第七話 7
中村誠は、篠原誠と別れた後、またもや戸田翔子が勤めている書店の前で、向かいのマンションの放火犯の男を見張っていた。男は、数分前、チンピラ仲間の弟分のような若い男と共に、マンションの中へ入って行ったところだった。その弟分とみられる男は、家出中の未成年であると調べがついていた。しかも、窃盗、恐喝、暴行とありとあらゆる犯罪を犯し、何度も警察にしょっ引かれている相当なワルらしい。親はお手上げ状態だったらしいが、彼は名家の出らしく、世間体もあってそのままにもしておけないので、取りあえず身内から捜索願が出されているというあり様だった。こんな家庭環境ならば、もしかしたら、この若い男のほうが放火犯だと考えるほうが正解かもしれないなと中村誠は考え始めていた。取りあえず、二人がマンションから出てくるところを待っていようと思っていたら、またもや、この間と同じ女性を伴った永井賢人の姿が目に飛び込んで来た。中村誠は、張り込み中にもかかわらず、思わず、永井賢人を尾行していた。
永井賢人は女性を伴って、カフェへ入って行った。中村誠は永井賢人に気付かれないように、こっそり後ろから入り、彼と背中合わせになるように席に着いた。二人の会話を盗み聞きするつもりだった。
「両親がね、そろそろ彼を家に連れて来なさいと言うのよ。良かったら、都合のいい日を教えてくれる?」
「ああうん、でも、今は仕事が立て込んでるし、もっと貯金が出来てからと思ってるんだ。だから、もう少し待っててくれるかな」
「貯金なら私が貯めてるからいいわよ。でも、仕事が忙しいのなら、しようがないわね。今日だって、会社をわざわざ抜け出してくれたんだし」
「うん、ごめんね。でも、近いうちに必ずご挨拶に行きたいと思ってるから」
中村誠はたったそれだけの会話を聞いただけで、永井賢人は黒であると判断し、怒りが頂点に達してしまっていた。気付けば、中村誠は永井賢人の胸倉を掴み、彼の頬を殴っていた。永井賢人は床に倒れ込み、殴られた頬を手で押さえ、殴った人間の顔をただ呆然と見上げていた。しかも、その人間が後輩の中村誠だと気付いたとき、もっと驚きを隠せないようだった。
「なんでお前がここにいるんだ!?」
「挨拶に行くって、何のために彼女の家に行くんですか!」
「そ、そ、それは……」
「結婚するためにですか!」
「……」
中村誠は同席している女性に向かって「この男に、大金を預けてませんか? もし、今から預けようとしてるのならやめたほうがいいですよ!」と言った。
「ど、どういうこと!? 一体、何が起こってるの!?」
「この男はね、結婚詐欺師なんですよ! もうすでに結婚していて、妻がいるんです!」
「ええっ!」
「先輩、卑怯な真似するなよ! 大恋愛して結婚したと言ってたくせに! 美奈代さんを幸せにするんじゃなかったのか! たった一人の女性を心から愛し抜く男こそ、男らしい男なんだよ!」
気付けば、中村誠は永井賢人に向かってそう叫んでいた。




