最終話 11
「それで、お主の探しているものは、何なのか分かったということなのじゃな?」
「はい」
「この童話に書かれておる通りじゃと?」
「はい」
「そうか、よくやった!」
「でも、まだ全部の謎が解けた訳じゃないんです」
「そうであろうな。まぁ、それも、今となっては、ワシが教えてやっても問題なかろう」
田中の爺さんはそう言うと、本当に昔話をするかのように語り始めた。
「昔、ヨーロッパに四つの国があった。南の国、東の国、西の国、北の国じゃ。他にもたくさんの小さな国はあったが、これら四つの国が大きな国だった。もううすうす分かっているだろうが、南の国のセシル王子は、つまりお主の前世での姿じゃ。お主の姉のリタ姫は秋川緑、弟のアーロン王子は浜本琢磨じゃ。そして、王は家守健三、叔母は原口ななえで、叔父はこのワシじゃ」
覚悟していたとはいえ、僕は驚きながら聞いていた。僕の姉が秋川緑で弟が浜本琢磨、父が家守健三だって!? だから、みんな揃って甘い物が好きだったのか!
「王妃は原口幸子さんじゃないんですか?」
「まぁ、待て。原口幸子は後ほど出てくる」
「次に北の国じゃが、ニコラス王子が中村誠でレイチェル姫が住井真紀じゃ。ブルーノ王子は名前をなんと言っておったかの、えーと……」
「秋川さんが言ってた永井という人じゃないですか?」
「おう、そうであった、永井賢人じゃ。次に西の国じゃ。西の国の王が蔵元一郎で王妃が原口幸子なのじゃ」
「ええっ!?」
「でも、原口幸子は本当は家守健三が好きであったようだがの。何か事情があったのであろう。そして、下の娘アンジェラ姫が藤堂啓太じゃ」
僕はそれを聞いて、唖然としたが腑に落ちた。だから、藤堂啓太が僕や戸田翔子を見た瞬間、嬉しくなって抱き付いたんだろうし、今もどこかなよなよしているのだなと思った。
「そして東の国じゃが、前世でも原口ななえと原口幸子は姉妹で、二人は東の国の出身だということじゃ。それと、えーと、忘れるところであった。お主の召使のクレマンは……」
田中の爺さんがその先を言おうとしたとき、僕も彼と同時に「佐々木吉信!」と叫んでいた。
「そうじゃ、よく分かったの。しかし、お主もじゃが、他の者も生まれ変わって、前世でやり残したことを今世でやり遂げておる。ただし、永井賢人を除いてではあるが……。アヤツは、このまま態度を改めなければ、来世もおそらく同じような境遇に生まれるであろうな」
「そうなんですか……」
「そして、西の国のセリーヌ姫であるが、これはもう言わずもがなであろう」
「はい……。でも、前世のことではなく、今世のことで疑問があるんです。どうして、沢野絵美と戸田翔子、そしてもう一人、原口幸子が全く同じ容姿をしているのか?ということです」
「それは、西の国の王妃とセリーヌ姫がよく似た母子であったことに由来するのじゃ」
「?」
「つまり、西の国の王妃と原口幸子、沢野絵美が同じ魂だったということじゃ」
「えっ?」
「原口幸子は転生が早かったのじゃな」
「沢野絵美は、原口幸子が転生したということですかっ!?」
「さようじゃ。お主には見えぬだろうが、今、ワシには原口幸子、つまり沢野絵美が、お主のすぐ後ろに立っておる姿が見えておる」
僕は、田中の爺さんにそう言われて「ええっ!?」と叫んで、後ろを振り返ったが、やっぱり何も見えなかった。
「彼女は、お主に伝えてくれとワシに言うておる。生きていたときに、自分を大切にしてくれたことを感謝しているが、容姿が娘と似ているのも、自分が亡くなったときに満月が出ていたのも、お主にセリーヌ姫との約束を思い出して欲しかったからだと。自分の気持ちに正直になって、幸せになってほしい。自分はそれを心から望んでいる。くれぐれも娘をよろしくと言うておる」
僕は、それを聞いて、涙が溢れそうになった。
「田中さん、彼女に伝えてください。僕もあなたに感謝しています、と」
「伝えなくても、聞こえておるだろうて。今、彼女は笑顔で頷いておる」
「そうですか……」
「ここまで種明かしをすれば、もう頭はスッキリしたであろう?」
「いえ、まだ肝心なことが訊けてないです」
「肝心なこととは?」
「三百年後の約束の満月の日とは、一体いつなんですか?」
「おお、そうであった!」
そう言うと、田中の爺さんは瞑想し始めたが、やがてぱっちりと目を開けると「お主、大変じゃ!」と言った。
「何が大変なんですか?」
「約束の日は、明日じゃ」
「ええーっ!?」
僕は、思わずそう叫んだ。