夕暮れの町、大好きだった人
夕暮れの町を歩くのは大好きだ。
ちょっぴり寂しくて、どこか懐かしい。
小学生の時、まっすぐ家に帰らず公園に寄って遊んだ、とか。
中学生の時、迫りくる期末テストにおびえながら帰った、とか。
高校生の時、淡い想いを胸にドキドキしながらわざと遠回りした、とか。
そんな思い出たちがよみがえってくる。
その思い出には、必ずあなたがいる。
私の初めての友達で、親友で、初恋の人。
夕暮れの町の思い出は、全部があなたとの思い出だ。
だから、高校を卒業した後の思い出はない。
私は地元の短大に進んで、あなたは遠い町の大学に進んだ。友達以上恋人未満だった私たちの仲は、冗談半分のたった一度のキスで終わった。
もしも、だけど。
あの夏、もう一度会えていたら、もう一度キスして恋人になったのかな?
考えてみたけれど、よくわからない。でもなんとなく、もう一度会ったとしても、キスはしなかったような気がする。大好きだったけど、恋人になって肌を重ねて愛し合う、ていうのはなんだかピンとこない。
手をつないで、大声で笑ってじゃれあっている、友達以上恋人未満の関係。
それが、一番しっくりくる。
「なーに感傷的になってるんだか」
私は道の真ん中に転がっていた石を蹴飛ばした。こうやって、家まで石を蹴って帰ったりしたなあ、なんてことを思い出し、夕暮れの町をのんびり歩いて行く。
大丈夫、悲しくないよ。
いつも隣にいたあなたを思い出しながら、私はゆるい坂道を登っていく。その先にある階段で山の中腹にあるお寺へ向かい、まずは我が家のお墓にお参りした。
それから、お堂の反対側へ行き、あなたが眠るお墓へ向かった。
「おっす。私、明日お嫁に行くよ」
なんで骨になって帰ってくるかなあ、この男は。
新婦の友人代表として挨拶させて物議をかもす、なんてイタズラしたかったのに。私の計画を狂わせた恨み、死ぬまで忘れないからね。
「そのうち子供連れて帰ってくるから。楽しみにしててね」
じゃあね、友達。
また来るよ、親友。
忘れないからね、初恋の人。
私はこの町を離れ、未来へ進む。
だから、夕暮れの町とともにある、あなたの思い出は置いて行く。
でも時々、夕暮れの町を見に帰ってくるから。
そのときは、温かく出迎えてね。
「さーて、行くか」
ばいばい、大好きだった人。
私、ちゃんと幸せになるから。
だから天国で、見守っていてね。