第110話 認めましたね?
「えっと………京一さん? いったいなにを?」
「落ち着け、桑園。それを今から話す」
「名都さん。あなたはご自分の立場をお忘れですか?」
「いいえ。名都さんの立場は今も変わらない。チーム流星の団長ですね」
「奏さん。冗談はやめていただきたい。彼がなにをしたのか、あなたの口から仰ったはずだ!」
混乱し、騒然とするギャラリーの視線が名都から桑園に移る。
これまで狼狽していた名都はケロッとしていて、それでいて堂々としていた。とてもではないが冤罪を訴えていた男と同一人物とは思えない。笑える。演技派だったんだな。こいつめ。
「あなたはこうも仰った! 名都さんを吊るし上げるべきだと!」
「ふむ? おかしいですねぇ。私は名都さんにそのようなことを言ったつもりはないのですが?」
「いいや、あなたは確かに───」
「私はこう言ったはずです。首謀者を吊るし上げるべきだと。名都さんを名指ししておりませんが?」
奏さんも演技派だ。誘導していやがった。かなり強引だったので、桑園が引っかかるかは賭けな部分があったが、一応は成功だろう。
桑園は名都に詰め寄られ、立場が逆転する。今度は桑園が狼狽する番だった。
「しょ、証拠は───」
「出せますか? あなたに。自分が犯人ではないという証拠が」
「あなただって同じはずだ! 私が犯人であるという証拠は出せない!」
「それはどうでしょう。確かに物的証拠は出せませんが………証言はありますね」
「証言!?」
この、なにもかも最先端の技術を取り入れる時代に、証言などという、古来の時代だったゆえに通用した手段が用いられる。到底、改竄し放題な証言などあてにできるはずもない。桑園は抵抗を試みた。
「誰かが私の立場を悪くすべく、捏造した内容を述べているに違いない!」
「まぁまぁ、落ち着いて。ひとつひとつ、丁寧にやっていきましょうね」
好物を買ってもらえず、地団太を踏む子供をあやす大人のように、奏さんは笑顔で諭す。目は笑っていなかったが。
「おい桑園。お前、露骨だったんだよ」
「な、なにがですか!?」
「お前、さっき名都に冤罪がかかった時………あっさり見捨てたよなぁ。そりゃあ何秒か迷ってたけど、結果的にそうした。家族じゃないにせよ、隊の頭脳を引き受けたお前が、団長が抜ければどれだけの損失が出るかわからないはずがない。それなのに捨てた。こりゃ、どういうことだ?」
「こら、京一くん。順序を飛ばし過ぎです。でもまぁ、いいでしょう。尋問は近況整理をしてからにしましょうか」
俺を咎めつつも乗り気な奏さんが、ズイと前に出て桑園との距離を詰める。
「桑園さん。例えば昨日………和久くんが心神喪失する数分前、どこにいましたっけ? 本陣ではなかったはずです。私はあなたの姿をお見かけしていませんでしたし」
「それは………この最終日に向けて、足利ゲートまでの方向を確認し、諸々な計算を………」
「違いますよね?」
「は、は?」
「あなたは足利ゲートのある方角にいなかった。むしろ反対方向にいた。そうでしょう?」
「なぜそんなことが」
「証言があると言いました」
「っ………それこそ、悪意のある誰かによって………」
桑園は、証言をしたのが誰なのかわかっているようだった。そいつを睨む。間髪入れず、視線に割り込んで背で庇った。
「あなたはそこで、とある少年と会った。そうでしょう?」
「………誰でしょうな」
「和久くんですよ。放心状態となる前の」
「………証拠が、ない。それこそ冤罪だ! 私は和久に会ってなどいない!」
「果たして、そうでしょうかね。まあ、いいでしょう。それは一旦置いておいて。桑園さん。あなたはチーム流星において、独自のコミュニティを作ったそうですね。全員ではなく、一部のメンバーとよくご一緒にいらっしゃるとか」
「趣味仲間、というものです。なにもおかしなことはない」
「ほう、それはそれは。大した趣味ですねぇ。チームのなかでも馬が合わない者たちを追放しようと企てていたとか………」
「そ、そんなものは知らない!」
奏さんが距離を詰めると、桑園はその度に後退する。俺も昔は、よくああして詰められたものだ。あの異様な空気には逆らえない。
桑園は額に冷や汗を滲ませ、しかしそれを拭う余裕もなく、奏さんの意見に根拠のない否定を繰り返した。
「名都さんは以前から危険視していたそうですよ。桑園さんの企てに気付けずとも、空気で悟った。聞けば………そう。ここに来るまでの道のりで犠牲となった者たちの八割が、あなたと対立した経験のある者たちらしいではないですか」
「………偶然でしょうな」
「そして和久くんも」
「偶然ですっ」
「あなたは許せなかったのではないですか? チーム流星のブレインとして、名都さん以外のメンバーに意見されることが。そのプライドの高さが、今回の役を招いた元凶」
「憶測で語らないでいただきたい!」
「では、なぜ和久くんは、かつて対立したことのあるあなたの意見を素直に聞き、明後日の方へ駆けだしたのでしょう?」
「あの時は私が哨戒を頼んだだけです!!」
「認めましたね? 接触したことを」
「っ───!?」
やったぜ。
まずひとつ。言質ゲット。証人はここにいる全員。
「哨戒ねぇ。風呂桶持たせて、なにしようってのぉ?」
「なにを………」
「ほら、これ」
龍弐さんは銭湯などで使われているプラスチック製の黄色い風呂桶を掲げ、落とす。
するとどういうことか。カポーンと鳴ったのだ。
誰しもギョッとする。その音はディーノフレスターの足音に酷似していた。
「名都の指示とか言ってさ、足音で攪乱すれば絶対に自分のところには来ないとか、いい加減なこと言ったんじゃねぇのぉ?」
「なら昨日、保護された和久はなんなのですか!?」
「巧妙に作られたブラフ、かねぇ」
「それは追々。桑園さん。もう逃げられませんよ。私たちの手のなかには、すでに証言だけでなく証拠も揃っています」
「先程は無いと言っていたではありませんか!」
「ええ。でも………あ、できましたか?」
「はい。やっと完了しましたぁ」
奏さんに促されたのはマリアだった。非戦闘員にして、配信を封じられた配信者。しかし、だからと言ってできることがないわけではない。そこは彼女の本領発揮。才能を垣間見た。
「どうぞ。これをご覧ください。昨日の映像です」
「………なっ」
マリアはスクリーンを中継して空中に映像を投射する。
桑園は愕然とした。まさかこんなところに証拠があったとは思いもしなかっただろう。
そこにはディーノフレスターの襲来と聞いて、走り出したマリアの手のなかで収められた映像があった。メインカメラたるフェアリーは使えない。よってキューブ型のサブカメラで常に周囲を撮影していた。
映像は一時停止し、一部を拡大化する。
処理を何回も施し、雑だった部分を鮮明化する。
岩陰に、桑園がいた。反対方向にいたと主張していたのに、やっぱり俺たちの近くにいやがった。
「彼女が撮影し、編集したのはここ最近のあなたのものばかりです。さて、いったいどれだけ悪事が収められていることでしょうね?」
「くぅ………」
捻り潰すまであと少し。といったところかな。
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