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第139話 同志に近いもの

「零鏡花よ。鏡花って呼んで」


「うん。よろしくね、鏡花ちゃん」


「パーティが離れていって悲しくなる気持ち、すごくわかるわ。私もそうだったから」


 そういえば鏡花も、どこかのパーティに所属していたんだっけか。で、フリーになってから俺たちと出会い、マリアの勧誘に乗って今に至る。


 経緯はほぼ鏡花と同じだ。理不尽に晒された。ゆえに六衣の抱える悲嘆を、誰よりも共感できるのかもしれない。


「そうだったんだ。悲しかったね。お互いに」


「ええ。お互いにね」


 鏡花と並んだ六衣は、身長こそそこまで変わらないとして、可愛い系でありながら大人びて見えた。きっと、俺たちよりも年齢が上なのかもしれない。


「私たちは友達というよりも、同志に近いものになれる気がするわ。どう?」


「いいね。そういう繋がりも憧れちゃう」


「決まりね」


 鏡花の不敵な笑みに、柔和な笑みで返す六衣。


 しかし俺にはその魂胆が見えていた。


 鏡花はしっかりと龍弐さんと奏さんの小声の会話を聞いていたし、自分でも分析した結果があるのだろう。


 ディーノフレスターとやり合っても無傷で生還した六衣の実力を知りたがっている。機会があれば戦うつもりだぞこいつ。


「ところで六衣」


 年上であったとしても、あくまでフレンドリーを演出するため、隣に並んでクレーターを見ながら、敬語の一切を排した口調で尋ねる。


「さっきまで、なにと戦っていたの?」


 ほら切り出した。交戦していたモンスターの脅威度から、六衣の実力を測りに出た。


 が、そこから齎される情報は俺たちも是非とも聞きたかった。よって、今だけは鏡花の好きにさせる。


「ええとね、ソニックピューマとグランドクラブと、トライデントディアーとフォグバードと、ああ、あとコカトリスっぽいのもいたね。アサシンスネークと、それから───」


「ま、待って。お願いだから待って。ちょっと、六衣? 私はあなたのこれまでの交戦記録を聞きたいわけではなくて、あのクレーターを作った際に交戦したモンスターを知りたいのだけど?」


 羅列してみるととんでもないネームバリューだ。どれも強敵として知られているし、群馬や栃木で発見されたモンスターもいる。


 すべて名の知れたモンスターで、それを複数人での狩猟でも達成すれば拍がつく。単独でならなおのこと。鏡花も満足するくらいの高レベルになっていても不思議ではない。


 けれども六衣はかぶりを振る。おかしそうにしながら。


「え、だって()()()()()()()()()()()のことでしょ? もっといるんだけど………ごめんね。そんな多くは覚えられなかったよ」


「………えっと、まさか………一度に戦ったとでも言いたいの?」


「そうだよ。どうやらここ、モンスターハウスだったらしくて。でも心配ないよ。()()()()()()()()()()


 不安がることがないように、優しく笑いかける六衣。


 彼女の言っていることは、先程と同じですべてがおかしい。彼女以外が同じ発言をしてもフェイクだとすぐに見破られる。


 ところが、謎の説得力はここでも効力を発揮。


 六衣だからこそ納得できる。ここがモンスターハウスであったこと。そしてそのすべてを消し飛ばしたこと。


 だからまだ熱が去らないこのクレーターに、いくつものモンスターの死骸があったのだ。


 六衣はモンスターハウスごとモンスターを殲滅した。一度で数えきれないほどの数を消した。この惨状がすべてを物語っている。


 鏡花はなにも言えなくなっていた。なにを言えばいいのか、わからないのだろう。それは俺も同じだ。


「今度は私から質問、いいかな」


「………どうぞ」


 モンスターハウスを消したという、常識ごと度外視した戦い方をする六衣の異常性に、マリアは笑みを引き攣らせる。


「せっかくこうしてみんなと知り合えたんだし、私是非ともお友達を増やしたいんだ。だから交流を深めるために、私をパーティに入れて欲しいのだけど………許してくれるかな?」


 来た。恐れていたことが。


 できるなら避けたい道だ。六衣は未知数すぎる。そんな滅茶苦茶な奴がパーティ入りしたら、今後どうなるのかわからない。


 それが総意なのだが、一部の善意しかない兄妹は、彼女のパーティ入りを喜んで推奨する。


「うん………うん! マリアパイセン! 六衣さんはめっちゃ強いし、きっと活躍してくれるよ!」


「そうだな。俺も六衣の姐さんが仲間になってくれると嬉しいっす。マリアの姐さん。どうか、お願いします!」


 最年少たちに真っ直ぐ懇願されては、マリアも断り辛くなる。


 とは言っても、いつまでも閉口したままでは不信感を伴う。判断は早めにすることこそベストなのだが、耳を澄ませてみると、先程からずっとマリアの耳に装着しているインカムから小さな音が漏れていることに気付いた。


 インカムはマネージャーの雨宮と繋がっていて、指示を仰げる仕組みとなっていた。そのせいでかマリアはなぞに青褪めている。


 少しだけ聴力に集中すると、断片的にだが雨宮の声が聞こえた。



『ダ………よ、マリア………そ………さいた………バ、ターコー………げな………今、すぐ………!』



 なんて言っているのかはわからないが、もしかしたらネガティブな内容である可能性が高い。


「………六衣さん」


「なぁに?」


「お………お料理………得意ですか?」


「………うん?」


 六衣はマリアの質問の意図が掴めず、ポカンとしたあと首を傾げた。


「実は私たちは、料理というものに慣れていなくて。特に私なんて酷いものしか作れません。鏡花さんや、奏さんは得意なのですが………しかしそれは、あくまで自分含めた少人数を想定したものしか作れないんです。大量生産しようにも、私たちは誰も、ご飯屋さんで働いた経験がなくて。だから毎回、満足できるものを作れた試しがないんです」


 俺たちはピンときた。


 マリアは様々な経験を経て、この領域に辿り着いた。パーティ入りを希望する者をやんわりと、しかししっかりとした理由をつけて断る術を身に付けていた。無言ではいたが、心のなかでマリアを絶賛していた。


「私はこの七人がギリギリの………ボーダーラインだと考えています。八人に増えてしまうと、回らなくなってしまうんです。もし六衣さんがお料理の腕が優れていて、それこそ飲食店でバイトなどをした経験があれば、パーティ入りを快諾しますが………いかがでしょう?」


 確かに昨日のカツ丼は酷かった。冷めたものを温める術もなく、生温いカツを噛むしかなかった。


 食事こそ冒険者や配信者の生命線だ。抜けば終わる。腹を満たしたくてインスタント食品ばかりでは、いずれ食事バランス崩壊のツケを払うことにもなる。


 ゆえに互いの利益を重視した質問を投げかけて、六衣の参加を断ろうとした。


「うーん。残念だけど、バイトの経験はないかな。私自身、誰かがびっくりするような食事を作れるわけじゃないし」


「では、せっかくの機会ではありましたが、ここはお互いのために………」


「でも、食事のことは気にしないで? 自分の分は自分で作って食べるから。大丈夫。ひとりぼっちのご飯は慣れてるの」


「え、でも………」


「みんなと一緒にいられるだけで楽しくなる気がするの。んふふふ………」


「あー………」


 強ぇなコイツ。こうなるとマリアでも断り切れねぇ。奏さんでも無理だろう。


 こうなったら六衣のパーティ参加を受け入れて、様子見するしかない。厳しいところだが、マリアのトラウマを抉るようだが、お試しで参加させるしかないようだ。


六衣という子は初期から考えていました。

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