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第141話 アックスホーク

「いい子じゃねぇかよ!」


 龍弐さんのテントにて。俺や鏡花のよりも一回りほど大きいので、俺と奏さんとマリアが入っても、座った状態でも膝が触れない距離を保てた。


 そんな空間であっても、龍弐さんは「飲まなきゃやってられねぇぜ」と小声で訴えて、缶ビールを一気飲みして、またスクリーンからロング缶を取り出す。


「正直、予想外でした。良い意味でですが」


「こんなの、追い出す方が無理ですよ」


 まだ一日経過してはいないが、数時間でも印象はガラリと変わり、好印象で埋め尽くされている。特にあの夕飯は、冷めたとしても食感と味を損なわないものを優先的に作ったつもりが、六衣の協力で昨日よりも温かく、よりうまく感じた。


 それでいて六衣は有言実行するばかりに、調理を終えると自分の料理を火にかけ、温め直すと鍋を食し始めた。俺たちに協力したのだから一緒に食べさせろとかの要求や、感謝しろよなど鼻にかけることもなく、俺たちを見て嬉しそうにしていた。


 ちょっと不気味ではあったが、善意しかない迅と利達が食事の輪に加わることを提案したので、より近い場所に座ると、ある程度は不気味さが薄れた。時折会話に参加すると、案外知的で、楽しく会話できることもわかった。


「なんであんなのが埼玉のバスターコールなんて呼ばれて、怖がられてんだか」


 俺は小声で呟き、テント群の外で寝袋に入った迅と利達に並んで、気分的に焚火を始めた六衣と鏡花の姿を見た。


 そう。六衣はどこにでもいるような女だ。ゴリラみたいな外見なんてとんでもない。もし仮にこのまま一緒に過ごして、なにも問題ないようなら、本当にパーティに採用することを考えてもいいのではないだろうか。


 おそらく、俺の考えは四人に共有されている。みんな同じ表情をしていた。


 


 が、事態が急変したのは翌日のことだった。




「みんな起きろ! お客さんだ!」


 明け方に近い時間のこと。


 最後の見張り番をしていた龍弐さんが叫ぶ。


 俺たちは飛び起きて、十秒で支度を済ませ、テントを丸ごとスクリーンにぶち込んで龍弐さんに合流した。


 すでに龍弐さんは交戦していた。両翼が斧状となっている鳥のモンスター、アックスホークの群れが上空にいて、龍弐さんはその身軽さとスキルを駆使して空中戦を行っている。斧を剣で受けて、二刀流スタイルを活かして次撃で倒している。


「遠距離戦か………鏡花!」


「本当にやるつもり?」


「龍弐さんなら避けてくれるだろ」


「心配してんのは、あんたの体よ」


「なんか言ったか?」


「なんでもないわよ。それよりもほら、構えて」


 鏡花との連携も慣れたものだ。俺は奏さんが製造した大量の鏃を受け取ると、鏡花が上空に投げたダーツが限界高度に達した瞬間に置換スキルで上空に交換された。


「龍弐さん!」


「キョーちゃんか! あいよぅ!」


 合図すると、龍弐さんが一匹を蹴って離れ、近くの木に刀を刺して留まる。これで射線が拓けた。



「この斧鳥野郎どもが! ひとの寝起きを邪魔するたぁ大した度胸だ。じゃあひき肉になる覚悟もできてんだよなぁ!」



 両手で握り込んだ鏃を、すべて至近距離で投げる。御影戦で見せた、受け止めた弾丸を投げることで可能にした中距離戦の応用だ。


 鏃の尖鋭化した先端の向きなど関係ない。力の限り投げれば、鏃がどんな角度でいようが確実に数を減らせる。


「鏡花ちゃん!」


「了解!」


 俺の短い浮遊時間が終わり、落下を始める前に再び置換スキルで地上に戻される。今まで俺がいた場所を、奏さんが射た矢が通過した。


 拡散しつつ爆発する鏃を装填している矢だ。群れの手前でひとつの矢が複数に分割し、一度に複数を墜落させている。


「ピー助! ニャン太! ワン郎! 行けっ!」


 迅はスキルを使って、自分のレベルとステータス値を分配。テイムした三匹のモンスターすべてが強化され、ピー助という鳥がドッグファイトを仕掛け、ニャン太という猫が鏡花に捕まる前に龍弐さんの援護をすべく木を登り、ワン郎という犬がマリアの護衛を務める。


「じゃ、あたしもやっちまおうかねぇ。マリアパイセン、昨日もらったもの、試すよ!」


 利達も張り切って戦線に参加する。


 慣れない対空戦だが、彼女のスキルもまた宙を移動する技術に長けていることもあり、チーム流星にいた頃とは違い、装備のアップデートを受けることができた。


 それが丸のこの替え刃───チップソーである。


 銀色に輝くそれらは高くなければ安くもない。だが複数をセットで購入すると数万円は飛ぶ。しかも消耗品だ。資金難に陥っては絶対に手が出せず、これまでは安価な切れ味の悪そうなナイフをスキルで回転させ、強引に切断していたそうだ。


 利達の右手の指で挟まる三枚のチップソーは、投擲と同時にスキルによって加速を得て、飛び出した龍弐さんとニャン太とピー助がいる乱戦のなかを突っ切り、背中を見せた一匹のアックスホークに襲い掛かる。


「よっしゃぁ! 鳥の三枚おろし完成!」


「やるじゃねぇか利達。鳥を三枚おろしにするとか見たことねぇぜ!」


「へへーんだ。この距離なら京一先輩にだって負けないよーだ。なんなら、休んでてもいいよぉ?」


 大口を叩くだけのことはあったと思う。


 装備を一新するだけで、こうまで違うのだと驚いていたほどだ。


 利達は劣悪な状況で劣悪な武器を使っていたから、実力の半分すら出せなかった。最適解を発見さえできれば、本来の彼女の実力が発揮される。


 利達の戦い方にはセンスがある。レベルで言えば未だに30台で、スキル持ちにしては平均値よりも上なところ。だがそれを補って俺たちに比肩する要因こそ彼女の才能だ。


 チップソーは一匹仕留めただけで墜落しなかった。遠隔でも加速させることができるらしく、絶妙な回転力を与えてコースを修正し、重力という物理法則をぶち破って上昇を開始するほどだ。一投で終わらず、まだ続けるらしい。


 さらにチップソーを追加し、アックスホークどもを一ヶ所に集めるという追い込み漁業の真似まで始めた。


「奏パイセン!」


「上出来です!」


 より密集したポイントに矢を放つ。倍増する炸裂弾頭が鏃に仕込まれており、途中で分裂し複数の軌跡を描きながら一網打尽にした。


「あららー。どうするよキョーちゃん、迅。俺ら出番少なくなっちまったぜぃ」


 結局二回目の跳躍をすることなく、奏さんからもらった二投目の鏃が無駄になってしまい、念のためすぐ投げられるようにスクリーンに収納しておく。すると頭上から龍弐さんがニャン太を抱えて降りてきた。


「けど、これ以外俺たちにやれることないですし」


「対空戦は任せるしかないっすね。陸戦なら、今度こそ壁になって兄貴たちを守ってみせるっすよ」


 適材適所を主張する迅に賛同し、逆にそれが言い訳じみてきて悲しくなってきた。


 それから獲物の収穫を行う。全員で役割分担して、素材を集めた。アックスホークは食用には向いていないと聞くので、肉もすべて業者へ売却する流れだ。聞いた話によれば、そのような肉はバイオ加工されて別目的で利用されるとか。なにもかも無駄にしない根性の賜物である。


 しかし、そんな作業をしている傍らで、横目で俺たちの作業に加わる六衣を確認した。物騒なコードを持つ女は、普段はこんな作業をやらないのか手付きがまるでなってない。マリアよりも酷い。


 不満そうな顔付きをしているが、なにも素材回収ではなく、別のなにかに向けられているように見えた。


ブクマありがとうございます!


あと少しでブクマが100に届きますね。これまで書いたなかで初めての記録なので、とても興奮しております!

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