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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

野次馬

作者: 葉沢敬一

 俺は野次馬である。世界中を飛び回ってトラブルが起きているところに出向いて取材をし動画を通信社に送って金を得る。

 肩書きはフリージャーナリスト。

 何かスゴイことをしているように思う人も居るのだが、野次馬が本業なので仕事と両立させているだけ。

 先日もアフリカの紛争地帯に行って、現地人どもが頭吹っ飛ばされるのをワイン片手に動画に収め、日本に送った。日本はアフリカに関心がある人が少ないようでテレビではその動画は使われなかったらしい。畜生。

 まあ、野次馬としては満足したんだけどね。

 そこはあんまり金にならないから、もっと先進国のテロやっているところに行きたいと勃起しながら渇望する。シャッターチャンスを得て、スクープをモノにしたい。金儲けでウハウハしたい。

 最近はスマホで動画をアップするのが流行って、野次馬としては競争者が増えて困る。日本でも自殺しようとしている奴を撮影しながら早く死ねと叫ぶ連中で一杯だったそうじゃないか。野次馬の集団だ。

 で、俺はヨーロッパの某国に来た。ちょっとしたことで政権打倒のデモが始まり、暴動になっている。人人人。大群衆が放火したり車をひっくり返したり、警察に石を投げたりしている。幸せだ。国も軍隊とか出して爆弾とか投下してこの群衆を爆殺すれば面白い絵が撮れるのに。

 もっと面白くしたい。俺は、倒れている奴から上着を引き剥がすと、脇のバイクのタンクに乗せてライターで火を付けた。爆発すると大騒ぎになるぞ。うひひひ。

 離れてその様子を撮る。群衆は気にせずバイクの近くに居る。

 ボーン!!! 爆発炎上した。楽しい。いい絵が撮れる。これで何人か死んでくれるといいなぁ。

 もちろん、こんなことは公にはしない。悲壮そうな顔取り繕って当地ではこんな暴力が行われています。暴力反対! と叫ぶ。みんなやっているじゃないか、暴力反対といいながら慎重派をフルボッコにして。野次馬はそれを見ながらオナニーして、全世界に配信する。俺もクズだが、人間は元々クズなんだよ。その人間が痛い目に遭えばそれはそれで美味しいじゃないか。

 バイクを炎上させたのを見ていた奴らしいのが、俺に詰め寄ってきた。

「ノー! ノー! アイム プレス!」と片言の英語で言い、この国の宣伝省で貰った腕章を見せる。男は悪態をついていたが離れていった。お前の国の報道も俺みたいな野次馬ばかりなんだろうな。そして、外国人は領事館によって守られているんだよ。クソ野郎どもめ。

 車に戻ったらガイド兼運転手が「お前はクズだ」と罵ってきた。別になんとも思わない。俺はクズだ。第三帝国や大日本帝国は悪だとか言っている奴がいるが、本当に邪悪なのは扇動するメディアだってことを分かってない。好奇心や認められたいという気持ちがねじ曲がった野次馬たちが戦争とか煽り立てる。俺はそんな連中の片割れ。ちっぽけな一分子。

 よし、いい絵も撮れたことだし、今日は女でも抱くかとホテルへ帰る。

 翌日、暴動を扇動しているカルトの取材に行く。ちょっとイカレた連中で、銃を片手にピリピリしてる。記者ということでアポしているので、すんなり通してくれる。メディアの重要性は分かっているようだな。これが議員とかだったらズドンと一発頭に食らって終わりだ。

 インタビューを始める。怒らせないように、言いたいことを言わせるのがコツだ。どうせ後で好きなように編集できる。まあ、編集するのは本国の連中だけれどな。このカルトを正義に見せたいか、悪に見せたいかは、本国の連中の胸先三寸にある。俺のせいじゃない。まあ、掲載される頃にはこの国を離れているから大丈夫。

 カルトのリーダーは益体もないことを真剣に話していた。俺はニコニコしながら聞く。

――国が悪い、政治家が悪い、俺たちは革命を起こす。全てをぶち壊して新しい正義を打ち立てる。

 はいはい、良く聞く文言ですね。みんなそう言うんだよね。それで、結構な人が死んだりするんだけど、そういうことは気にしない。野次馬もそういうのは大好き。革命バンザイ! どんどんやってくれと焚き付ける。

 インタビューを終えて駐車場に行くと運転手が青い顔していた。頬に殴られた跡がある。来る前に「お前、こんな奴らのインタビューするなんて頭おかしい」とか言っていたから、用心棒のカンにでも触ったんだろう。無言で車を出せと命ずる。

 帰り道、デモ隊と警察軍の睨み合いに出会う。渋滞していて迂回しようにも川を渡る橋を閉鎖している。クズどもめ。と、対峙していた警察軍が発砲しはじめた。マズいと思って引き返せと怒鳴ったが、後ろにも車が詰まっていて身動き取れない状態。だが、シャッターチャンスだ。車の中から撮影する。

 運転手はドアを開けて逃げ出した。前方から戦車が車をペシャンコに潰しながら迫ってくるのが見えたので、車を飛び出す。

 逃げようとしたら脇に居た兵士に引っ掴まれ倒される。

「記者だ!」と叫んだら、兵士はニヤリと笑い、

「そうか!」と答え、俺の頭に向かって9mm弾を2発撃ちやがった。

 いい絵撮れたかな……と思ったのが最後の思考。

葉沢敬一の『気軽に読めるファンタジー短編集』からの抜粋です。今回、後書き以外を「なろう」に全部掲載することにしました。

Kindle版の方は、Kindleで縦書きで読みたい人向けです。こちらはKindle Unlimitedという定額読み放題サービスに対応してます。

現在、続編を執筆中。https://amazon.co.jp/dp/B08D8L221J

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