天使の呼び声
あはは!あはは!
なんて広い空!雲ひとつなくて、まるで私を祝福しているみたい!
今日は私の大切な日!
ずっと待ち望んだ、私が空を飛ぶ日なの!
嬉しくて仕方なくて、つい98階建の高層ビルの屋上まで来てしまったわ!
普通の人はきっと恐ろしい高さでふるえてしまうのでしょうね。
でも私は違うの。私は飛べるから!
ああみて、人が豆粒みたいよ!ここからでもわかるわ。みんな私が初めて飛ぶ姿を観に来てくれたのね!
最初は私も、なにかの冗談かと思ったわ。
でも、あの子は夢に何度も出てくるの。
そして私に言うのよ
「君は選ばれた人間なんだ。空を飛べるのは君に与えられた才能なんだよ。そしてその才能は、僕たちの元に来ることでこそ行かされるんだ。」
その子は汚れひとつない真っ白な服を着て、澄んだ瞳で私に訴えるの。私は言ったわ。
人間は空を飛べないの。階段でつまづくだけでも死んでしまうような、弱い生き物なのよって。
そしたらその子はニッコリ笑って、少し力を入れる素振りをしたの。するとビックリ!背中から白い羽が生えたのよ!もっと驚いたのは、私にも同じように羽が生えていたことよ!
その子は私の手を引いて、一緒に空を飛んでくれたわ。最初は一人で飛べなかったけど、何時間でも一緒に練習してくれたの。自分から出せなかった羽も、今では簡単に出せるわ。その子は最後にこう言ったの。
「僕たちの元にいこうと思ったら、勇気を出して飛び降りるんだ。そして今のようにグッと力を込める。そうすれば、きっと導きがやってきてくれるよ。」
さあ、いよいよ本番。
大丈夫、何度も練習したもの。
息を整えて・・・背中に力を込めて・・・飛ぶ!
ヒュゥゥゥゥゥ・・・
・・・あれ・・・どうして・・・?
羽が・・・羽がこない・・・!
なんで、あんなに練習したじゃない!
夢の中だけじゃなく、現実でも何度も繰り返したのに!みんなは不思議がっていたけど、私には羽が見えていたもの!飛べるはず!
向こうへ行った時用に真っ白なドレスも買ったのに!なんで!何が間違っているの!
・・・あれ?そもそもどうして飛べるって思ったんだっけ・・・。そうだよね・・・だってあれ・・・夢の中の光景じゃない・・・。
私・・・なんで・・・落ちているn
グシャリ
高層ビルの周りではサイレンが鳴り響いていた。飛び降り自殺の野次馬と、警察の捜査隊で現場はごった返しだ。
「あーあー・・・まーた死人か。それもまた子ども。いつものように純白の服か・・・。」
無精髭をたくわえた捜査官がやれやれと頭を抱えてやってくる。
「ここ最近こればっかりですよね。少年少女の飛び降り自殺。年齢は14から17歳で、服は真っ白な無地。もはや自殺じゃなくてなにかの事件としか思えないですよ。」
20歳くらいの若い警官が続けてやってくる。
「全くだな・・・だが、彼らには繋がりがない。かつて命令ゲームがきっかけで何十人もの子どもが自殺したケースがあるが、今回はどれだけ調べても繋がりがない。」
「でも確か、どの子も死ぬ3日4日前からおかしな言動をしてるとか聞きますけど・・・」
「あー・・・天使がどうとか言ってるんだっけか。だが天使だと飛ぶだのというワードで調べをかけても何も当たりゃしねえ。おかげさまで『天使の呼び声』なんて名称が事件についちまった・・・。」
「でも・・・それもあるかもって思っちゃいますよね。ここまで同じように死者が出ると・・・つい。」
「バカ言え。こんな死に方を求めてくるやつのどこが天使だってぇの。・・・これじゃ死神だぜ・・・。」
2人の警官が向く方向には、少女だったモノが一つ。
純白のドレスは、真っ赤に染まっていた。
あれ・・・ここは・・・どこ?
あ・・・あなたは・・・天使さん・・・。
そっか・・・ちゃんと来れたんだネ・・・わたシ・・・。
エ・・・?おねガイごとガ・・・アル・・・?
ウン・・・いいヨ・・・ワたしをここマデつれてキテくれた・・・テンシサンのおねがイだモノ・・・。
ウフフ・・・スゴくからだガカルい・・・。
そうだネ・・・モットタクサン・・・ナカまヲフヤサなイトネ・・・。
サア・・・アタラシイテンシヲミチビキマショウ・・・。