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希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
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最終話 2

「結局、あの日、何が起こったんでしょうか?」

 僕は、蔵元の爺さんの家の台所で、食卓を挟んで田中の爺さんと向かい合って座っていた。田中の爺さんが今読んでいる新聞の一面に「連続放火犯、ついに捕まる! 張り込み中の雑誌記者、お手柄!」とあり、犯人の顔写真と捕まえた中村誠の顔写真入りの記事が大きく載っていた。僕はそれを見ながら「やったじゃん!」と心の中で呟いていた。

 希望荘が火事になって一週間経っていた。希望荘の住人だった人たちの中で、身を寄せるところがある者は、そこへと移って行った。秋川緑や中村誠は会社の社員寮へ、浜本琢磨はカフェのオーナーの計らいで知人の所有するアパートへ、住井真紀は自宅へ、戸田翔子は暫くの間居候させて貰うつもりで出口美紗のアパートへと転居した。後の住人、大家、ななえ婆さん、藤堂啓太、佐々木吉信、田中の爺さんと僕は、マロと一緒に蔵元の爺さんの家で、希望荘が再建するまでお世話になることになった。

「地震じゃなかったんですよね? だって、蔵元さんの家も近所の家も大丈夫だったんだから」

「まぁ、住井真紀が希望荘を崩壊させて、その上に雷が落ちたということじゃな」

「やっぱり、真紀ちゃんが溜め込んでいた雑誌のおかげで、床が抜けたってことなんですか?」

「さようじゃ。じゃが、真紀のおかげで助かったとも言える」

「そうですね。あの日、真紀ちゃんが引越するということで、全員が二階にいたんですから。先に崩れ落ちて地面にいたから助かったのであって、みんな普通に自分の部屋にいて、火事になってたら、全員が助かったかどうか分からない」

「どっちにしろ、雷は希望荘を直撃する運命だったのじゃ」

「そうですか……」

「しかし、お主はよくやった。これで、あの悪夢から解放されるじゃろうて」

「そうですね。あれから火事の光景は頭に浮かんで来ていません」

「じゃが、まだ果たしておらぬことがあるのも忘れてはならぬ。お主は、お主の祖父との約束を果たさねばならぬ」

「大切なものを見つけることですか?」

「さようじゃ」

 田中の爺さんは、僕にそう言うと優しく微笑んだ。


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