第二話 6
それから大家と別れて、僕は一人土手を歩いていた。すると、土手の途中の河川敷で、妙に人だかりが出来ているので、近付いて確認したら、峰岸の爺さんが、拾ってきたと思われる小型家電製品のフリーマーケットを開いていた。結構繁盛していた。古いテープレコーダーやレコードプレイヤーもあって、お客さんは「家にあるレコードを聴きたいのに、店で売ってないから困ってたのに、ふとここに寄ったらプレーヤーがあって、びっくりだよ」と喜んで抱えて帰って行った。僕はその様子を遠巻きに見ていたのだが、峰岸の爺さんは「兄さん、何か探してるのかい?」と訊いてきた。こざっぱりしたせいか、僕だと気付かないらしい。
「峰岸さん、僕ですよ」
「え?」
「篠原です」
「えーっ!?」
「そんなに変わりましたか?」
「本当にあの篠原君かい!?」
「そうです」
「い、いや、見違えたな! びっくりしたよ! あ、でも、一年前は、もっと男前だったな、確か……。もっと短い髪型でもいいんじゃねぇの」
「い、いえ。なんだか、そんなに急に短くすると風邪をひきそうで」
「まぁ、好きにすればいいけどさ。それで、今日はまた何だい? まさか下宿から逃げ出して来たんじゃないだろうな」
「いや、そうじゃないんです。ちょっと峰岸さんに訊きたいことがあるんです」
僕は、スマホの沢野絵美の写真を見せながら、公園でこの女性を見かけなかったかと訊ねた。
「いや、俺は見かけてねぇな」
「多分、彼女、昼間じゃなくて夜に現れるんだと思うんです」
「え? それはまたどうして?」
『幽霊だから』と思わず口走りそうになったが、すんでのところで押しとどめた。
「二回しか見かけてないんですけど、僕が見かけたのが二回とも夜だったからです」
「ふーん、そうか……。でも、俺は毎晩酔っ払ってるし、すぐに寝ちまうからな。俺が気付いてないだけで、来てるかもしれないぜ。まぁ、今度見かけたら、教えてやるよ」
「お願いします」
「でも、なんでこの子を捜してるんだ?」
「……」
僕は黙り込んでしまった。なんと説明したらいいのか分からなかったからである。一旦話し出すと、長い説明になるのは目に見えている。僕が困惑している様子を見て取ったのか、峰岸の爺さんは、「すまん、すまん。言いたくないことを無理に聞き出すのは野暮だよな」と言って笑った。浮浪者仲間の間では、「他人の事情には深入りしない」、それが暗黙のルールだった。
今日は、他にも繁華街をフラフラ歩いて、当てもなく沢野絵美を捜したが、やはりそう簡単に彼女は見つからなかった。