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第117話 よう馬鹿

 なぜそんな事態になったのか。


 理解が及んだのは誰ひとりとしていないだろう。もちろん、モンスターを吸収した迅自身も。


 迅は光を吸収したあと、著しい変化がその身に起きたのかと言えば、そうではない。光を胸に取り込んでからはそれも消えた。


 目立った変化こそないが、効果は絶大。俺が考えた以上の実力。


 あの名都と利達さえも呆然とする光景。


 確かに迅は冒険者としては半人前のレベルだったかもしれない。俺の半分ほどしかないのだから。


 ただし、歩んだ旅路は誰よりも険しく、そう簡単に踏破できるようなものではなかったはずだ。


 迅は利達と同じ時期にエリクシル粒子適合者となり、ダンジョンに潜ったと聞いた。


 それからというものの、迅は妹との間に生じた疑いようのない差に絶望しただろう。


 顕著となったのは、テイマーになった頃からだ。利達はスキル持ちとなり、長兄と肩を並べる存在となる。比較して自分はどうか。いつまでも兄と妹にも並べず、スキルも得られず、レベルも低いまま、お荷物として扱われる日々。


 屈辱を覚えながらも食らい付くしかなかっただろう。四牙の名前を語りながらも、出来損ないとして陰口を叩かれても、自分はここしか居場所がないのだと言い聞かせながら。


 だが、実際はそうではなかった。


 迅こそ特別だった。


 今、こうして自分の分身を圧倒的な膂力で叩きのめした瞬間に証明した。


 迅の赤い分身は二割増しのスペックをしている以上、レベルは30に近い。対する迅のレベルは25ではあるが───あの全力の正拳突きの威力は、レベル25で出せる攻撃力ではない。


「迅。スペックを見せてみな。俺と同じようにしてな」


「あ? いや、えっと………どうやるんだ?」


 おっと。このうっかり屋め。


 こいつが自分の能力と実力を理解できなかったのって、もしかしたらステータス値の管理能力の欠如から来てたんじゃないだろうな?


 だって、さもなくばステータス値の最後にある、俺たちにとって一番重要なものが見えないものな。


「見せてみな。………ほら、ここを、こうして………こう」


「お、ぉおっ!?」


 迅め。隣に立ってスクリーンの操作方法を教えてやると、なかなか初々しいリアクションをしてくれるから、思わず笑っちまいそうになっただろ。


 俺は宙に迅のスクリーンを投射する。誰の目にも留まるように。特に、こいつを蔑ろにしていた名都と利達に。


「なん、だと………!?」


「迅兄ぃが、スキル持ちっ!?」


 なんとも気持ちのいい瞬間だ。


 迅のことを無力だと認識していたこいつらが、それを改めざるを得なくなる瞬間を目の当たりにする。


 そう。迅は欲しくて欲しくてたまらなかったスキルだが、実は持っていたのだ。


 ステータス値の下にある「【スキル】変動」が、それを物語っている。


「お、おい。なんだこれ。俺………いったい、どうなっちまったんだ!?」


「落ち着けよルーキー。仕組みさえわかっちまえば、どうということはねぇ」


「け、けどよ………」


「迅。お前は能無しなんかじゃねぇ。俺が思ったとおりの男だった。自信を持て」


「っ………」


 迅は見たことがない表情を浮かべた。鋭かった瞳は垂れ下がり、涙さえ浮かべている。


 俺は別に、思ったことを言ったつもりだが、それだけでもこいつにとっては報われたのだろうか。そうだったら、嬉しいけど。


「いいか、迅。お前のスキルは多分………テイマーであるからこそだよ」


「ズッ………どういうことだよ」


 洟を啜りながら尋ねる。俺も確信があるわけではないが、ステータス値から得られる推測は九割強当たっていると思うので、そのまま述べた。


「お前のスキルは変動。主にレベリングに作用するもんだ。ほら、見な。スキルが発動してから、すっげぇ補正がされてるだろ?」


 俺が指差す迅のステータス値。


 これがなかなか、面白いことになっていた。



【名前】四牙(しが)(じん)

【レベル】25(51)

【年齢】15

【所属】チーム流星

【体力】102(451)

【攻撃】98(401)

【防御】101(426)

【敏捷】41(259)

【総合耐久値】39(158)

【スキル】変動



 ていうか、こいつ年下だったのかよ!?


 あー、いや。気にするところはそこではない。


 こいつ本当に面白い。スキルを使うと特に。


 正常な数値の横にある数字は、スキル発動時における変動値なのだろう。その外見からして攻撃と防御の高さは頷けるが、敏捷と総合耐久値を犠牲にしたってところか。ガチムチだな。


 で、肝要となるのは───なぜこうなったか。


 そこがテイマーだからこそだ。


 迅は三匹のモンスターの幼獣を光に変えて取り込んだ。するとどうなったか。異常なほどの分配でレベルを上げたモンスターたちのレベルを、すべて自分のものとして計上してしまったのだ。


 応戦しつつも、唖然としている名都と利達の表情がたまらない。


 今この瞬間、チーム流星の最高スペックを誇るのは名都ではなく、迅となった。スキルを得た迅は今や、名都のレベルを一回り上回っている。


「これ………本当に、俺なのか? 俺、スキル持ちだったのか?」


 汚名返上の瞬間を迎え、涙が溢れる迅。


「ああ。正真正銘、お前のスキルだ」


「夢じゃないんだな?」


「ああ。そうだ。迅。見せてやりな。お前の実力。やれ。お前ならできる」


「おうッ!!」


 迅に必要だったのは、誰かから肯定されることだったのかもしれない。俺が龍弐さんや奏さんから肯定してもらったように。


 俺が背中を叩くと、迅はその名のとおり、迅速に赤い分身に肉薄し、正拳突きで今後こそとどめを刺した。


 それだけではない。苦戦するチームメイトの援護に向かう。弾丸のように接近すると、拳で次々と打ち砕いた。


 それでいい。迅はもう心配ない。自分の殻を打ち砕いた。


 あとは、俺たちが馬鹿を打ち砕くだけ。


 さぁ、最後の瞬間といこうじゃないか。


 待ってろよバカタレ。誰を敵に回したのか教えてやるぜ。


 気配を消しつつ、戦場を縦断する。仲間たちはチーム流星の加勢に回っている。対する桑園は、度重なるアクシデントで対応に追われた。なぜならマリアチャンネルの五人の内、四人がスキル持ちだと判明し、加えて迅が異常なスキルを持っていると発覚したから。修正しようにも時間が足りない。


 桑園は青ざめながら戦況を見渡し、スクリーンでスキルに必要な数値を必死に打ち込んでいる。


 哀れな奴だ。俺はゆっくりと接近したが、それにも気付かない。


 斜め後ろから桑園のスクリーンを覗き込む。俺の数値は打ち込んだが、迅の数値がまだだ。しかも俺の数値を打ち込んだとしても複製を作るにも時間がかかるようで、再出現に要する時間は一分とあった。


 まぁ、そこまで許すつもりはないんだがな。



「よう。馬鹿」



「なっ、ガバッ!?」



 桑園の肩を叩くと、跳びあがって振り向いた。そこにストレート。拳が桑園の顔面にめり込む。


 たったひとりだからこうなる。周囲の警戒を怠っていたから、俺の接近にも気付けない。


 殴られた桑園は地面を転がり、鼻血を噴出しながら俺を見た。


「決着の時間だぜ。よくも好き勝手してくれたじゃねえか。残念だがそれももう終わりだ。調子に乗ったツケを払ってもらうぜ」


ブクマありがとうございます!


誰かを覚醒させるのが楽しくて仕方ありません。迅の人生を振り返ると、主人公のようにも思えますね。

迅のスキルは変動としましたが、レベリングを意味します。契約した従魔をリリースすることで自分のレベルに変えることができます。

これでチェックメイトなのですが、まだやることがひとつ残っていて………

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