12・動き出す物語
「一体、誰が四元竜なんかを……」
そう口に出掛けた言葉を、思い直して飲み込んだ。
ナラハトはザナドゥのトップの名前を”答えられない”と言った。
「ザナドゥは何の目的で……」
ナラハトは、その目的も分からないとも言っていた。
でも、これでは何も聞き出せないぞ。いわゆる八方塞がりだ。
頭を使うんだロディ、魔物学部の俊英なんだろ? リルリル室長の柔軟な思考を見習うんだ。
温めるのではなく冷めにくくするために水筒そのものを見直し内部を二重構造にするという発想の転換を……発想の転換?
「じゃあ、そんな目的不明の組織にナラハトはどうして参加しようと思ったの?」
僕の質問に、余裕ぶって薄笑いを浮かべていたナラハトが渋い顔をした。
「いきなり核心を突いてきたな」
「さあ、答えて貰うぞ」
「だから口調が怖いって。ああ、言いますよ。ただ、これはイシュラッドの機密情報にあたるから、くれぐれもご内密に」
ナラハトは、周りに人なんていないというのに、ワザとらしく僕の耳元でゴニョゴニョと、ご内密な機密情報とやらを囁いた。
「砂竜王が動いた!?」
「声がデカいぞ。ご内密にって言ったでしょ?」
「だって、ナァルを除く四元竜は休眠中だと聞いているけど」
「最近さあ、西風が強いと思わない?」
西風が? ふと、西風の強さにコートの前を掻き合わせたのを思い出した。
「西の神樹に……嵐竜王に何か起きたのか?」
「ハイ・エルフのガードが固すぎて踏み込んだ調査は出来なかったんだけど、あれは何かを隠している様子がアリアリだったな」
「イシュラッドでは何が?」
「近年に無く『砂竜』が湧いてね。砂竜は、砂竜王の眷属だ。火竜が焔竜王の眷属であるように」
砂竜、いわゆるサンドワームは、ワイワームやレイクサーペントに近い砂漠の亜竜種だ。
ワイワームらが水辺を好むのに対し、サンドワームは砂中に潜り、何も知らずに通りかかった哀れな犠牲者を飲み込むという。
「街が一つ、サンドワームの群れに飲まれたんだ。イシュラッドは独自にクオテリオンの調査を始めたかったんだけど、なんせ合議制だろ? まあ、話がまとまらなくってね」
ナラハトは指で輪っかを作って、「お金が絡むと揉めるのよ」とお道化てみせた。
「だから、オレが単独で調査をしようと思っていた矢先に、ザナドゥに誘われたってワケ」
「ザナドゥに加入してみて、何か分かったの?」
「クオテリオンが目を覚ましつつある、という事までしか分からなかった。それだけでも十分ヤバいんだけどな」
ナラハトのいう通り、確かにヤバい状況だ。
それは各地で焔竜禍のような大災害が起こる可能性があることを意味している。しかも、同時多発的に。それはユーラスティア大陸崩壊の危機といっても過言ではないだろう。
「今になって、どうしてクオテリオンが目を覚ましかけているのだろう?」
「ロディは当然、リエッダの建国伝説を覚えているよな?」
「リエッダが3人の家来を従えて、邪悪な竜の女王を討伐したって昔話?」
「うんうん、それからそれから?」
「4つに裂いた女王の身体を、それぞれの家に持ち帰って土に埋めましたとさ。めでたしめでたし」
「はい、良く出来ました」
パチパチ拍手するナラハト。
舐めてんのか、こいつは。そこらの子供でも知ってる話だぞ。
「ザナドゥのボスがね、”4つに裂いた身体”っていうのは、ずばり『竜血晶』を指すんじゃないかって睨んでんだ。そして、女王のシャードが長い年月を得て四元竜クオテリオンとなった、と」
「それはまた壮大な物語だね。魔物学で語るよりも、考古学とか神話学でする話だ」
ザナドゥというのは終末思想のオカルト集団なのだろうか? 荒唐無稽すぎて真面目に検証する気にもならない。
シャードがドラゴンになるだって? 馬鹿々々しい。そんな卵がニワトリになるような話……って、卵はニワトリになって良いのか。って、あれ?
常識が覆りそうな仮説に動揺していると、ナラハトは追い討ちのように言葉を重ねてきた。
「お前はリエッダの建国伝説を、どう思っている?」
「事実を元に脚色された神話としか思っていない。奴隷の少女に過ぎなかったリエッダの王権を裏付けるための創作だよ」
「ところがそうとも言い切れないんだ。ロディは、リエッダのお供の名前を知ってるか?」
「西方のエルフ、南方の戦士、東方の剣士としか知らない」
「南方の戦士の名前だけど、『ユガ』っていうんだ」
ユガ? どこかで聞いた名前だけど……
「あれ、ナラハトって?」
「はい! ユガ家の人間です!」
「じゃあ、ナラハトって王族なの!?」
「いや、イシュラッドは部族の会議で国を運営しているから王家は存在しないし、だいたいイシュラッド王国とかいわないでしょ。あれは単なる地域の名前だよ」
そうだった。イシュラッドという地名は、”砂竜王の地”という意味だと本で読んだっけ。
「ま、オレの一族だって、勇者ユガの末裔を自称しているだけかも知れないけどね。ただ、実家に伝わる古文書に気になる一節があったんだ」
「古文書? 気になる一節?」
「女王の遺骸を飲み込んだ一匹のサンドワームが、大いなる砂の王『イシュラト』になったんだと」
「そんなことが……」
あるはずがない! だなんて、果たして言い切れるだろうか?
女王の遺骸がシャードだと仮定すれば、検証するに足る話かもしれない。
でも、リルリル室長に報告するにしては弱すぎる。肝心な古文書すら見ていない状況では、こんなの友達に聞いた地元の昔話に過ぎない。
いっそ、シャードを亜竜種に与える実験でもしてみるか? いや、そんな思いつきみたいな実験に許可が下りるはずも無いし、だいたい実験コストが高すぎてお話にならない。
でもそれが、クオテリオンが目覚めかけている事と何の関係があるのだろう?
その疑問を口にすると、今まで見たがないくらいにナラハトは険しい顔をした。
僕が魔導学院に入学してナラハトと知り合って以来、初めてみるような真剣な顔だ。
「それを知ったら、お前は関係者の一人になる。オレは正直、伝えた方が良いのか伝えない方が良いのか、今も迷ってる」




