第七話 8
今日は金曜日で、秋川緑は、今度は自分から同期の杉田康介を誘って居酒屋へ向かっていた。杉田康介も秋川緑の結婚詐欺問題が気になっていたし、戸田翔子や出口美紗と作戦会議をするときは、自分も是非誘って欲しい頼んでいたからだった。ふいに秋川緑のスマホが鳴り、戸田翔子から「もうお店で待ってるよ」と連絡が入った。
居酒屋へ行く途中、前方のカフェから人が飛び出てきて、大声で怒鳴り合いをしているのに気付いた。何の騒ぎだろう?と、目を凝らしたら、自分の見知った人間二人が喧嘩していたので、秋川緑は驚いた。一人は同じ下宿に住む中村誠で、もう一人は、あの忘れもしない自分を騙した憎き結婚詐欺師の男だった! しかし、どうしてこの二人が喧嘩をしているのだろう!?
「お前はいいよな、家が金持ちだからな! だけどな、俺はお前と違って、全部自力でここまでやって来たんだよ! お嬢さん育ちの女房を満足させるためにな! アイツには金さえ与えときゃいいんだと思ってた。だけど、違った。アイツは俺に隠れて浮気していたんだ。金だって、浮気相手のために使ってたんだよ。何のために俺が苦労して金を工面してたんだか、とんだお笑い草だよな!」
永井賢人がそう中村誠に向かって言葉を放っているのを聞いて、秋川緑は思わず「なんですってっ!」と叫んでいた。
「ちょっと待ちなさいよ! 苦労して金を工面していただなんて、笑わせるんじゃないわよ! あんたは、女が苦労して貯めたなけなしの金を横取りしただけじゃないの! それにね、女を金で繋ぎとめておこうなんて浅はかな考えを持ってるから、こんなことになるのよ! 女を舐めんじゃないわよっ! 私もバカだけど、あんたも大バカだわよっ!」
そう秋川緑は永井賢人に向かって叫んだが、くるりと振り向き、「あんたもよっ!」と中村誠に向かって叫んだ。「えっ? 俺?」と中村誠は自分を指差しながら驚いて秋川緑に訊き返していた。
「そうよ! あんたもよっ! 女を外車に乗せるためだけにボロ家に住んでるなんて、ちゃんちゃらおかしいのよっ! 女がみんな外車が好きだとでも思ってるのっ? それにね、あの子が好きならライバルに嫌がらせなんかしないで、真っ向勝負しなさいよっ!」
秋川緑はそう言い放つと、杉田康介に目で合図した。杉田康介は分かったとばかりに、二人の男の手を取り、先に歩き出した秋川緑の背中を追いかけた。




