦冷静になるまで好きにさせておくか。………京一と龍弐は奏を援護。迅と利達はふたりに続いてさらにフォローの準備。隙が生じたらぶち込んでいいぞ。マリアの護衛は俺がやる」


 想定外のアクシデントに見舞われてもアルマは平常だった。


 飲食店といえば、時としてアクシデントの塊みたいな部分もあって、慣れているのかもしれない。元店長なら、冷静に対処するスキルが要求される。アルマは特に長けていた。


 独断先行した奏さんに慌てることなく、すぐに俺たちの戦術を組み立てた。


 円錐形の一点突破だ。それも間髪入れない波状攻撃。


 暴走気味の奏さんが獲物を前に舌舐めずりしながら爆発する鏃をこれでもかとスキルで生成し、連射。それも至近距離で。


 キメラは当然抵抗するのだが、水上さえ走り抜ける敏捷力を有する奏さんを、あの巨大な図体に比例した超重量では動作が鈍過ぎて捕らえることができない。


 そこで唯一の機動力を有する、背中から生えたウッドアームコングの双腕が振るわれる。が、それさえも奏さんを捕獲はできなかった。猛追した龍弐さんが五指を始めとして、手首から肘まで関節を輪切りにしたからだ。


 ただ、そうなるとキメラのスキルが発動する。キメラは亜種に進化したスライムが捕食したモンスターの死骸を纏った姿だ。歪な受肉をしたキメラは肉体が損傷すれば体内で筋肉の役割をしているスライム本体が漏れて傷を覆う。先程、俺と龍弐さんの攻撃でスティンガーブルの角が折れた際のように。


 輪切りにされたウッドアームコングの肉が地面に落下する前に、断面から放たれたスライムが損傷した部位を内部から糸を通すように接続し、五指にまで達すると、生地に縫い付けた糸を引くように肉片を密集させた。


 面倒なことにそれで修復が済んだのかと思いきや、気になる点がいきなり露見する。


「ウッドアームコングの腕からスライムが溢れてやがる」


「損傷した部分だけを覆うんじゃないの?」


 俺と龍弐さんの後続の、迅と利達が目を見張った。


「切断面を強引かつ迅速に癒着させようとしてんだ。最速の回復薬みたいなもんだよ。退け。迅、利達。あれに触れるなよ? 取り込まれるぞ!」


 すぐにアルマの指示が飛ぶ。俺たちに続こうとした迅と利達は、これでも俺たちと共闘した回数が多く、その前もかなりの場数を踏んでいるので急ブレーキをかけるような愚かなことはしない。疾走する速度を維持したまま軌道を修正。キメラのサイドを抜ける。


「けど、回復薬ってんだったら、せっかく負わせたダメージが………」


 利達がスライムで覆われたウッドアームコングの双腕を崩せるチャンスを逃したことに嘆く。


 俺も同じ考えだったのだが、どうやらアルマにとっては違うらしい。ハンドシグナルで俺たちに戻るよう指示し、彼の声が聞こえる場所まで走ると、作戦の意味を知る。


「実は体表面を損傷させても、キメラにとってはノーダメなんだよ」


「え、なんでっすか?」


「あれは本体じゃないからな。考えてもみろよ。例えば俺たち。皮膚や筋肉を切られれば痛いけど、服はどうだ? 服を切られても痛くはない。あのキメラがやってるのは、切られた服を修繕してる行為なんだよな。………でも、お前たちが敢行した攻撃は、決して無意味じゃない」


「なんで? アルマ先輩」


「纏ってる装甲を崩せば、キメラをキメラたるものにする本体が現れるだろ? そう。スライムだ。俺はどうにもスライムってもんの倒し方がわからなかったけど、マリアチャンネルを見てから変わったよ。な? 京一。お前には感謝してるんだ」


「………あ!」


 アルマは生粋のマリアチャンネルのファンで、俺や鏡花が参加していない、それこそチャンネル開設時から見ているような古参にして強者。だったら、俺と鏡花がマリアと行動を共にするようになった時期を見逃すはずがない。


「それって………あ、あの」


「あー………ごめんな。マリアと鏡花にとっては複雑だよな。ある意味でセクハラだった。他意はないんだ。でも不愉快だろうし、謝るよ」


「い、いえっ。とんでも、ないです」


 アルマの謝罪にマリアは恐縮し、うまい飯要員を失いたくないがため、怒るに怒れない鏡花が苦虫を噛み潰したような顔になる。それに丁寧な謝罪を受けては、怒りの矛先もぶれる。で、行き先を失った矛先は俺に向き、なせか尻を蹴られた。


 あれはマリアと鏡花と再会した日、ボススライムを討伐した時だ。コメント覧が騒然とし、噂が拡散した原因───俺のスライムの倒し方についてだろう。


「要するに、スライム本体を引きずり出せば、京一がやった特殊ブレンドとかいう石灰を───」





「出たなスライムッ!! 全世界の女の敵ッ!! 死ねぇぇえええええええええええッ!!」





「───あ、あれぇぇええ?」


 アルマが困惑するのも無理はない。


 アルマが指示する前に、戻ってきた奏さんがスクリーンからこれでもかと持ち込んだ石灰を、跳躍して投げつけたからだ。


 あれは生石灰。俺が楓先生から支給されたのとは違う。スライムを絶対に殺す超強力なやつ。


 二十キロは詰まった袋を軽々と片手でぶん回し、キメラに投げつけた。


お久しぶりです。生きてますよ。


まずは………


たくさんのブクマ、評価、感想をありがとうございます!


なんと更新を怠った一ヶ月で、まだこんなにも注目され、見捨てられていないことに感謝申し上げます。


更新できなかった理由は………ええと、色々あるのですが。勉強し直すとか。新作に浮気したとか。ダブルワークで週七勤務になったとか。

と、とにかく色々あったのです。風邪をひいてる時に始めた「お願い社長」とかに夢中になってたとか、断じてありませんからねっ。


とりあえず今後は、更新できる時にあげていこうと思っております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ