第109話 結果を言い渡す
「桑園」
「は、はい」
「結果を言い渡す」
チーム流星の参謀、桑園を呼び出す。名都は「結果?」と呟いて首を傾げた。桑園は浮かばない顔をしていた。チームの今後、あるいは明暗を分ける依頼結果を、なにもここで発表するなと言いたげな表情だ。
だが、ここでやる。チームのためにも。
「桑園さんには、とある依頼を受けていました。チーム流星の護衛とは別で」
奏さんが前に出る。まるで、桑園に掴みかかるであろう名都を阻止すべく。
「その依頼料は、どこから?」
「桑園さんから、個人的に。しかし勘違いなさらないでください。桑園さんはあなた方を助けたかったのです。この依頼料は、もし仮に私たちがここを訪れなかった場合に、食費として提供する予定であったと聞いています」
「しかし………桑園! これはどういうことだ!?」
「落ち着いてください、名都さん。私から説明します」
資金難だったチームで、依頼料を出せるほどの貯蓄を隠し持っていたと知った名都は、やはり激怒して掴みかかろうとする。だが的確なポジションにいた奏さんは、強弓を持ち上げて進路を塞いだ。
「桑園さんは以前より───埼玉ダンジョンを攻略する途中で違和感に気付きました。降り掛かる災厄の連続。回避できない危機。そのすべてが、チーム内にいる裏切者が仕組んだのではないかと。今回、その内部調査を私に依頼なさいました」
「あなた方の実力を疑うわけではない。確かに内部調査に打ってつけだ。しかし………リーダーの私にも内密にするのは、あまりにも………これは明確な裏切りにも等しい」
「名都さんの仰りたいこともわかります。しかし今は、気を荒立てずに静聴してください。あなたにも関係のあることなのですから」
奏さんはじっと名都を凝視する。指先の動きまで、細かな部分にも注意していた。
「桑園さん。あなたは仰いましたね。ディーノフレスターに延々と追いかけられていたと。聞きとりを行った結果、あのモンスターと埼玉ダンジョンで遭遇した際、かなり怒っていたとか。つまりディーノフレスターが県をまたいで移動するほどの執拗ぶりを見せるほど怒らせた。そういうことですね?」
「………ええ。そう考えるのが妥当でしょう」
「なぜディーノフレスターは、そこまで激怒したのですか?」
「モンスターの考えることはわかりません。動物的な本能でいえば縄張りを荒らされたなどが該当するでしょうが、ディーノフレスターに縄張りはありません。行動で察知しました」
「なるほど。では、他に該当する理由を考えてみましょうか。私たちはディーノフレスターに誰かが攻撃を仕掛けたと見ています。いかがですか?」
「………ちょ、ちょっと………待ってください。それはおかしい!」
「なにがです?」
「それは………それはまるで、私たちが厄を招いたというのですか!?」
狼狽する桑園。名都は目を反らす。奏さんの意見を誰よりも理解しているからだ。
経緯はどうあれ、チーム流星はディーノフレスターとかいうヤバいモンスターを怒らせた。
埼玉ダンジョンという攻略前例が少ない秘境を踏破すべく、士気を高めたチーム流星。その撃侵を指示したのは、まさに名都だ。後悔してもしきれるものではない。
「そうとも言えます。そしてもうひとつ。今朝、行方を晦ませた和久くんという子です。京一くんの話しによると、あの足音に錯乱し逃亡後、放心状態となって保護されたとか」
「ええ、そう聞いております」
「彼の逃亡後の第一発見者は───名都さん。あなたですね?」
「なっ!?」
疑われていることに驚愕する名都。だが、同時に桑園も声を上げた。リーダーとして尊敬していた名都に嫌疑をかけられたことについて、ショックを受けたからか。
「名都さん。和久くんはなぜ、ああなったのでしょう?」
「わ、わからん。私も発見した時には、すでにああなっていて………」
「それをどう証明します?」
「………できない。口で語るしかない」
「でしょうね」
スパッと切り捨てるような口調をする奏さん。すると、いよいよ疑いが深くなったと焦ったのか、名都だけでなく桑園も焦り始める。
「お待ちください! 名都はそんなことをする男ではありませんっ」
「残念ですが、これを覆せる証拠はどこにもありません。埼玉ダンジョンからここに来るまで敗走をさせたのは誰ですか? これが私からの報告となります。さぁ、桑園さん。首謀者を全員の前で吊し上げ、全責任を取らせるべきです」
「ぐ、ぅく………」
桑園は悔しそうにしながら唸る。
名都は「冤罪だ! そちらこそ証拠を出せていない。私を信じろ桑園!」と叫ぶ。
桑園にとっても苦しいところだろう。尊敬していたリーダーと、大切にしていたパーティが崩壊するかもしれない。
葛藤は未だ続く。なにが最善かを探している。
やがて俯いていた顔を上げる。桑園は決断を下した。
「………残念です。名都さん。こんなところであなたを見捨てることになるなんて」
「桑園ッ!! 貴様っ………行く宛てがなく、ダンジョンをひとり放浪していたのを助けてやったのが誰なのか、忘れたか!? こんな知り合って一週間にも満たない者と、付き合いが長い私の言葉を、どちらを選ぶ!? 恩義を失ったか!?」
「馬鹿を言うな! そんなこと、言わないでください。恩義を一度でも忘れたことはない。だが………こうなってしまった以上、あなたをチーム流星の裏切者として、断罪するしかないじゃないですか!!」
怒号に怒号で返す。
それを聞きつけたチーム流星は騒然となって駆け寄った。名都の裏切りを知って、大半が激情を向ける。
桑園は本当に名都の断罪を悲しんでいる。できればそうであってほしくなかった。そう語る目をしている。
「嘘………名都兄ぃ………」
「おい。こりゃなんの茶番だ!? 兄貴がそんなことするはずねぇだろ!?」
利達と迅が名都を庇うも、鏡花が遮る。
「違う! 私はなにもやっていない! 和久のあの状態に関しても、これまでの道のりも、私は悪気のある舵取りをしていない! 私は一度たりとも、自分のためを思った行動などしていない!」
「名都さん。言い訳は無用です。もうなにも言わない方がいい。その分、ご自身を損なうだけだ。………本当に残念だ。あなたはとても優秀だった。失うには惜しい人材だったのに。………しかし、こうなってしまった以上、あなたを看過することはできない。数多の犠牲を出してしまった責任は、追放では生温い。ここでディーノフレスターの足止めをしていただく」
事実上の処刑を宣告する桑園。
血を吐くように言う。本当に名都を尊敬していたのだとわかる。
途端にチームの視線も変わった。名都から離れ始めている。そうしていないのは肉親である弟と妹くらいだ。
じゃ、もういいか。
「と、いうわけだ。チーム流星の裏切者。それは桑園。お前だな」
「………へっ?」
間の抜けた空気が満ちる。
俺としても完璧なタイミングだ。名都に向けられたヘイトが風船ように膨らみ始めたところで、針で突いて破裂させてやった。
名指しされた桑園は、なんとまぁ、呆けた表情で立ち尽くしていやがった。
ブクマありがとうございます!
推理パートになっております。作者はそういうの苦手なのに。しかしざまぁを志す以上、ある程度のヘイトは溜めなければなりません。違和感や穴だらけの強引な推理はこの時のためでした。
明日は日曜日なのでたくさん更新したいと思いますので、応援よろしくお願いします!