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希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
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最終話 5

 セシル王子は、絶望しながら、働かない人の国を出て、一旦、故郷の南の国へ帰ることにしました。あの浮浪者のような人が言ったように、セシル王子も自分の国へ帰りたいと思ったからです。自分の家族が自分がいない間、どんな風に過ごしているのかも気になっていました。しかし、勿論、誰にも見付からぬように帰らなくてはなりません。まだ、自分にとって一番大切なものは見つかっていないのですから。でも、そんな心配は必要がないことに気付きました。セシル王子は南の国を出たときと違い、髪も髭もぼうぼうに伸び、ボロボロの格好をしていたからです。セシル王子が門番の前を通っても、門番はセシル王子に気付かず浮浪者だと思い、「さっさとここから去れ!」と追い払いました。しかし、セシル王子は、裏口からこっそり忍び込み、お城の中の様子を窺うことにしました。

 セシル王子の家族は、両親と姉と弟、叔父夫婦でした。両親の王と王妃は優しい人でしたが、西の国と諍いが絶えず、いつも頭を悩ませていました。姉のリタ姫は、北の国の第一王子、ブルーノ王子と結婚することが決まっていて、リタ姫は北の国のブルーノ王子のことを子供の頃から憧れていたので喜んでいました。けれども、セシル王子が南の国に帰って来たとき、ブルーノ王子はリタ姫を裏切り、東の国の姫と結婚してしまい、リタ姫は毎日泣き暮らしていました。弟のアーロン王子も北の国のレイチェル姫に恋をしていましたが、リタ姫のことがあり、王と王妃からレイチェル姫と会うことを禁止され、嘆き悲しんでいました。家族のみんなが嘆いている中で、一番幸せそうな家族は、叔父夫婦でした。南の国の王の弟、つまりセシル王子の叔父は医術を扱う研究者でしかも人の心が読める人でした。しかし、変わり者だったので、髪の毛と髭を伸ばすだけ伸ばした魔術師のような風貌をしていました。東の国から嫁いできた叔父の妻である叔母は、元気で威勢が良く、いつも火を起こしては何かを焼いて料理をしていました。叔父はいつも叔母と仲良く過ごしていました。この叔父夫婦を見ていると、セシル王子も幸せな気持ちになりました。


 王子は故郷の南の国を出ると、西の国に向かいました。西の国のセリーヌ姫の顔を一目見たら、また、旅に出ようと思っていました。ところが、セリーヌ姫は、北の国の第二王子、ニコラス王子と結婚させられそうになっていることを知りました。北の国のニコラス王子は、西の国の姫に一目ぼれして、どうしても結婚したいと思ったのです。西の国は南の国よりも小さな国で、南の国と長い間戦争を続けたせいで国民が働けなくなり、貧しい国になっていました。北の国は大変お金持ちであったので、お金目当てで姫は結婚させられそうになっていたのです。セシル王子はそのことを知り、大変悲しみました。そして、早く大切なものを見つけて南の国に帰り、あの約束の満月の日に、セリーヌ姫に会わなければならないと思いました。その約束の日は、後、三ヶ月後に迫っていました。


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