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第14話 石灰・消臭ビーズ・液体窒素

「まぁ………そうだな。これは俺を教えてくれたひとが考案したから、全部俺の成果じゃねぇんだが?」


「いいわよ、そんなの。まず最初になにをぶち込んだわけ? まさか劇薬?」


 鏡花さんはズイと顔を寄せて尋ねます。ただ勢いが良くて、京一さんは咄嗟に顔を逸らしました。



《お。映像復活した》


《だぁああああ! ふたりとも着替えてるじゃん!》


《ボススライムめ。仕事しろクソが》


《おい待て。皆殺し姫に詰められてるコイツ誰?》


《ご褒美を独り占めしてんじゃねぇぞ馬鹿野郎》


《皆殺し姫ちゃん着替えてるけど、やっぱり相手はスライムだったか》


《クソがっ! カメラの機能落としてんじゃねぇよ!》


《音しか拾えなかった………でもこれはこれで》


《マリアちゃんのいつもの悲鳴でお耳が幸せ》


《変態同志め。大好きだぞ》


《思い出した。こいつ昨日ワーウルフ倒した奴だ》


《皆殺し姫ちゃんのおこぼれをもらおうとした奴な》


《てかボススライムを倒したってどういうことだ?》



 今日もコメントがお祭り状態です。リアルタイムで送られくる皆さんの「()()()()()()」は、鏡花さんからボススライムの遺骸へと興味が移り始めました。


 私は京一さんへフォーカスを絞りました。多分、確証はないけど、なぜか前代未聞の方法を提示してくれると考えたからです。



 そんな私の予想は、見事的中しました。



「スライムって言えば服を溶かすだろ。次に肌。筋肉から内臓、骨って順に。つまり強烈な酸性ってわけだ。俺はそこら辺、詳しいわけじゃないけど、理屈は叩き込まれててよ。中和っていうんかな。酸性を消せばいいんだよ」



「酸性を、消す………!?」



「そう。そこいらで擬態して待ち構えてたスライムなら振りかけるだけで見破れるぞ。でもあんなデカいのじゃ話しは違う。呑み込ませないとな。だから合計百キロの石灰をぶち込んでやった」



 酸性を中和するにはアルカリ性を混ぜるしかない。だから石灰。


 合点がいきました。なぜ京一さんがボススライムのなかにパンチをしても服も拳も溶けなかったのか。


 あの時、すでにボススライムの酸は中和されて、一時的に無害化されていたからです。



「体表面が少なくなった理由は?」



「そこは簡単だ。消臭剤を使った」



「消臭………えっ?」



「業者が来た時に買い溜めておいたんだ。アーカイブに、昔の………二百年前くらいに配信された動画があっただろ? 消臭ビーズを水に漬けたら膨らんだってやつ。強烈な酸性じゃなくなればビーズは溶けない。持ってきたなかには乾燥して小さくなったものもあったからな。十キロくらいぶち込めば、スライムの水分も吸収される。人間でいえば腹一杯になった状態だ。動きも鈍るだろ。ああ、これは俺のアイデアな。本当はもっと本格的な吸収素材使うんだけど、そこは持ち合わせがなくてな。ハァ………また後で買っておかないとな。余計な出費をしちまった」



 狂ってる───としか言いようがありませんでした。



 私はダンジョンで配信者になるために、事務所でそれなりに勉強をしてきました。自分の身は自分で守らなければならない環境で生きていくために。


 雨宮さんのスパルタ授業でダンジョンモンスターの特徴について学びました。私に戦力は望めませんでしたが、一応はエリクシル粒子適合者であるし、倒し方を学んで困ることはなかったからです。


 しかし、京一さんのダンジョンモンスターの討伐方法は前代未聞でした。


 スライムの酸を無害化し、水を吸収し、凍らせる。


 三つの要素を、なんの困難もなくやってのけました。


 最後の液体窒素は高額なためそう手が出せませんが、石灰や消臭ビーズなんて、今時入手しようと思えばどこでも買えます。通販サイトを使えばすぐにでも。


 誰でもすぐ手に入る道具で、年間死者数の上位に君臨するスライムのなかでも特殊固体であるボス級を倒してしまった。そんなの、誰が予想できたでしょうか。



《ヤベェぞこいつ。なに言ってやがる》


《スライムの動きを石灰と消臭剤で止めた………だと?》


《おいおい。そんな冒険者、聞いたこともねぇぞ!》


《面白いぞこいつ》


《ちょっと石灰と消臭剤買ってくるわ》


《馬鹿が。消臭ビーズだって言ってただろ。スプレーかけてどうんだ》


《馬鹿はお前だ。普通、そんなことする前に捕まって死んでるわ》


《一体何者なんだこの野郎は》



 またコメントが大盛り上がりです。


 そうですよね、()()()()()


 私だって、そんな方法があると知ってても同じことをしようとは考えません。リスクが高すぎます。


 あまりの衝撃に、現実的ではあるけれど、何年かかるかもわからない迷路を数秒で攻略できるような抜け道を知ったような顔をする鏡花さんでさえ驚愕していました。


「あ、あなたはいったい………いえ、それよりも、あなたにそんな方法を教えたひとって………誰なんですか?」


「あー、これは教えてもいい………か。内三(なみ)(かえで)ってひと。知ってるか?」


「ナミカエデェッ!?」


「うぉ、声デカ………」


 何度衝撃を与えれば気が済むのでしょうか、このひとは。


 コメントも内三楓の名前を聞いた途端に倍増します。



《ナミカエデって誰だ?》


《馬鹿野郎っ。ダンジョン探索の歴史に名を刻んだひとりだろうが!》


《冒険者業界じゃ伝説級の偉人じゃねぇか》


《じゃあこの頭おかしいのは、ナミカエデの弟子ってことか?》


《楓おばちゃんってそんなすごいひとだったんだ》


《十年以上も前に引退してからなにしてんだろうと思ったら、弟子持ってたのかよ》


《生きてたんだ。内三楓》


《ん? ちょっと待て。上の奴誰だ? おばちゃん?》


《こいつが内三楓の弟子だったら、突拍子もない方法でスライム倒したのも納得できるわ》


《スゲェ。マリアチャンネル登録して初めて良かったって思ったわ》


《まぁダンジョンでセクシー路線の追求するとか指針にしておいて、やってること全部コメディだったしな。俺も初めて感動した》



 みんな興奮しています。


 それにしたってコメディだなんて………酷いです。私は全力で、精一杯に、命懸けでモンスターと追いかけっこをしていただけなのに。


 こうなったらマネージャーの雨宮さんに、今変なことを書いたひとの個人情報を特定してもらって、名誉毀損で慰謝料をせしめなければ気が済まないというもので───




『すごい………あの内三楓に弟子がいたなんて。………マリア。今朝の妥協は無しよ。プラン変更。内三楓の秘蔵の弟子っていう折畳京一を、なんとしてもゲットしなさい。さもなくば食事は一週間はスープだけになると思うのね。そんなの嫌でしょ? お肉大好きだものね。じゃあ死に物狂いでやらないと』




 ───やっぱり雨宮さんの指示はパワハラなのでしょうか?


 先に雨宮さんを訴えた方がいいのでしょうか?


ブクマありがとうございます!


酸性を中和するにはアルカリ性………まぁ、簡単な理屈ですよね。


鏡花が勝てなかったのはとある条件があるからで………というのは別の機会にでも。


やっとヒロインたちと合流できましたので本格的に進めていくことになります。


スライム絶対許さないウーマンたちの対策が面白かったという方はブクマと⭐︎を可能な限りぶち込んでくださると嬉しいです!

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