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希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
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最終話 12

 次の日の朝、僕はポチたまのポチを卒業した。一瞬、自分で切ろうかと思ったが、思い直して美容院に行き、顔を隠していた前髪をバッサリ切り落とした。そして、眼鏡もコンタクトに変えた。服装もダサい格好をやめ、洋服屋で店員に選んで貰った服を試着し、そのまま購入して、その格好で蔵元の爺さんの家へ帰宅した。すると、家に上がった途端、みんなに「どちら様で?」と訊かれ、「篠原です」と答えると唖然とされ、ななえ婆さんにいたっては「あたしゃ、男前は苦手だと言っただろーっ!」と絶叫されて逃げられた。


 夜になり、僕は夜空の満月を見上げながら、約束の場所へ向かった。楡の木が植わったあの公園である。

 果たして約束は守られるのだろうか?

 彼女は約束を覚えているのだろうか?

 そんなことを考え、ドキドキと不安がないまぜになりながら公園に向かって歩いていた。

 公園に着くと、すでに若い女性の姿があった。僕は彼女に駆け寄り、「遅くなってごめん」と声を掛けた。僕がそう言うと、彼女は「そうね、三百年も待ったもの」と言い、笑顔で僕のほうに振り向いた。振り返った彼女は、やはり戸田翔子だった。戸田翔子は、あまりにも変貌した僕の姿にびっくりしていたが、「やっぱり、篠原さんだったんだ!」と言って、泣き始めた。

「篠原さん、あの公園、覚えてる?」

「公園?」

「うん、ロケット公園。ほら、ロケットの形をした滑り台付きのジャングルジムがある公園」

「え? もしかして、多摩川の近くの?」

「うん。私、小さい頃からそのロケット公園でよく遊んでて、その公園でいつも出逢う優しいお兄ちゃんが大好きだったの。そのお兄ちゃんね、九歳年下の小さな弟をいつも連れて、遊びに来てた。篠原さんだったんでしょ? 今日の篠原さんの姿を見てすぐに分かったよ」

「そうか! あの女の子は翔子ちゃんだったのか!」

「うん。私の運命の人は昔からずっと篠原さんだったんだね。私ってすごいね! だって、最初から選択を間違っていないんだもの」

 僕は、泣いている戸田翔子を優しく抱きしめながら、「そうだね。大昔からずっとすごい女の子だったね」と呟いた。


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