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第97話 テイマーの価値

「あー、わかった。わかったから、そんな寄るなって。近いぞ」


「〜〜〜ッ!」


 顔をズイッと寄せて威嚇するものだから、つい指摘すると、利達はやっと少女らしさを取り戻したかのように顔を赤らめて、バッと飛び退く。


 自らをスキル持ちと自称しただけあって、身体能力が優れている。まるで動物のそれ。


「お前ら兄妹ならさ、もうちょっと仲良くしたらどうだ?」


 俺には血の繋がりがないが、兄のように慕う龍弐さんと、姉のように慕う奏さんがいて、妹として扱う鍔紀がいる。どれも喧嘩に持ち込んだら厄介な相手だ。


 この迅と利達も同じだろうが、スキルの有無でこうも差が開くとなると、過去になんらかの確執があるか、負い目があると見た。


 おそらく仲裁は不可能───それでもなかに入って喧嘩を止めることなら可能だ。この俺が一挙に視点を集めて、喧嘩を忘れさせることができるほどの敵愾心を煽ることも。


「テメェには関係ねぇだろうが!」


「すっこんでろよ余所者がぁ!」


 ほらな。怒りの矛先が俺に向く。


 鏡花と桑園のようなものだ。けど、好印象が俺のなかにあるだけ、こちらの方がまだマシ。


 迅は俺よりも高身長で、年上かもしれないと考えたが、この程度の挑発に乗るくらいだ。精神の成長具合からして、俺と同じか下。利達はもっと下。


 そう思うと、鍔紀を思い出してしまう。あの野生児みたいな身体能力と、あどけない顔を。それに比べれば本当に可愛いもんだ。


「なに笑ってんだテメェ!」


「馬鹿にすんなよ!」


「はは。悪い悪い。なんか懐かしくてな」


 こう絡まれると、まだ一ヶ月も経過していないのに、軽井沢郊外にある故郷を思い出す。クソッタレ上司兼養父と野生児の妹がいる、外見も内装も汚くて、暖かい家が。


 マリアのように高性能のインカムが無い限り、声を聞くこともできない。鉄条はエリクシル粒子適合者であることだし、フレンドリストに入っているのでメッセージのやり取りは可能。たまにはあちらの状況でも聞いてみたくなった。



「なにをしているお前たちっ」



 と、兄妹喧嘩に劣らない声量で叱責が飛ぶ。


 ギクッとなる迅と利達。俺はこの程度、鉄条の罵声で慣れているので驚きもしない。


「あ、兄貴………」


「名都兄ぃ………」


「ハァ………こんなことだろうとは思っていた。お前たち、どういうつもりだ。状況が理解できないわけでもあるまい。そして言ったはずだ。マリアチャンネルの皆様方に迷惑をかけるなと。それがなんだ、この有様は! 仲裁をして下さった京一さんを責めるなど言語道断! 恥を知れ! この愚弟! 愚妹!」


 なるほど。こいつらにとっての名都は、俺にとっての奏さんと同じか。どうあっても逆らえない。


「京一さん。ご面倒をおかけした。愚弟と愚妹の粗相は、長兄の管理不行き届きである。申し訳ない」


 名都は潔く頭を下げた。四十人の名を連ねるパーティのトップに相応しい人格者だ。俺みたいな得体の知れない他人でも、礼儀を尽くしている。


「いや、別にそれはいい。だが………」


「愚弟の件、でしょうか」


「ああ。テイマーなんだろ? 重宝しねぇのか?」


 テイマーというクラスは珍しいだけでなく、有望とさえ言われている。


 モンスターを使役する能力は偵察や囮としても使える。古来より人類史における人間と猟犬の関係のように。


 それを知らない名都ではないだろう。なんらかの理由があるとは思っていたが、このタイミングで聞くのは踏み込みすぎたか?


「迅のモンスターは、猟をするにも偵察をするにも不向きです。ご覧ください。まだ幼く、戦闘能力も低い。こんなの、ただの的になるのが関の山。弟には、もっと優れたモンスターをテイムするよう言っているのですが、この有様です」


「ふーん………」


「迅にはそのモンスターとの関係を断つよう言っているのですが、一度了承し、やっと姿が見えなくなったと思いきや………まさか隠していたとはな。これはどういうことだ。迅!」


 合理的に考えればそうだ。有益にならないのであれば捨てるしかない。


 チーム流星は群馬ダンジョンに戻ってからも素材回収が満足にできないほど戦力の枯渇化が顕著となり、食糧問題が取り上げられている。迅とやらのテイマー能力も着目したいところだが、役立たずであれば足手纏いにしかならず。名都は迅を振り返ると詰問した。


 利達はその様子をニヤニヤして眺めて───いない。物悲しそうにしている。


 それから二分ほどで決着が付いたようで、名都は迅のシャツの襟を掴むと強引に牽引した。


「申し訳ないが、私たちは本陣に戻る。あなたもすぐに戻られるといい。今晩の見張りはこちらが受け持つ。ゆっくり休まれよ。………行くぞ。迅。利達」


「………くそ」


「………はい」


 俺の返事も聞かず、去っていく三人。すぐ戻れとは言われたが、あの三人に並んで歩く気にもなれず、しばらくその場で佇んでいた。


 ふと足元を見ると、迅が可愛がっていた三匹の幼獣の姿は消えていた。


「そういえば、あの三匹………なんて種類のモンスターなんだ? 見たことがねぇ。新種か………?」


「あれは多分、ここらにはいないモンスターだよぅ。埼玉ダンジョンとかに出るんじゃね?」


「龍弐さん。見てたんですか?」


「まぁね」


 背後にはいつの間にか龍弐さんがいて、俺と並んで名都どもが去った方を見る。


「テイマー、ねぇ。俺の知り合いに何人かそういうのいるけど、今のとこ、あの迅くんってののやり方が合ってるのかもしれないねぇ」


「どういうことですか?」


「モンスターはモンスターってことだよぉ。所詮、獣畜生どもさ。本来、人間とは相容れない存在。端的に述べればねぇ。人間とモンスターに絆なんて素敵なものは芽生えないてことぉ。本気で愛し合ってるなら、今すぐ精神科に連れて行くべきだってさぁ」


「物騒なこと言う奴ですね」


「それがまた、事実で現実的なんだなぁ。モンスターは人間を主人として扱っちゃいねぇのよぅ。人間にそう勘違いさせるよう仕向けるんだね。………で、油断させたり、隙を見せたら………パクパクムシャムシャ。これを俺に話した奴、命に別状はなかったけど右半身を食われて、今病院にいるんだねぇ」


 なんともシビアな話だ。


 だが、龍弐さんの知り合いが言うなら間違いない。


 大学の入学式というイベントで、たった一日で友達百人作って帰ってきたコミュニケーション猛者だ。だったら、冒険者と繋がりがあるに違いない。


「で、迅くんのやり方だけどねぇ。失敗した奴は成獣を調教したっつってたけど、迅くんはほらぁ。幼獣でしょぉ? ほぼ赤ん坊だ。迅くんはママそのもの。調教するでも飼い慣らすでもない。親子としてやっていくのが、理想なのかもねぇ。だって埼玉ダンジョンでバイバイしたはずが、健気に県境を越えてここまで追ってきたんだし。あの幼獣たち、迅くんを疑ってないよ」


「時期がまずかった。それだけですね」


「そゆこと。チーム流星が安定した状態で、長期遠征で数ヶ月を行動可能なら、あの幼獣たちもすくすく成長して、立派な戦力になっただろうね。………ところでキョーちゃん。やるじゃない」


「なにがですか?」


「諜報活動だよぉ。あの桑園って野郎に嫌味言われずに済むかもねぇ」


 怪しむべき人物の特定か。


 それがまさか、候補に入れるべきが迅とは。


 それとも利達か。今はなにも言えないが、接触に成功した。情報はこの上ない武器となる。


「それに、キョーちゃんはもうひとつヒントをゲットしたねぇ」


 これはわかる。龍弐さんと同じことを考えていた。


五回目!

くはぁ………疲れた。なんとか気力で書き上げました。

今日は車を運転しながら、進むべきルートを探してました。といってもダンジョンだから走った場所の地下をイメージしたのですが。

なんだかまた情報が混乱しそうになっておりますが、このまま継続します。よろしければブクマ、評価、感想をぶち込んでいただけると作者の励みとなりますのでよろしくお願いします!

明日から二回更新に戻ります。

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