第九話 4
翌朝、浜本琢磨は、カフェのカウンターに座っている住井真紀を前に、いつものようにサイフォンでコーヒーを立てていた。
「真紀ちゃん、僕、頑張って専門学校に行くことにしたよ」
「え?」
「やっぱり建築士の資格を取りたいから。それに真紀ちゃんのご両親とも約束したしね」
「えーっ、ほんとに?」
「うん」
浜本琢磨がそう言うと、住井真紀の顔はぱっと明るくなった。
「先輩、そのほうがいいです。先輩は建築士に絶対なるべきです!」
「今まで、ヤケになって、アルバイトばかりしてたけど、やっぱり、建築の仕事は好きなんだ。学校を卒業してからも、実務経験がないと建築士の資格は取れないし、まだまだ先は長いけど頑張るよ」
「ええ、是非そうしてください。それと、実は私、先輩に謝らなくちゃいけないことがあって……」
「え? なに?」
「昨日、父から電話があったんです」
「?」
「あの、怒らないで聞いて下さいね。父が先輩のことを色々調べたらしいんです。それで分かったことなんですが、先輩のお父様が取引先の関口建材の保証人になっていたから破産したと、この間、先輩が言ってたでしょ? あれ、偶然にもうちの父の会社のせいだったんです。父が詳しく調べてみたそうで、新人社員が自分の発注ミスを、関口建材に押し付けていたそうで、ゼロが一つ多かったらしいんです。しかも口約束だけで、ちゃんと契約書を交わしていなかったから、こんなことになってしまっていたそうで……。でも、幸い、他の現場に回せる資材だったらしくて、父はその資材をうちの会社で買い取って処理するようにしたそうです。本当に申し訳なかったと言ってました。だから、近いうちに、関口建材へも先輩のご実家へも父はお詫びの挨拶に行きたいと言ってました」
「え……」
「でも、『このことがあったから、俺はお前たちの交際を許すんじゃないからな。俺は、アイツの心意気に惚れたんだ』と言ってましたけど」
そう言って、住井真紀は照れくさそうに笑った。
「そうか……ありがたいな。だったら、うちの工務店も再開できるかな」
「再開してくれないと困ります。というか、全部うちの会社のせいでこんなことになってしまって、謝らなきゃいけなかったのはこっちのほうなんです。本当に申し訳ありませんでした」
「いやいや」
「でも、先輩、私、希望荘を出て家に帰ることにしました。私もちゃんと大学に復帰して、建築士の資格を取りたいから」
「そっか。うん、そのほうがいい。でも、ちゃんと連絡はしてくるんだぞ」
「連絡していいんですか!?」
「あれ? 僕たち、付き合ってるんじゃなかったっけ?」
浜本琢磨がそう言って笑うと、住井真紀は少し照れて俯いた。




