表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
21/108

第三話 4

「それで、挨拶が出来てないのは、三号室と六号室と七号室と九号室なんです」

 僕は、田中の爺さんに住人の様子を訊き出そうとしていた。

「三号室の娘は、夕方には戻ってきておるようだから、また挨拶に行けばいいと思うがの。だがしかし、他の部屋は挨拶をせんでも問題なかろう」

「え? どうしてなんですか?」

「六号室の婆さんは、ほっといても向こうからそのうちやって来るだろうて。そう言えば、老人会の温泉旅行から今日帰ってくると言っておったがの」

「原口ななえさんですよね?」

「おお、よく知っておるではないか」

「はい、この間のお茶会で聞いたんです。九号室の佐々木さんのことと、十号室のことも少しは聞きましたけど、全く分からないのは七号室です」

 僕がそういうと、田中の爺さんの顔が急に険しくなった。

「まず、十号室は空き部屋じゃ。しかも万年空き部屋で、ワシがここに住み始めて五十年にはなると思うが、人が入ったのを見たことがない」

 五十年も住んでいるのか! まるで主じゃないか! 一体、希望荘は築何年なんだろう?と思いながら、「そうなんですか……。雨漏りするとか、どこか修理しなけりゃいけないような部屋なんですか?」と僕は訊ねた。

「そうではなかろう、何か大家が貸したくない理由でもあるのであろう。開かずの間じゃ」

 僕はそれを聞いて、やっぱり、十号室は幽霊部屋なんだと思い、ぞっとした。

「じゃあ、七号室は?」

「七号室はのぅ……」

 そう田中の爺さんは言ったかと思うと、続いて「ふうぅ」と大きなため息を吐いた。

「何か問題でも?」

「大いに問題ありじゃ」

「何が問題なんですか?」

「まぁ、その話はまたの機会に詳しく教えてやろう。とにかく、早うその茶漬けを食らうがよい。せっかくの煎餅がふやけるではないか」

と田中の爺さんが言ったので、僕は慌ててお茶漬けを掻き込んだ。

「しかしのぅ、七号室のアヤツは幸運じゃ」

「はぁ、そうなんですか……」

「そうじゃ。この下宿には、必ず救いの手が差し伸べられるようになっておるのじゃ」

 僕は田中の爺さんの言葉の意味が分からず、しかめっ面で爺さんの顔を見ていたら、「『鍵を握る人物』はお主だというに、当人が全く分かってないとは、これいかに?」と言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ