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第161話 意味不明なモンスターの形跡

 フィールドボックスと呼ばれるジャングルを走るアルマを追いかけること一分。


 その体運びから、やはり上位であることがわかる。ジャングルに慣れているだけではない。


「アルマ?」


 そのアルマが急に立ち止まったので、ぶつからないように減速しながらその背中の前で立ち止まった。


「これ、どう思うよ?」


「………でけぇな」


 アルマはしゃがんでふたつの情報を示す。


 ひとつは地面に残る痕跡。そしてもうひとつは、その痕跡の上に無造作に落ちていた鱗だ。


 俺がでかいと称したのは、どちらもであるからだ。


 アルマは痕跡を調べ、そして周囲を警戒し、やがて少し離れた場所でこちらを見ている龍弐さんたちに合図した。来てもいいと。


 合流した六人も、それを見て息を呑む。


「これは………赤い鱗、ですね。しかし」


「ああ。少なくともお魚さんのじゃないねぇ」


 龍弐さんは痕跡の上に立ち、鱗を指で突き、問題無いと判断したのか両手で持ち上げる。そう、その一枚は両手でなければ持ち上げられないほどのサイズだったのだ。


「迅。触ってみなぁ?」


「う、うす。………熱っ。これ、熱いじゃないっすか!?」


「うん。ギリギリで持てるくらいの熱さだねぇ」


 俺の顎を伝う汗の原因が判明した。この鱗が発する熱だった。


 龍弐さんに促されて触れた迅が驚愕し、興味から触れてみる利達と鏡花も同じ反応を示す。


「爬虫類のっぽいけど、こんなしっかりとした鱗って、そうないよねぇ」


 動物に詳しいので是非を答えられなかったが、普通でないことはわかる。


 傷付いてはいるがしっかりとした半透明の鱗だ。武器に加工すれば立派な盾になるに違いない。


「七海さん。これいるぅ?」


「いや、特には必要ないな。フライパンに使えそうだけど、もう持ってるし」


「あはは。七海さんはなんでも調理器具にしたがるねぇ」


「職業病かもな」


 素材の所有権を争わないでよかった。といっても、今のところアルマに分があるのは確かだ。まだ同行してもらっているだけでパーティに正式に加入していないのだから。ここでへそを曲げられても困るし、必要だと主張するなら譲るしかない。


「………一時間、いや二時間か?」


「なにがです?」


 鱗が落ちていた付近を見るアルマが呟いたので、マリアが尋ねた。


「地面の焼け具合と、この鱗の冷却具合から見て、剥がれてからの時間を見てた。わかるか? マリア。このフィールドには、この鱗の持ち主がいるんだよ」


 また息を呑むマリア。


 あまりのサイズに圧倒されていたから忘れていたが、剥がれたということは、この鱗を持ち、そして痕跡を残したモンスターが存在するという証拠だ。


「とりあえず、この鱗はマリアちゃんが業者に送っていいよ。業者がこれの正体を知るのが先か。俺たちがこの正体を見るか。時間の問題だろうねぇ」


「た、戦うんですか!?」


「あちらさんがその気満々ならねぇ? ………ディーノフレスターレベルのヤベェクソモンスかもしれないし。もし会敵したら………ブチ殺すしかねぇな」


 龍弐さんが本気モードに入り始める。


 ディーノフレスターとの戦いもそうだった。初見でも刀を多用しなかったものの、本気で殺すつもりで攻撃していた。それと同じことが起きている。


 なぜなら今、俺たちの目の前にあるこの痕跡の異常性がすべてを物語っているからである。


 地面を掘り起こすほどの強い圧でなにかが引き摺られた。そこに落ちていた赤い鱗。


 巨大ななにかが通過したのだ。形状から見るに、それが尾であることがわかる。


 ただし、不可解な点も見受けられた。


「これって尻尾よね? でもおかしいわよ。これ」


「なにがです? 鏡花さん」


「尻尾を引き摺ったにしては一直線だし………なにより足跡がない。それにこの周辺だって木々が倒されてないもの」


「………あっ」


 流石は鏡花だ。やはり俺と同じポイントに着目していた。


 動物の尾はその種類によって様々な形状と役割があるとされている。


 ではこの爬虫類っぽいモンスターの尾はなにかといえば、バランサーを兼ねているに違いない。前後左右の四肢で歩くため、尾で体を支えているのだ。


 であれば、左右に揺れる体のブレを軽減するため、尾も連動して左右に動くはず。が、この形跡にはそれがない。まるで白紙に筆で一本の筋を書いたように伸びていた。


 また、鏡花のいうとおり、四肢を突いて歩いた形跡がまるでない。龍弐さんが降り立ってもすっぽり収まってしまうほどの太さゆえ、かなり巨体であると推測できるのだが、歩けば災害のように周囲が荒れ果てるはずが、まるで嘘のようにそれがないとすると───


「フェイクってことなの?」


 利達が首を傾げた。


 十分にその可能性があった。むしろ他の冒険者たちが俺たちのような後続をビビらせるために人為的な工作という姑息な手段も疑える。


「とにかく、はっきりさせる必要があるでしょう。龍弐。木の上に。迅くんは偵察を」


「オーケー」


「了解っす」


 まずは情報収集が先決だ。ビビり散らかして無暗やたらに歩き回るよりも、ここに留まってできる限りの情報を集めた方が、物事を優位に運べる。


 龍弐さんは太い木を垂直に駆け上がる。マリアから操作権限を譲渡された利達がスクリーンでフェアリーをマニュアルで動かして龍弐さんを追わせた。マリアは動画配信に集中すると同時に、雨宮から今の鱗の鑑定報告待ちをしなければならない。とてもではないがフェアリーの操作まで手が回らないため、細かい作業が得意という利達に任せることとなった。


 迅はテイムした三匹のモンスターの幼獣をオブジェクト化し、スキルで自分のレベルを均等に振り分けると探査任務に向かわせる。ちなみに俺はニャン太という猫の幼獣を見た途端に凶暴化した鏡花を取り押さえる役目だ。最近はスキルを使って来やがるので、これがまた面倒だ。ニャン太が逃げるまでの時間、見極めが重要となる。


 マリアと奏さんは利達のスクリーンを見ながら分析を開始。フィールドボックスと呼ばれるエリアは周囲に壁がある分、探索も限定されるので、短時間で済む。


「………いませんね」


「やはり、七海さんが仰ったように、かなりの時間のなかで移動してしまったのかもしれませんね」


 これだけの痕跡を残せる巨体なら数秒で発見できそうなものだが、いないとなると別のエリアに移動してしまったのだろう。


「まぁ今後、遭遇しなければそれで良しってことでいいじゃん。こんな意味不明なモンスターと戦うってのも疲れるだけだしねぇ」


 木から一気に跳躍して降りた龍弐さんだが、言動とは裏腹に好戦的な輝きを瞳に宿していたのを見逃さなかった。


「三匹が戻ってきたっす。他のエリアにも同じような痕跡があったらしいっすけど、デカいモンスターはいなかったそうっすね」


 この短時間なら、ボックス三つくらい先が限度だろうが、それでも安全は確保されたも同然だ。そこから先はまた未知な世界だが。


 なにもかもが出たとこ勝負。勝ち目は………まだ不明。


たくさんのブクマありがとうございます!


いや、ほんと………え?

PVでさえも過去最高の数値に達しました。どうなっているんでしょう?

もしかしてどこかで紹介されたり?


なにか事情が詳しい方がいらっしゃいましたら、「ここから来たよ」とだけでも教えてくださると幸いです。

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