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第111話 もう殴ってもいいよな?

 和久は桑園に唆され、ディーノフレスターから逃げるどころか、トカゲのしっぽ切りにされたのか。


 連続して聞こえたのが午前三時。それ以降に途絶えた。つまり………そこで殺されたってことだ。奴に。


 桑園はそんな信じ難い所業を平然とできる野郎だと証明された。あまりの胸糞さに、これから始まる後詰めが楽しみになってくる。徹底的に揺さぶってやる。


「とある筋から、こんな情報も得ています。チーム流星は内部分裂の危機に瀕していると。ふたつに割れる可能性があるようです。私は、この数日でチーム流星を観察しましたが………そこにとある仮説を組み込むと、綺麗なほどの筋道ができる。なんだと思います?」


「………さぁ」


「桑園さん。あなたの派閥です。所属するかしないかで、わかれます」


「そんなこと………大勢いるなかで、仲がいいか悪いかで分裂するだけのこと。よくある話ではないですか」


「ええ。よくある話です。非常に巧妙に隠されていましたよ。目を凝らさなければ目視も適わないほどにね」


 とある筋───再び人員からの聴取。


 先の目撃談を耳にした際、桑園は情報を横流し、あるいは暴露したそいつを睨んだが、今度はそれをしなかった。


 桑園はかなり優秀だ。頭も冴える。でなければここまで生き残れない。よって、第二の証言者が誰なのかもわかっているだろう。わかっていながら敵視しなかった。


 ははーん。なるほど。そういうことか。桑園にとっては必要な人材だってことだ。あっさりとしてやがったのに。


「あなたはお弟子さんがいましたね。観測班の新出くんでしたっけ」


「………ええ。そうですが」


 桑園の目の色が変わる。


 よからぬことを企む目だ。と、すると───


「新出くんは、以前から大人しい子だったとか。チーム内だろうと会話への参加は消極的。しかしここ最近になって、誰ともコミュニケーションを取ろうと躍起になっていた。いきなりひとが変わったように積極的になったとか。なぜでしょう。教え子の変化について、なにか覚えはありますか?」


「ひとは他人との繋がりなくしては生きられない。彼が積極的になったのは良い傾向だ。しかし奏さん。あなたは彼の成長を、まるで悪きものであると仰りたいようにも聞こえる。彼の成長は、そんなに悪いことなのですか?」


「いいえ。とても良いことでしょうね」


「ならば………」


「仕組まれていなければ」


「え」


「一日、最低でも五人以上話しかけるようにする。どんな会話でもいい。と、吹き込んだ者がいるとか? 平時ならともかく、逃亡生活の真っ只中で、誰しも絶望し、生きる余力を失いかけている状況で、造花のような作られたポジティブを振り撒く。自ら望んでいない会話。そんなもので、両者に笑顔が宿るとは思えません。実際、笑顔になった者は少なかったでしょう。トラブルにもなったとか」


「いったい、なにを」


「彼の急変ぶりはあまりにも露骨でした。まるで誰の目から見ても、どうぞ怪しんでくださいとアピールするかのよう。実際、かなり浮いた子になってしまったようで。可哀想に。師匠の教えは、彼の立場を危うくした。いいえ、それどころか、内部調査をする私たちにも注目の的となるよう()()()()()()()。危なかったですよ。スケープゴートだと気付かなければ、今頃彼を断罪していたかもしれません」


「なにを根拠に」


「彼の証言です。あなたや派閥の目が届かない場所で筆談しました。新出くんは目立つ行動をするよう、桑園さんから指示を出された。疲れているメンバーの歩みを止めないため、励ませ、と。しかしひとには得手不得手がある。彼は励ます側は得意ではなかった。あなたもそれを知っていた。頻繁にトラブルを起こす子は怪しいと、私たちに思わせるために」


 油断ならない野郎だった。俺たちが来なければ、自分で手を下していたに違いない。


 弟子を捨て駒にするとか、考えるかね普通。そこまでして、なにが欲しかったんだか。


「例えそうだとしても………それは私の過失にはならない! 和久が消えたのだって………」


「あなたはスキル持ちでしょう?」


「なに………!?」


「でもなければ、私たちの目を誤魔化すことはできない。放心した和久くんが失踪したのは、脱出したからではありません。消滅したからです。あなたのスキルはおそらく、複製。和久くんをディーノフレスターの足止めのために生贄に捧げ、複製した彼は頃合いを見て消す。これで密室同然だったあの場所でのトリックが解けます」


「根拠がない!」


「しかしあなたがディーノフレスターの足音を真似し、和久くんに受け継がせ、本陣から遠ざけたのは事実。あなたは接触したのを認めたのですから。それともあなたは、自分ではないという証拠を出せるのですか?」


「くっ………!」


 証拠を出せと喚く相手に、そっちこそ証拠を出せと迫るのがこんなにも効果的だとは。


 桑園にはアリバイがない。


 俺たちが持つ映像データと証言を覆せるだけものが。


「そして、()()()()()()()()()()()


「なに!?」


 目を剥く桑園。俺たちも名都を見る。その手には俺たちが届けたはずの───しかし白紙だと予想していた封書があった。


「桑園。お前の犯罪歴だ。殺人に至るものはなかたが、傷害や詐欺など、前科三犯。このチームに入った時は経歴詐称。外のデータペースに潜り込み、やっと見つけてくれたものだ。調査してもらったのは埼玉ダンジョンでお前が不審な動きをしていたからだ。私は………お前の信頼していた。例え、このような事実があろうと、このチームでお前が第二の人生をやり直せるならと。だが、偶然とはいえお前の強行がこんな結果になろうとは。………残念だ。桑園。私はお前を糾弾せねばならない」


 なんてことだ。あのボスゴリラ、俺たちを差し向けるだけじゃなかったのか。こうなるかもしれないと予想していた? だったら大したもんだ。もう二度と会いたくねぇ。


 これで桑園はなにも言い返せなくなった。


 チームの分断。対立派閥の数を減らすためディーノフレスターを利用。隠れ蓑にするため新出を目立たせた。和久の消失はスキルを利用。


 推理としてはちょっと強引だが………効果はあった。



「………あーあ。本当………どうしようもねぇ。なんで人生って、こうもうまくいかないもんかねぇ」



 桑園の口調が変化する。


 もっと具体的な否定をされた場合、どう覆すかが課題だったが、自供してくれて助かった。これで手間が省ける。こっちの方が大いに楽ができる。


「桑園………」


「奏さんたちが団長を責め始めた時は本当焦ったなぁ。俺、名都さんまで失う予定なかったんだもん。チーム流星は名都さんがいてこそだ。そして俺が舵を取れば完璧になる。俺に意見する脳筋の分際の馬鹿どもはいらねぇ。俺の言うことを全部聞くやつこそ、チーム流星に相応しいってのに」


「お前………」


「でも名都さんも名都さんだぜ? 俺の指示に従わなくなってきたし。だったらって思って、切り離そうとすれば、なんか逆転されてるし。すっげぇムカつく」


 桑園の似非紳士ぶった言動が剥がれ、チンピラ然とした変貌を遂げる。


 

 いい感じじゃねぇか。



 こいつも御影のクソッタレ野郎と同じだ。利己的な馬鹿。



 もう殴ってもいいよな?


二回目!

今日はまだまだ書きます!

次回はおやつの時間にでも。応援よろしくお願いします!

多少強引ではありましたが桑園のキャラがブレ始めたので終盤です。すべては心地いいざまぁを目指して!

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