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第12話 スライムの倒し方

 ただし、こうして佇んでいてもなにも進展が得られないのも事実。


 恩師の言葉は一度も間違ってはいなかった。


 時を超え、恩師が俺に語る最大限の忠告。疑うまでもない。


 ところが数ヶ月前に青蛍群石(サファイア)という冒険者向けジャンルで多大な人気を誇る配信者パーティがここを通り、平静と配信を終え、翌日には新たな動画を配信している。


 なにをどう警戒するのか。なにに対してなのか。予想も付かない。


「………見て確かめるしかねぇってのか」


 警戒を厳に。慎重な足取りで前進を選択。


 三十メートルほど進んだところに、また木簡を発見。



『再び警告する。警戒せよ。引き返すことは恥ではない。特に女性ならなおのこと引き返すべし』



 女性なら。という部分にヒントを得る。


 女にとって都合の悪いイベントがあるわけだ。


 さらに進む。今度は五十メートル先。



『最後通告。以後、自己責任で真実を知るべし。忿懣せよ若人。ここから先は男も女も関係ない。己のすべてを賭し、羞恥を捨てて殺すべし。相手は絶対に許してはならないド阿呆なり』



 文学風になる通告。


 とにかくこれを書いた俺の師かもしれないひとが、敵を許さずぶっ殺せと言っていることだけはわかった。



「こんな警告文があるなら、青蛍群石(サファイア)は絶対に映してるはずなんだが………おかしい………ん?」



 様々な不可解が同時に押し寄せるなかで、微かに人間の声を耳にした。


 今いるのは冨岡に入る手前。歪曲しながら上下する通路だと記憶していたはずが、いつの間にか進行方向がストレート状に伸びていた。


 目測、約百メートル先。光が大きくなっている。


 一難去ってまた一難とは、本当についていない。もしかしたら呪われているのかもしれない。


 とは言うものの、正解たるルートはこのひとつ。進まないわけにもいない。


 意を決し、望まぬ展望を見るだけ見てみよう。と足を進める。師の警告に逆らいながら。


 光が強くなる。ダンジョンはなにもすべてが洞窟でできてはいない。広々とした空間がある。が、これはあまりにも殺風景というか、凄惨な光景というか。



「きゃぁぁぁぁあああああああ来ないでぇぇぇえええええええ!!」



「チクショォォオオオオオオ! 覚えてやがれクサレ水塊がァッ!!」



 脱力。


 なんでかな。俺はつい昨日も、同じものを見たような。


 学校は見たことがある。跡地なら。そのグラウンドほどの広域のある部屋で、ふたりの少女が青い水に追われていた。


「なにやってんだ………あいつら」


 俺が立っているのは広場の床から三メートルほどの高さにある出入り口で、縁にしゃがんで、モンスターに追われている可哀想な───いや、運が悪かった少女たちが泣きながら逃げているところを観察した。


 あの狐くんもそうだったが、こういうのは極力関わるべきじゃないのだが、ついつい「助けた方がいいんじゃないか?」と心の隅で良心が囁く。いや、それは良心の姿をした、姉のようなひとと師が隠れているだけか。誘惑と現実を突きつけようとした悪心を片手で絞めて、なにも言わせなくしている───結局は俺の妄想。あるいは何年にも渡り擦り込まれた脅迫概念なのだけど。


 と、悶々としていると、逃げている片方がふと目線を上げたので、俺の存在が明らかとなってしまった。



「助けなさいよ馬鹿ぁぁぁあああああああっ!!」



 昨日とか、今日とか、やけに自信に漲る顔で俺を初心者だと鼻で笑ったくせに、もう助けを求めるのか。


「お前たちなにしてんだ? マリアだってモンスターとの追いかけっこはもう終わりだってマネージャーから言われたんだろ? それにせめて服くらい着ろよ。いつから痴女にジョブチェンジした? アカウント凍結されないのか?」


「着れないんですっ! 出した途端に溶かされちゃうんですっ!」


「お礼はするから、早くどうにかしなさいよぉぉおおおおお!!」


「いや………お前たちの姿………近くで見ることになるんだぜ? そういうのって、良くないと思うんだよなぁ」


「そんなの、いいからっ。仕方ないから! この()()()()()()倒してぇええええ!」


 あのプライドの塊というか、マウントを取ることが好きそうな鏡花が、こんなにも泣き叫びながら俺に助けを乞うなんてな。


 多分、皆殺し姫なんて異名を持ってるこいつにとっては珍しく、そして本人からしたら辛酸を舐める思いをしていることだろう。


 あのひとが言っていた殺すべしド阿呆の正体も判明する。特に女なら引き返せと書いてあったのも、スライムは服を溶かす習性があるからだ。あのひと含め、その娘も「スライム絶対ブチ殺すべし」主義者で、昔から俺に討伐方法を言い聞かせた。最早、洗脳の領域だ。


 スライムのなかでもビッグスライムより体格が大きく俊敏で、獲物を発見したら捕らえるまで止まらないのがボススライムだ。とにかく巨大な水球が自在に体格を変えて逃げるマリアと鏡花を執拗に追い回す。


「ボススライムとか………最悪だ。在庫全部使うことになるじゃねぇか」


 出口から飛び降り、着地と同時にスクリーンを操作。するとボススライムは俺を新たな餌と認識したか、巨大な水球から触手を射出。


 あのひとの装備に比べれば遅い。軽快なステップで回避しつつ前進。


 幾何学的な閃光とともに俺の背にそれが落ちる。



「………は?」



 刹那、鏡花がキレた。


 助けに入ったはずの俺が、誰もが一度は見たことがある───と思うビニール製の大きな袋を肩に担いだからだ。


 まるで「やる気あんのかテメェ」とでも訴えたそうな剣呑な視線が突きつけられるが、こっちはやる気しかない。


「おらよ。あのひとのオリジナルブレンドだ。噛み締めて堪能するんだな」


 肩に担いで運搬した袋を両手で掴むと、十メートルほどまで接近したボススライムの()()()へと投げ込んだ(プレゼント)


 ビニール製の袋は途端に溶けて内容物がぶちまけられる。されどもボススライムはそれをも吸収。


「クソ………やっぱ二十キロじゃ足りねぇか!」


 続けて新たな袋を召喚して、ボススライムへプレゼント。


 まだ足りない。体の成分が九割以上が水であるボススライムは濃い水色で染まっている。「食いしん坊め。ならもっと食わせてやるよ」俺は袋の投入を継続。


 在庫が瞬く間に消滅する。四、五と投入し、そこでやっと兆しを目視した。


「おっ………いい感じじゃねぇか」


 ボススライムのビニール製の袋の消化が目に見えて遅くなっていた。


 次へ移行。


 鉄条からもらった背嚢を引っ張り出す。


 そしてパンパンに詰めた内容物をぶちまけるがごとく、ひっくり返してすべてボススライムに食わせた。


 まさかこんな早期に使うとは思っていなかった。


 男臭い背嚢のなかに入っていた透明な小さなボール、あるいは乾涸びたビーズ。余すことなくボススライムのなかに収納。


「え………な、なんで!?」


「ちょっとあんた! なにしたの!?」


 これにはマリアと鏡花は瞠目し、驚愕するしかなかっただろう。


 これが俺たちのスライムの倒し方なのだから。


「そんな………ボススライムが、収縮されていく………」


突然のサービスシーン。こんなの滅多にやらないんだからねっ………多分。


前話で使った白い粉と、鉄条からもらった背嚢に詰めたなにかを組み合わせました。これでいけるはず………多分。


今日も複数回更新します。なにを使ったのかは次回のお楽しみ。期待していただければと思います。面白かったら下にあるブクマと評価をしていただければと思います!

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