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第144話 うん。ヤベェ奴だ

「お前、いつもこうなのか?」


「こうって?」


「自爆したあと、動けなくなるようじゃまずいだろ。よく生きて来れたもんだ。周りに生き残ってたモンスターがいたら死んでるところだぞ」


「んふふ。それなら大丈夫。みんな死んでるもん。例えそこがモンスターハウスだったとしても、それごとふっ飛ばしちゃえば、襲撃なんて受けることはないんだよ?」


 可愛い笑顔して、なんて物騒なことを言いやがる。こいつ鏡花より凶暴だぞ。


「でも騒ぎを聞いて、モンスターが迫ることだってあるだろ」


「その頃には回復して、次の爆発を起こせるよ。京一ちゃんはもうお友達だし、死なないよね?」


 ふざけんな。そんなのいくら命があったって足りねえぞ。


 ゾッとしながら、視線を外す。今は六衣の目を直視することはできねえ。ちょっと視界に入った六衣の目は、まともじゃなかった。こうしてうつ伏せになっている狂乱女を膝枕し続けるだけでも寿命が擦り減っていくようで、一刻も早くこの場から逃げたいのに実行できないもどかしさに心が焦らされていく。


 ダメだ。このままじゃ心が折れる。こういう時は思考を切り変えよう。もっとポジティブなこと───例えば、さっき軽く見えたが、仲間が撤退した方にはなにもなかった。爆発に抗った形跡などだ。つまりみんな逃げ切れたという証明ができる。


 きっと助けに来てくれる。今はそれを信じるしかない。


「ねえ、京一ちゃん」


「なんだよ」


「爆発する子は、嫌い?」


「………」


 どう答えるのが正解なんだ? これは。


 肯定すれば六衣に粘着され、否定すれば六衣になにをされるかわからない。


 詰んでね? これ。結局なにを選ぼうが破滅を免れない。二百年前のゲーム実況動画を見た時と同じだ。クソゲーなるものに挑み、二択を迫られるが、どちらを選ぼうが理想的なエンディングを迎えられず、退室がトゥルーエンドの条件など、誰が気付こうか。


「それは個人の………」


「私ね」


 聞けよ。違う。聞かなくていい。待つことがトゥルーエンドの条件だったか。勝手に喋らせることで破滅を回避できるなら、俺が回復するか、仲間たちが到着するかを選べるならいくらでも喋らせてみよう。


「喧嘩なんて、したことないの」


「へぇ」


「小学生の時に同級生の男子と言い争いっぽいのはしたことあるけど、結局はその日の夜にその子と親が来て、頭を下げられちゃった。家は裕福な方だと思うけど、地主とかでもないのにね」


「念のため聞かせてくれよ。お前、エリクシル粒子の適合者になったのって、いつだ?」


「え? そうだなぁ………ああ、そうそう。寒い冬の日なのは覚えてる。小学生の低学年の頃かなぁ。ふざけて凍った湖の上で遊んでたら割れちゃって。みんな病院に搬送されたけど、私だけそのまま帰ったの。懐かしいなぁ」


 エリクシル粒子適合者は一般人と耐性が異なる。よって、一般人が凍え死にそうになってもエリクシル粒子適合者なら「ああ、寒いなぁ」と呟いて震えるだけで済む。


 しかし六衣の耐性は異常だ。湖の表面さえ凍る外気のなか、冷水に浸かって、服も乾かさずにそのまま帰って風邪すら引かなかったと。俺だってそれくらいやれば風邪くらいは引くだろう。


「このスキルを得たのは?」


「エリクシル粒子適合者になってすぐだったなぁ」


「………まさかとは思うけど、初めて使ったのはダンジョンの外じゃないだろうな?」


「あ、わかった? そうだよ。あれは不幸な事故だった。両親と喧嘩して、頭に来て外に飛び出して………なにもかもが初めてだった。あれを衝動的って言うんだね。そうしなくちゃいけないって、頭のなかで誰かが叫ぶの。それで気付いたら………両親が持ってた土地がひとつ、焼けちゃった。あ、でも人的被害は出てないからね? それが不幸中の幸い」


 俺もスキルを得て、初めて使ったのは外だ。ダンジョンのなかでスキルを得たなら別だが、俺みたいに普段のなにげない生活のなかで覚醒した冒険者なら、そうやって自覚する。


 しかし六衣の場合、スキルの内容があまりにも殺傷力があり過ぎる。不幸中の幸いと言ったが、まさにそのとおりだ。俺のように至近距離で巻き込まれても、防熱の耐久値を上げ、かつ鉄条から譲り受けた耐熱シートでも持っていない限り、一般人は消し炭と化したモンスターと同じ運命を辿る。


「なんで喧嘩したんだ?」


「エリクシル粒子適合者になったからには、冒険者になりたいって思ったの。でも両親は反対した。普通の女の子として生活することもできるはずだって。けど、スキルを初めて使ってから、逆に頭を下げて冒険者になってくれって言われて………いったいなにかこうまで心変わりさせたのか不思議でたまらなかったけど、嬉しかったのを今でも覚えてるなぁ」


 冒険者業を否定した両親が、逆に頭を下げて成就してくれと懇願する。


 一見、彼女の才能と有望性を見抜いたからには、家の利益に貢献してくれと言わんばかりの行動だが、すでに六衣の家庭事情は聞かされている。


 地主ではないが、六衣の実家はかなり大成して裕福。兄がいて、いずれ家業を継ぐことになっている。そして実家からは逆に仕送りを受けている。


 こいつ、見放されたんだ。いや仕方ないことだとは思うけど。


 そして口論となった相手の両親がわざわざ六衣に頭を下げに来た理由も、これで理解した。


 六衣の地元民は、総じて六衣を恐怖している。今の俺のように。こんなのを見せられちゃな。次に同じ目に遭うのは自分かもしれないと思うと、両親含め、六衣はダンジョンで生活した方がいいのだろうと考えたのだろうな。


 子を見離した親として非難されそうだが───



「でもね、両親と離れてダンジョンで生活するようになって………ううん。初めてスキルを使った時に感じたんだけど………私、私のスキルがだぁい好きなんだって! ドキドキして、自分じゃどうしようもなくなって。モンスターちゃんたちに囲まれた時なんて、もう最高! 今からギラギラした目をするモンスターちゃんたちが一気に吹き飛ぶんだって考えただけで、お腹の辺りがキュンキュンしちゃうの!」



 ───うん。ヤベェ奴だ。


 まるで自分勝手な爆弾魔みたいな主張。


 こんなのを身近に置いておくより、ダンジョンで好き勝手にボンボン爆発させておいた方が、自分とこいつのためになるってか。



 ハハッ。大正解。ふざけんな。



 よくもモンスターよりもモンスターしてる爆弾魔を、ダンジョンに放ってくれやがって。お陰で俺が死にかけたじゃねぇか。



「ね、京一ちゃん」


「………なんだよ」


「死なないでねぇ? 次も期待してるから」


「………」


「京一ちゃんは、私のなかではもう、最高のお友達だからねっ」


 逃げたい。超逃げたい。


 こいつ、俺が生きてここにいるからって、調子に乗ってやがる。


 なにが最高のお友達だよ。迅と利達はどうした。認定するなら、もっと会話を重ねたあいつらにしろよ。………いや、それじゃあのふたりが死ぬか。だからと言って、俺が次生きている保証もないのだけど。


 さて、どうしたものか。



「京一さんっ!!」



「おっ………」



 良いタイミングだ。マリアの声が聞こえた。


 クレーター近くに仲間が集合する気配がある。


 ちょっと背骨が痛むが、振り返ってみると、やはりみんながそこにいた。


 でもみんな、なんか変に驚いた顔をしてる。なんでだろ。

たくさんのブクマありがとうございます!


ネタキャラとして作ってみたはいいのですが、あまりにもぶっ飛んだ子なので使い方を試行錯誤しております。

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