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第129話 今ならワンパンで沈みそう

「あ、あっひゃひゃ。そうかなぁ? ねぇ、奏さんやぃ。俺ら、別に普通だよねぇ?」


「も、もちろんですとも。なにも変わりありません。マリアちゃん。お気になさらず」


「そうですか? あ、体調が悪ければいつでも言ってくださいね。県境ですし。ここから先はチーム流星がそうであったように、無茶だけで進める場所ではないと思うので」


 マリアはボスらしくチーム全体の体調管理を預かるようになっていた。食事は相変わらず食材をダメにしてしまうので、それ以外はせめてと積極的に臨んでいる。


 なにごとも積極的にチャレンジするのはいいことだ。キャパを超えない限りは。


 俺たちはマリアがこうして気遣ってくれているように、マリアを気遣っている。あのメンタルブレイクがあったあとで全員で反省し、なるべく心労が祟らないようにしようと。


 だが俺たちが現在やっているのは配信だ。あの反省会は配信していない。すると、なにも知らないリスナーたちが露骨にがっかりするようなコメントを乱打する。


「あの。京一さん」


 今度は俺に小声で囁く。


「なんだ?」


「コメントにあるように、龍弐さんと奏さんの喧嘩がなくて勢いを失っているように感じるのですけど………気のせいなんでしょうか?」


 俺に相談してくれるのは信頼してくれている証でもある。それは嬉しいが、相手を間違えている。俺はこの質問に対し、マリアも納得し、全員が得をするような百点満点の回答など出せるはずがないんだ。でもここで折れても………仕方ない。喋りながら、それっぽい言い訳を探せ、俺!


「そうだな………あー、でもさ。ふたりが緊張してるって考えられないか?」


「緊張? ………あのおふたりが?」


「そうさ。ディーノフレスターだって、埼玉から来たんだ。もしかしたら別固体がいるかもしれねぇ。だから軽口はやめてるんだよ。龍弐さんも奏さんも、そこらの冒険者とは違う。自分のやることはわかってるんだ。多分、ここにいる全員が、もちろん俺含めて緊張してるんだ」


「………そう、ですよね。ごめんなさい。私、緊張感も持たないで」


「気にすんな。明るくポジティブにってのがお前の仕事だろ? 尊重するし、みんな理解してる。いつものお前のままでいてくれよ」


「………わかりました。頑張ります!」


「おう。頼んだぜ」


 どうやら百点満点には届かないにしても、九十点くらいは獲得できたのかもしれない。俺の論は無茶があったかもしれないが、マリアは満足している。それにマリアが視線を反らした隙に全員を振り返ると、サムズアップを送られた。「異議なし」や「その設定でいこう」という意味だ。俺もサムズアップで返す。


 実は、昨日のメンタルブレイクについて、マリアは一切記憶にないという。


 奏さんの膝枕と耳かき極楽コンボで眠ったマリアは、目が覚めると元通りになっていて、暴走した時の記憶をすべて失っていた。「ここはどこですか?」と平然と聞いてきたほどだ。


 就寝時間となり、マリアが眠った頃を見計らって全員が再集合。テントの外で焚火を囲みながら、マリアについての今後の対策を話し合った結果が、「二度とそうならないように配慮して行動しよう。彼女が思い出したら負けだと思え」だった。


 だから全員が一丸となってマリアの回復を努める。眠っているマリアを起こさないよう、奏さんがテントに忍び込んでインカムを拝借し、雨宮と通信。謝罪と対策を練った結果でもある。


「あ、ちょっといいっすか?」


「どうした? 迅」


 全員がいよいよ太田ゲートを潜り、埼玉ダンジョンへ挑もうとした瞬間。迅が俺たちを呼び止める。


「ここから先は兄貴たちでも入ったことのない場所っす。俺と利達はあるっすけど、うまく言葉で説明できるほど覚えてもなくて。だから………ここは、俺に任せてもらえないっすか?」


「なにをするつもりだ?」


「そりゃ、テイマーに聞くには愚問ってやつっすよ。京一の兄貴」


 迅はスクリーンから相棒たちをオブジェクト化する。


 それを聞いて思い出す。テイマーの役割を。


 共闘と偵察だ。古来、このダンジョンができるよりも、もっと古い時代から、人間と猟犬がそうであったように。


 同時に俺と奏さんと利達で、鏡花を押さえつける。迅が召喚したモンスターのなかには、鏡花の大好物である猫もいる。目の当たりにすれば暴走するのは当然で、すぐに襲い掛かろうとした。


「行け。お前ら!」


「キー!」


「ニャー!」


「ワン!」


 鳥と猫と犬の幼獣が、もふもふとした体を揺らし、しかし低レベルにしては信じられないほどの敏捷力で太田ゲートを潜り、弾丸のように埼玉ダンジョンへと躍り出た。


「あれぇ? 迅くぅん。あの子たちのレベル、また上がったのぉ?」


「少しは上がったすよ。龍弐の兄貴」


「少し? いや、それにしたってあの速度、レベル20以上はあると思うんだけどぉ?」


「そこは俺のスキルで補ったっすよ」


「あ、そっか。便利だねぇ、迅くんのスキル」


 出会った頃からあの三匹は、レベル10という、テイマーが育てたにして高いレベルではあったものの、やはりダンジョンモンスターとしては一人前のものではなかった。


 それが今や、スティンガーブルの幼獣と同等の敏捷力を得ている。この前の激戦でレベルアップをしたとしても伸びすぎだ。


 そんな謎の解明こそ、迅のスキルが用いられたからであると述べられるだろう。


 チーム流星に所属しているとはいえ、協調するという形でパーティに入った迅は、上位レベル冒険者パーティのトップにいるスキル持ちの兄と、同じ年にデビューしたスキル持ちの妹に常に差を付けられ、自分がスキル持ちではないことを呪っていたが、実は違った。自分がスキルを持っていたことに気付かなかったのだ。


 スキルとは、約二百年前に日本の全国土を覆い、人口の半数を死に至らしめた粒子が、ある一定の時期から手のひらを返し、生き残った日本人を生かすものとなり、エリクシル粒子と命名されたものが定着、適合者となった者のごく一部が覚醒するという能力のことだ。


 今やエリクシル粒子適合者となれば冒険者になるのが通例で、小学生でも将来の夢として語るほどの時代となった。しかし、覚醒するメカニズムも解明されておらず、エリクシル粒子適合者のなかでも一割ほどしかスキル持ちになっていないという。


 そんな迅が得たスキルは『変動』であり、レベリングに作用する。


 たったレベル21だった迅が、50まで一気に上昇した理由がそこだ。テイムしたモンスターのレベルを吸収した。


 戦闘後、モンスターと分離するとレベルは戻っていた。一時的な向上だったらしい。


 そして今、モンスターたちがレベル20以上にまで向上したのも、迅のスキルによるものだった。自分のレベルを分け与えてスペックアップさせたのだ。


「あの敏捷力………レベル20以上で出せるものじゃないですけど?」


 奏さんが尋ねる。


「はい。奏の姐さん。俺のステータス値も振り分けたっす。………あいつらに怪我されたくないんで」


「ふーん? じゃああんたのごつい筋肉から成す防御力もあげちゃったんだ。じゃあ今なら、ワンパンで沈みそうね?」


「や、やめてくれっす鏡花の姐さん!」


 ジリジリと迅ににじり寄る鏡花。あのガチムチも鏡花の凶暴さを知ってか、実力で止められないと知ってか、気紛れの一撃を中止するよう必死で懇願する。


 そんな茶番劇をしていると、三匹のモンスターが主人のところに戻るのだった。


ブクマありがとうございます!


大変なことになりました。リアル引越しが終わったら、明日に出張があるのを忘れていました。

今から書き溜める努力をしますが、もしかしたら一日一回更新になってしまい、そして日曜日も同じく二回更新になってしまいそうです。先週もそうでしたが、今週も激務です。こりゃ酷いです。

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