第八話 4
いつも忙しい浜本琢磨だが、今日は二週間ぶりに丸一日休みを貰い、台所でのんびりと朝食をとっていた。そこに、たまたま住井真紀が二階から降りてきたのだが、浜本琢磨の姿を見つけると、急に恥ずかしくなって自室に帰ろうとくるりと踵を返した。ところがそれに気付いた浜本琢磨は、「真紀ちゃん、お早う。一緒に朝飯を食べようよ」と誘った。昨日の朝は、浜本琢磨に誘われて、バイト前に彼の勤めるカフェに付いていったけれど、カフェには大勢の人がいたのでまだ良かったが、広い部屋に二人きりという状況が、住井真紀は妙に気恥ずかしいと思っていた。
浜本琢磨は住井真紀のためにサイフォンでコーヒーを立てた。住井真紀は、それをぼんやりと眺めていた。なんだか、この光景は前にも見たことがあるような気がしていた。すごく好きな人と会っていて、その人が自分のためにお茶を沸かして淹れてくれているのである。でも、その人に会ってはいけないような状況にあったのだろうか、嬉しいと思うと同時に悲しく苦しい感情も湧き上がって来た。前にテレビで見たドラマのシーンだったんだろうかと思い返していた。
「先輩……、あの、どうして大学を辞めたんですか?」
住井真紀は、遠慮がちに訊いた。
「家がね、破産したんだよ」
「え……」
「親父が小さな工務店をやってたんだけど、取引先の保証人になっていて、共倒れしたってわけ」
「そうなんですか……」
「でも、親父は元々大工をやってたし、なんとかやってるよ。だけど、流石に僕が大学に行く余裕がなくなってね。それで辞めたんだ」
「でも、建築士になりたかったんでしょ?」
「うん」
「だったら、やっぱり無理してでも資格だけは取ったほうがいいんじゃないですか?」
「そう思ってるんだけど、なかなか現状は厳しくてね……」
「そうなんですか……。先輩はあんなに素敵な設計図を描く人なのに……。今は無理でも、将来、絶対建築士になって欲しいです」
「うん、ありがとう」




