本編58
「おはよう目が覚めた?」
目を覚ますと壊れた屋敷ではなく見知らぬ部屋だった。声をかけてきたのはハルカ…のはず。見覚えのあるのだが少しあやふやだ。
「あれから1週間も寝てたんだよ」
「1週間…」
「アラ、ようやく起きたの?」
部屋に入ってきたのは金髪で気の強そうな女性だ。この人も見たことある気がするんだがあやふやで上手いこと思い出せない。
「エミリア?」
「それ以外ないでしょ…」
「ごめん…俺今までの記憶全部…遠いところにある感じで上手く思い出せないんだ」
「それは家族の事も?」
「それらは一切思い出せない」
「仕方ないよエミリアちゃん、今こうやって普通に話しているだけでも奇跡なんだから」
「俺が倒れてから何があったか聞いてもいいかな?」
2人の話をまとめると、倒れてからハルカがレンジュを倒した。彼女の最後の顔は何か思い出して笑っていたそうだ。俺達が居る部屋はそのレンジュが拠点していた場所だそうでここで俺が起きるのを待っていたらしい。
「その、レンジュは起きてくることは無いんだよな?」
「そうね、最後は埋めて墓も立ててやったし大丈夫だと思うわよ」
「そっか」
「今後の事なんだけどいいかしら」
「?」
「希望や愛情を徴収される夢の国でアンタ達2人が生きていくのは厳しいの、だから探しましょう」
「何を?」
「私達でも住める国を」
この国は税金だけでなく人の大切な思いすら奪ってしまう。過去の記憶を全て使い切った人間なんてすぐに廃棄されてしまう。
「どこの国がいいとかあるのか?」
「それを探すのもまた旅の醍醐味よ」
「楽しそうだね!」
「えぇ…」
ハルカとエミリアは笑いながら旅の必要なものを準備してくると言い部屋から出ていってしまった。
「とりあえずもう一眠りするか」
そう言って瞼を閉じた。
起きて時計を見ると6時、朝日がゆっくり差し込んで来ている。部屋から出て1階へ、ここは教会として使っていたのか祭壇やら色々置いてあるが昨日2人が旅の準備をしたのか物が散乱している。
「あぁ…う、おはよう」
椅子で寝ていたハルカが起きてこちらを見る。
「あぁ!レン君が起きてる!1週間寝てたんだよ」
「昨日も聞いたよそれは」
「昨日は寝っぱなしだったよね?1週間ぶりなんだよ」
どうも話が噛み合わない、昨日ハルカと会話したはずなんだけどな。
「おはよう2人共今日出発する予定だけど」
エミリアもここで寝ていたのか椅子からムクリと起き上がってきた。
「見て見て!レン君起きてるよ…というかなんで物が散乱してるの?」
「あ〜今日で1週間だっけ?」
「????」
「ハルカ…ノート見て」
「うん……」
「エミリア、ハルカはどうしたんだ?」
「レンジュに渡したアークの反動でこの子は1週間しか記憶の保持が出来なくなったの」
「なんで分かるんだ?俺が倒れて1週間経つんだからもし話が本当ならもっと焦ったり混乱するだろ」
「ハルカ本人がそう言ったのよ、私は未来の愛情までレンジュに渡した、だからその反動で物事の記憶が1週間でリセットされるって」
「リセットされたら何処の記憶から始まるんだ?」
「レンジュを倒した日からに戻るわ」
「あー!うん確認したよ過去の私、今日この国から出るんだね」
「そうそう、準備もしたし行きましょうか」
「エミリアはいいのか?俺達について来て」
「どうせこの国に居たって廃棄されるだけならアンタ達について行った方が何倍も面白いと思うわ」
「そっか」
「じゃあとりあえずこの家から出ましょうか話はそれから」
俺は過去を失った、ハルカは未来を、エミリアは体を全員何かを失ったけど今は満足だ。本当にそう思う。国を探す旅は難しいけれど3人なら何とかなる。
「みんな早く行こう!」
ハルカが先陣を切って家を出る。この笑顔を見る為に今まで頑張ってきた気がする。俺達の住める国が見つかりますように。