第七話 2
結局、僕は正午に目覚めて、おもらしをする事態に陥り、憤懣やるかたない気持ちで、誰かが助けてくれるのをひたすら待っていた。しかし、結局、誰も帰って来ず、窓から飛び降りて脱出しようかと何度も思ったが、生憎、窓の下では蔵元の爺さんが庭の手入れをずっとしているし、仕方がないので、飲まず食わずの状態で童話を書いていた。夕方になって、やっと田中の爺さんが帰ってきて、僕の災難に気付いてくれたが、老人一人の力ではタンスはなかなか動かせないようで、四苦八苦していた。
「うむ、釘抜きを大家に借りてくるしかないようじゃな」
「えー……、やっぱり、釘で固定されてるんですか……」
田中の爺さんと僕はタンスを挟んでそう会話していた。すると、暫くして秋川緑が帰宅し、「何やってるの!?」と驚いていた。
「また閉じ込められているんですよ!」
「だ、誰に!?」
「誰にって、中村さんに決まってるじゃないですか!」
「どうして中村君がこんなことをするの?」
「僕と戸田さんの関係を疑ってるからです!」
「閉じ込めておったら、あの子には会いに行けぬからの」
「はぁ?」
「もう三回もこんな目に合ってるんです!」
「三回も!? 呆れた……」
「そうです! 呆れたヤツなんです!」
「こんなことしたからって、翔子ちゃんの気持ちが自分に向くわけないじゃないの!」
「そうなんです! 僕のことなんか気にせず、勝手に彼女にアタックしろと僕は中村さんに言ったのに! でも、告白する前に、撃沈したんですけど……」
「は? なにそれ? でも、ほんとに最低! だから、翔子ちゃんに無視されてたんだわ」
秋川緑は、居酒屋でのことを思い出しながら、そう言ってため息を吐いた。




