第三話 10
図書館へ着いて、例の司書兼受付の女の人に、「頼んでいた本を受け取りに来ました」と伝えたら、受付の人は「あ! お待ちしてましたよ!」と笑顔になり、事務室の中へ引っ込んだ。しかし彼女は、五分経っても十分経っても事務室から出て来なかった。十五分経って漸く出てきたかと思ったら、カウンターのすぐ傍に置いてある返却ボックスの中を覗きこんで、あれでもない、これでもないと、本を出したり入れたり、ボックスの中をかき混ぜていた。僕はその様子をしかめっ面で見ていたのだが、それに気付いた彼女は、流石にまずいと思ったらしく、「すみません。ちゃんと事務所に取り置きしておいたのに、見つからないんです」と言った。僕はそれを聞いてがっくりした。
「あ、でも無くなるはずないですから、もう一度捜してしてみます。もうちょっとお待ちいただけますか?」
「はい……」
「でしたら、見つかったらお呼び出ししますから、どうぞ他の本でもお読みになってお待ちください」
「はい、分かりました」
そうやり取りして、僕は図書館の児童書が置いてあるコーナーに向かった。
児童書が置いてあるコーナーはやっぱり小さい子供たちでごったがえしていて、床の上に直接寝転がって絵本を見たりしているので、流石にそれを放置するわけもいかず、僕は「えへん!」と咳払いした。すると、それに気付いた母親が、「だめよ。ちゃんとあっちのテーブルに持って行って読みなさい」とそそくさと子供を連れ去った。
子供がいなくなったところで、僕はいつものように、佐藤みつるの本が収納されている書架の前で、新しい本が入っていないか物色し始めた。すると、なんと「宇宙からきたコロボックル」が並んでいるではないか! でもこの本は、初版本ではないだろうなと思った。しかし気になって背表紙の一番下に印字されてある数字に目をやったら、なんと1967とある。1967って、確か初版本のはずだぞ。もしかしたら、司書さんの誰かが、僕の取り置きの本を間違って書架に並べたんだろうと思い、僕は喜んでその本を手に取ろうとした。すると、「あったーっ! 奇跡だわーっ!」と叫んで、僕より早く、その本に手を伸ばした人物がいた。分厚い眼鏡を掛けた若い女性だった。僕は呆気にとられたが、すぐに正気を取り戻すと、思わず、「泥棒!」と叫んでいた。するとその女性は「なんですって!」とまた大声で叫んだ。静かにするべき図書館で、大の大人約二名が大声で騒いでいるので、図書館員が慌てて飛んで来て「静かにしてください!」と声を殺して注意し、僕たち二人を睨み付けた。僕たちは二人ともやばい、と思っていたが、お互いこの戦いに負けるわけにはいかないと心に決めていた。




