表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
17/108

第二話 9

 次の日の朝、昨晩降り続いた雨は上がり、晴天だった。僕は、昨日出掛けた際に買って来ていた煎餅の箱を手に、意を決して、一号室の部屋のドアをノックした。田中青雲という人は、どんな人なんだろうと思いながら、ドアの前で待っていたら、すぐにドアがバッと勢いよく開いた。その瞬間、僕は「八号室の篠原正義と言います! よろしくお願いします!」と言いながら頭を下げ、挨拶代わりの煎餅の箱を両手で掲げるように相手に突き出した。しかし、その田中青雲という人は、煎餅の箱を一向に受け取る気配がなかった。仕方ないので、僕は恐る恐る顔を上げた。彼は、顔を上げた僕の顔を舐めるように観察すると、急に顔がぱっと輝き、こう言った。

「おお! お主! やっと来たか! 待っておったぞ!」

 初対面の相手に意味不明なことを言われて驚きながらも、僕も相手をマジマジと見返した。

 目の前には、髭を蓄えた長い白髪の仙人みたいな容貌の老人が立っていた。僕は、昨晩の佐々木吉信騒動のときと同じように、腰を抜かしそうになった。自分が今、何時代のどこにいるのか訳が分からなくなっていた。それと同時に僕は心底、げんなりした……。昨晩の佐々木吉信といい、大家といい、隣家の禿頭の爺さんといい、ななえ婆さんといい、目の前にいる仙人といい、この界隈には、頭のおかしな人間が大勢巣食っているとしか思えなかったからだった。

 僕の目の前に、この下宿にまつわる幽霊屋敷の噂の正体が、厳然と立ちはだかっていた。


第三話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ