第五話 2
「真紀! ちょっと待って! 真紀でしょ! ずっと捜してたのよ!」
住井真紀は後ろからそう呼び掛けられて、止まるどころか、もっと足を速めていた。まるで、出逢ってはいけない人から逃げるように……。
「あのね! 真紀がずっと大学を休んでるから、みんなも心配してるし、真紀のお母さんから頼まれてるのよ!」
住井真紀は、大学の同級生で高校時代からずっと親友だった畑中麻利絵にそう言われて、ぴたっと歩くのを止め、「何を?」と振り返って訊ねていた。
「何をって、バカじゃないの? 真紀が心配だから、もし、見かけたら、どこで何をしてるのか教えて欲しいと言われたのよ」
「ちゃんと生きてるから心配しないで、と伝えておいて」
「もう! そんなこと言えるわけないじゃないの! 自分でお母さんに言いなさいよ!」
「嫌よ」
「ねぇ、どうしちゃったのよ? あんなにお母さんと仲が良かったのに……」
「自分の人生は自分で決めると決めたのよ」
「どういうこと?」
「大学を卒業したら、親が決めた相手と結婚しろと言われたの」
「え? ほんとに?」
「うん」
「それで家出したんだ……」
「そういうこと」
「でも、実際会ってみたら、案外良い人って場合もあるんじゃない?」
「本気で言ってるの? 麻利絵だって、一度も会ったこともない人間と結婚しろだなんて、親にそんなことを言われたら嫌でしょ?」
「うん、まぁ……そうだね……」
「だったら、話はお終い。ママには何にも言わないでいいわよ。麻利絵だってうちのママに付き纏われるのは嫌だろうから」
「それはそうだけど……」
「じゃあね。これからバイトだから、ぐずぐずしてられないの」
「う、うん……。ねぇ、メールでもラインでもいいから、また連絡してよ! 私だって真紀がいなくなって、淋しかったんだから!」
畑中麻利絵はそう言って、涙ぐんでいた。住井真紀はそんな彼女に悪いと思ったのか、「うん」と返事をして、その場を後にした。




