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第114話 レベル52

 情けない戦い方をしている。


 それくらい、誰かに指摘されるまでもなく、私が一番自覚しています。


 思い出せば───そう。私はこれまで、誰かと殴り合いになるような喧嘩を、したことがありませんでした。


 幼稚園時代だった頃も。小学生だった頃も。中学生だった頃も。


 常に誰かと笑顔になって、仲が良くて、手と手を携え、歌唱する。そんな環境にいたことこそ私のすべてであり、日常でした。


 それがダンジョンに来て、すべてが一変しました。私は今、人生で初めて殴り合い───と呼称してもいいのかわからない、稚拙なやり取り。どう戦えばいいのか事務所で教わったはずの私は、いざ自らも戦場に赴き、相手が出現したとなると、そのすべてを忘れてしまいました。


 ただ、だからと言って相手は待ってはくれません。


 私は半狂乱になりながら、必死に両手をばたつかせました。拳すら握ってませんでした。すると赤い私も同じような攻撃を繰り出しました。


 繰り返し申し上げますが、これは私の全力です。呆れてしまいますよね。わかります。私だって呆れてますもん。


 しかし、私の戦いはいつまでも続くわけではありませんでした。



「そいつ借りるわよマリアッ!!」



「ふえ?」



 鏡花さんの声が響きます。すると、私の目の前で同じように両手をバタつかせていた赤い私が消えました。


 向かった先は、赤い鏡花さんでした。ただ、スキルの相殺が働いたのか、鏡花さんの思った場所に現れず、赤い私は大地に下半身を突き立てて動かなくなりました。これは酷い。


「巻き込まれないよう下がってなさい! 桑園に捕まるんじゃないわよ!」


「は、はい!」


 鏡花さんは私を見ずに叫びました。私は伏せつつも周囲を観察し、桑園さんから離れました。


 そして現状を見渡します。


 誰もが二割増ししたというスペックの自分と戦いに持ち込まれ、苦戦を強いられています。


 おそらくですが、数分で倒れる者が出るかもしれません。私はそうなった時のため、回復薬を取り出して待機していました。


「くっ………辛い者は固まれ! 無理をして単騎となる必要はない! 木偶どもは連携を知らん。ならばこちらは連携して戦えばいい!」


 名都さんは自分の複製と戦いながらも指示しました。桑園さんという参謀を失っても、冷静さだけは失われていませんでした。


 ですが、それも時間の問題。消耗戦となれば、キツイだけ───



「ッダァァアアアアアアアアアア!!」



 戦場に一際大きい咆哮が上がります。


 この声はチーム流星の迅くんです。短時間ではありますが三回ほど話しました。


 彼はスキル持ちではなく、レベルも私に近く、主戦力とは程遠いのですが───劣勢に陥っても気合いだけは誰にも負けていませんでした。


「無茶だ迅! 下がれ!」


「そうだよ迅兄ぃ! そんな戦い方してたら長く保たないよ!」


 彼の兄と妹が、インファイトを中断するべく叫びます。しかし迅くんは、躊躇いなく果敢に拳を赤い自分に叩き続けました。


「うるせぇ! 俺がコピーなんざにやられるわけねぇだろうが!」


 迅くんが名都さんに逆らったところを見たことがありません。多分、今この瞬間、彼は初めて逆らったのだと思います。


「だらしねぇぞ利達! 兄貴もな! 多少スペックが上がった程度の敵じゃねぇか! そんなの、埼玉ダンジョンでレベルの高いモンスターを相手にしてた時となんら変わりねえ。兄貴たちスキル持ちがそんな弱気でどうすんだ!」


「あの時と今では状況が違う! 消耗を抑えろ! お前が倒れても、誰も助けに入れる余裕はないのだ!」


「余計なお世話だってんだよぉ! 助けなんかいるかよ。俺は、俺ひとりでこの状況を、くっ………打開してやるぜ!」


 名都さんの言うとおり、チーム流星には余裕がありませんでした。


 消耗戦となってから陣形を組み直すなどの試みをしていますが、相手は誰よりもチーム流星を知り尽くした、元参謀の桑園さん。個人戦から集団戦にしたところで、複製集弾たちは痛みも恐れず、オリジナルを執拗に狙います。固まったとしても穴を空け、傷口を広げる狡猾にして的確な戦術。桑園さんが敵対しただけで、成す術が無い様子でした。


 しかし───それはチーム流星だけ。桑園さんは私の仲間たちのことを多くは知らないでしょう。


 二割り増しのスペックをした敵を相手にしたところで、鏡花さんたちがすぐにやられるはずが………あれ?


 ドゴォッ!! と音が鳴り、私の近くになにかが落下しました。


 なにごとかと目を剥くと、土煙のなかにいた正体を知り、愕然とします。



 そこにいたのは、赤い京一さんだったのです。両腕をグチャグチャにされていました。



「さ、流石はスキル持ち。一筋縄ではいかないか。なら、三割り増しはどう………」



 ドゴォッ! とまた音が鳴りました。


 桑園さんの操作で赤い京一さんのスペックが向上し、立ち上がって襲い掛かるのですが、京一さんは特に変化もなく、また蹴飛ばしたのです。


「お、おかしい………レベルだって上がって………なら四と五を飛ばして、六割り増しで………」


 ドゴォッ! 結果は同じでした。京一さんは複製が先程以上の敏捷で接近しても、修復したばかりの腕を掴んで関節とは逆に折り畳み、顔側面をハイキックで蹴飛ばしています。


 相変わらず頭がおかしいとしか思えません。


 六割り増しといえば、例えば京一さんのレベルが30だったとすれば、そこに六割りを足して───48。


 レベル30の冒険者とレベル48の冒険者が衝突したところで、結果など知れています。高い方が圧勝するはずなのに、今は低い方が圧倒しているのです。



「桑園さん。ひとつご忠告をして差し上げます。あなたのスキル………複製とやらは、おそらく対象とする人物の意識に潜り込み、記憶からスペックを抽出して再現するのでしょうね」



「それがどうした!」



「残念でしたねぇ。このお馬鹿さん。これはあなたの仕損じですよ。京一くんの意識に介入できても、記憶を読み取ったとしても、彼のすべてを読み解くことはできなかった。そのせいであなたは、京一くんのスペックをご自分の勘や、外見から算出したデータで入力するしかなかった。でもまさか、私が講じた傲慢にならぬための()()が、見事にコピーカウンターとして働くことになろうとは。思わぬ産物というやつです」



「あなたはなにを言っている」



「京一くんのレベル、低すぎませんか? そんな状態で、私たちが鍛えた彼に勝てるとでも?」



「は………?」



 愕然とするのは桑園だけではありませんでした。


 私もです。


 奏さんの言動に、覚えがありました。


 あれはまだ御影たちと出会う前。下仁田跡地で、私と鏡花さんと京一さんで、スペックを見せ合った時のことです。


 あの時、京一さんのスペックは自ら閲覧禁止(ロック)をかけていて、すべてのステータス値はもちろん、総合レベルさえ不明な状態でした。


 ゆえに京一さん自身も自分のレベルがわからず、とりあえず鏡花さんにも劣らない実力からレベル30以上と考えていたのですが………それは違ったのです。



「京一くん。昔、あなたに施した封印を解く時が来たようです。パスワードは《KZW323》! そう、あなたが軽井沢でエリクシル粒子適合者になった日です! そして見せてあげなさい。今のあなたの実力を!」



「押忍っ!!」



 奏さんが叫ぶと、赤い京一が起き上がらないうちに、京一さんはスクリーンのステータスを開き、パスワードを入力。


 そして、奏さんの要望どおり、空中に立体投影させたのです。




 時間が止まったようでした。




 そこにいた誰もが、龍弐さんと奏さん以外が手を止めて、それを見てしまい、呼吸も忘れるほどの衝撃。




 鏡花さんは今、レベル43になりました。数々の激戦で経験値を積んだため、全国の冒険者のさらなるトップに躍り出ています。


 現在、公開されている冒険者の最高レベルは40から44に伸び、すでに一桁台に台頭していると言っても過言ではないでしょう。



 ですが、京一さんのレベルは───次元が違いました。





「ば、馬鹿なっ………レベル………52………ッ!?」




 桑園は眦が裂けるほど目を見開き、呼吸を乱し、呻いたのです。




五回目………やりました!

書けました!


えっと、一応チートです。

京一のレベルは現在公開されている冒険者のなかでもトップでした。理由は教育熱心なお姉さんが近くにいたからです。ではお姉さんはといえば………?


明日から二回更新に戻ります。皆様からの応援は、いつでもお待ちしております!

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