第四話 4
「ふーん、中学の同級生か……。しかし、お前、よく分かったな」
戸田翔子が意気消沈してロビーから出て行った後、その後姿を見送りながら、中村誠に少し遅れて会社に帰って来ていた二年先輩の永井賢人は言った。
「ああ、先輩、お疲れさまです。先輩も早く帰って来られたんですね。まぁ、彼女は僕の初恋の相手ですからね。すぐに思い出しましたよ」
「そうだな。初恋だったら覚えてるか。ガキの頃の恋愛は良かったよな。今の俺なんか、女房の尻に敷かれっぱなしだよ」
「仲が良い証拠じゃないですか。羨ましいですよ」
「それがそうでもなくてね」
「そうなんですか? そう言えばこの間、奥さんにばったり会ったんですよ」
「え? どこで?」
「ショッピングモールで。先輩の誕生日のプレゼントを買いに来たっておっしゃってましたよ」
「はぁ? 俺の誕生日は半年先だよ」
「そうなんですか? あれ? 聞き間違えたのかな……」
「きっとそうだろ」
「そっか……」
「お前はいいよな。俺なんかマンションのローンで四苦八苦してるけど、お前は実家が金持ちだから、左団扇だろ」
「そんなことないですよ」
「だって、お前、また車を買い替えたらしいじゃないか。隣の課の美人を助手席に乗せてるところを広田に目撃されてたぜ」
「えーっ、本当ですか?」
「でもまぁ、見たところ、お前の興味は、再会したばかりの初恋の彼女のほうに移ったみたいだしな。さっき見たことは黙っててやるよ」
「ありがとうございます! 恩に着ます!」
中村誠はそう言いながら、しかし、彼女、つい最近も別の所で会ったような気がするんだけどな、どこでだっけ?と考え込んでいた。




