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希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
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最終話 4

 セシル王子は、老人しかいない国を出て、隣の国へ入りました。隣の国は、一生懸命に働く人ばかりが住む国でした。隣の国で一番最初に出逢ったのは、貧しい若者でした。貧しい若者は、毎日朝から晩まで色々な仕事を掛け持ちして、一生懸命働いています。朝は裕福な家の使用人として、昼はレストランで、夕方から真夜中まではパン屋で働いていました。これだけ一生懸命働いているのに、どういう訳か、貧しい若者の暮らしは一向に楽にならず、彼はいつもため息を吐いていました。二番目に出逢った中年の女性は、人望も厚く商売で成功していましたが、結婚をしていませんでした。セシル王子は彼女に「どうして結婚しないのですか? あなたを慕っている男性は、周りにこんなに沢山いるのに?」と問うと、彼女は「理想の男性に今まで一度も出逢ったことがないのです。公明正大で力強く聡明な男性が私の理想なのです」と言いました。セシル王子はこの女性を見ていて、とても不思議に思いました。そういう男性は彼女の周りにはたくさん存在していたからです。彼女の目には一体何が見えているのだろう?と思いました。三番目に出逢った男性も毎日一生懸命働いている人でした。生活するために働いているのではなく、働くために生まれてきたような人のように見えました。セシル王子が「どうしてそんなに働いているのですか?」と問うと、彼は「女性たちに自分が高貴な身分に見えるよう、高価な洋服や装飾品を身に纏うためです」と答えました。確かに、着飾ったその男性は美しく、女性たちには人気があるようでした。けれども、この男性もセシル王子の目にはちっとも幸せそうに見えませんでした。女性たちが見ていないところで、男性が大きなため息を吐いているのを王子は見逃さなかったからです。

 この国でも、セシル王子は大切なものを見つけることができませんでした。セシル王子は、落胆しながらも、今日は見逃しただけで、明日は見つかるかもしれないと思い、希望を失いませんでした。


 そして、セシル王子は働く人ばかりが住む国を出て、隣の国へ入りました。隣の国は、さっきの国と正反対で働かない人ばかりが住む国でした。出逢う人出逢う人みんなが浮浪者のようにボロボロの格好をしていて、通り過ぎる度に悪臭がしました。けれども、元々この国の人々は、ここに住んでいたわけではないらしく、みんな自分の国で色んなことが起こり絶望して飛び出し、辿り着いた先がこの国だということを王子は知りました。働かなくても誰も怒らず、汚い格好をしていても気にする人はおらず、一見、この国の人は幸せのように見えました。ところが、ある人がセシル王子に言ったのです、「私は自分の国に帰りたいのです」と。この国の人も満たされていないとセシル王子は悟りました。


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