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狙撃兵は戦略爆撃機を撃ち抜く

「戦況報告を!」


 ここは、南の大陸にある砂漠だ。

そんな砂漠にて、爆発音と機動音があちこちから聴こえる。


「敵の消耗率は二割! 対してこちらは三割強です!」


 砂の上で、滑るようにして移動するのは十メートル程の巨人、魔法で動かす人型戦術駆動機、通称〝HTDM(ヒュードラム)〟は、小隊規模の四機に固まっては、敵を見つけ次第手に手に持っていた〝25mmマシンガンSCRICE〟で射撃する。


 灰色のメタル色のプレートを装着している、胴体がずっしりとした機体だ。

頭部はカメラに該当するのか、蒼い一つ目を宿している。


「左翼、後退許可を求めています!」


「駄目だ! ここで突破されたら我が皇国は防衛戦へと移り変わる! なんとしても死守しろ! あと少し堪えたらよぉ……増援が来て此方の勝ちなんだ!」


 しかし、ぞの四機も他の敵機に見つかって、敵の持っている〝20mmマシンガンRAPTA-34〟に蜂の巣にされると、その四機は煙を吹きながら動かなくなった。


「!? この反応は……ッ」


 そんな鉄と火の戦場の中、突如やって来る大型の反応を感知する。


「なにがあったッ?」


 レーダー反応を監視していた士官は、後ろから必死の形相で睨んでくる指揮官に対して、重々しく感じる口を開いた。


「…………て……敵の〝戦略爆撃機〟です」


「な、〝()()()魔道兵器〟だと?」


 この世界に於ける、戦略級兵器というのは、一機で戦場を変える力を持つ魔道兵器の事だ。

砂漠を走っているHTDMも同じように、彼ら皇国ではそれぞれの兵器に危険度として、下から順に、下級、上級、戦略級、そして詳細が不明な兵器には、未知級と呼んでいる。


「……もはやここまでか」


 戦略爆撃機は敵国である、王国がたったこれ一機で一師団が作れるであろう程の資金を注いで建造された超弩級航空機だ。

皇国は、今までアレに散々苦しめられてきたのだ。


 魔法で動かしている為、幾ら重くても無理矢理浮かせられ、それによって装甲も異常に硬い為、唯一の弱点はブリッジだけである。

しかし、そんな小さな動く弱点を当てれる筈もなく、対処法が浮かばなかった。


 ……もし、()がこの場に居たら、こういうだろう。


──いや、戦闘機作れよ。


『いや、戦闘機作れよ』


「「「!!?」」」


 突如聞こえた青年……いや、落ち着いた少年の声が響き渡る。

魔法の水魔法と光魔法を応用して作られた丸いモニターに視線を向けると、そこには洒落た黒いコートを来た少年が居た。

背景からして何処かの機体に乗っているのだろう。


「だ、誰だ君は!?」


 慌てて指揮官がそう問い詰めるが、白髪の獣人の少年は冷静な声で応えた。


『只の一兵卒です』


「い、いっぺいそつ?」


 この世界には一兵卒と呼ばれる階級は無く、あるのは貴族の爵位だけである。


『冗談です。〝亜騎士家〟のネクラ・レイーゼです』


 亜騎士家、という単語が飛び出た途端に、指揮官やその他士官の顔は面白くなさそうな表情をしている。

亜騎士家というのは、騎士家という爵位と同等だが、立場は少し下である。

理由として、皇国……否、殆どの国々が亜人という種を見下しているからだ。


 しかし、それでもやはり中には上手いこと功績を上げる者も居る。

その為に設けられたのが、亜人用の爵位である亜騎士家である。


「それで、その騎士様が何用かね?」


 指揮官は不快感を隠さずに、取り敢えず通信してきた理由を聞く。

獣人の少年は、それを聞いた途端、口をニィッと三日月のように広げた。


(なんだ? 謎の威圧感を感じる)


『……墜として欲しいですか? アレ』


 少年の言う、アレ、というのは恐らくだが敵の戦略爆撃機の事を言っているのだろう。


 しかし……


「は? 無茶だ。高度は今降下してきているとはいえ、それでも五千だぞ!」


 士官が間抜けな声を晒すと、如何に至難な事かを教える。

高度と横軸の距離もある為、実際にはもっと遠いであろう。


 そして、HTDMが使う射撃武装は、25mmマシンガンSCRICEだけだ。

精度も良いとは言えないし、そもそも限界射程距離は三キロメートルまでだ。


『別にこのマシンガンを使うわけじゃありせん。敵には長距離砲があるじゃないですか?』


「あぁ、そ、そうだが……いやまさか!?」


 少年の物言いに、士官が察したようである。


『こいつの限界射程距離は十キロメートルだ』


 少年が気味悪く、またニィッと嗤うと『んじゃ、早速実行してきます』と言って通信を切断した。

疲れたように、士官は椅子に背を持たれかけると、指揮官は未だに不快感を表しながら、戦況を聴いた。



 ◉ ◉ ◉



「ほんと、嫌になるね」


 魔力による淡い光で照らされたコックピットの中で少年──ネクラは、パネルパールという通信したりマップを見たり残弾数を確認できたりと、色々操作できる魔法の集合体みたいな、そんな物を色々と弄ると、マップと自機体の状況を確認できるUI等を表示させる。


「初陣がこれ(最前線)って本当にこの世界クソ」


 ネクラは転生者だ。元々は一般日本人だったネクラは、ゲームのやり過ぎでフラついた状態で自転車乗って車にはねられるという間抜けな死を遂げた。


 そして、気付いた時には、亜騎士家の五歳の三男になっていた。

勿論、転生するその前の記憶──今は忘れたが──も当時はあった。


 亜人たからか、美形──しかも鳥肌が立つようなイケメン(笑)ではなく、美少年になったので今世での自分の容姿には大満足している。

髪が白いのも気に入ってるし、瞳もちょっとオレンジの混ざった黄色である。


 まぁ、姉の趣味で髪は本当に獣──狼のように少し刺々しい印象を受ける髪型なのだが。因みにロング。

そのせいで、体のラインが出ないような厚着をしている時は、毎回少女と間違われている。


 畜生。


「えーっとこいつの動かし方はっと」


  ネクラが乗る機体は、右手でトリガーを引く準備をして、左手で左右に突き出ているグリップを握り締める。

言い忘れていたが、この砲、全長で十二メートルという、HTDMよりも長く、そして高威力の為か、HTDMの力でも両手で持ち上げるのが精一杯だ。

使用弾丸は220mmとかいう頭可笑しいんじゃないかというくらいの化物弾だ。


 因みにだが、敵国が持っている筈のこれを持っているということは、お察しの通り、ここは敵陣ど真ん中である。


「ふぅ~」


 一度、深い深呼吸をすると、ネクラは目を鋭くさせ、空に浮かびながら此方に背を向ける戦略爆撃機に砲口を向ける。

名前は確か……エリシオンという名前だった筈。爆撃機の名が理想とは皮肉である。


「思考加速」


 ネクラはそう小声で呟くと、瞳が淡く光る。

そして視界は色が白黒になり、視野が広く、そして全てがスローに見える。

脳からの伝達が速くなるのを感じながら、ネクラは自分視点から見てゆっくりと照準を合わせる。


 砲のスコープとリンクされて映るカメラには、うっすらと見える十字のレティクルが、エリシオンのブリッジ……のガラス越しに見える内部を狙う。


(行けるっ!)


 そして、ネクラは引き金を引けた。



 瞬間、聴こえるのはコックピット内部からでも、耳元で聞こえたかのような轟音の爆発音。

耳鳴りが五月蝿いのを感じながら、ネクラは着弾結果を見ようと、空に視線を向ける。


 そこには、ブリッジ内部から、爆炎と煙と吹きながら、ゆっくりと撃墜していくエリシオンの姿があった。


 その後、増援が来た皇国は、なんとかこの戦いに勝利した。

初めての短編小説です。

興が乗ったら連載版でも書こうと思ってます。

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