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希望荘の住人  作者: 早瀬 薫
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最終話 10

 戸田翔子と別れて蔵元の爺さんの家に帰ると、大家とななえ婆さんと蔵元の爺さんが僕を待ち構えていた。僕たちは台所の食卓に座り、僕は彼らに質問攻めに合っていた。

「それでどうなったんだい? 本は出版できるのかい?」

「いや、まだ、原稿を渡したばっかりだし、分かりませんよ。ボツになる可能性も大だそうです」

「なんだそれ」

「ほんまや、なんやそれ」

「出版業界も甘くないってことです」

「そうなのかい……」

「そうです。それはそうと、新しい希望荘はいつ建つんですか?」

「ああ、さっき大西建託が来て、見積もりしてもらったんだけどね、来年の春頃だと言ってたよ」

「そうなんですか」

「でもね、家賃が可愛くないんだよ、これが」

 ななえ婆さんはそう言って、大家を睨み付けた。

「仕方ないだろ、新築なんだから。六万しないんだから相場より安いんだよ。でも、前より部屋数が五倍になるから、あんたら前からいる住人は変わらず二万円でいいよ」

「えーっ、ほんとにいいのかい?」

「その代り、光熱費は自分で払うこと」

「はいはい」

「ほんとにいいんですか?」

「いいってことよ。今度は二階建てじゃなくて、八階建てになるからね。今まで、もったいない土地の使い方をしてたんだよ」

「そうなんですね」

 「日当たりが気になるところやけど、まぁワシもいつまで生きとるか分からんしな。ちょっとの間くらい勘弁したるわ」と蔵元の爺さんが言うと「そうか、ありがとよ」と大家が言った。


 その後、田中の爺さんと藤堂啓太に声を掛け、みんなで食事をし、老人三人組は早々に寝たのだが、僕は佐々木吉信の部屋まで食事を持って行ってやろうとすると、台所に一人残って食卓に座っていた田中の爺さんが「その必要はない」と言った。

「えっ?」

「今、風呂場で音がしておるであろう。もうすぐ風呂から上がるはずじゃ」

「そうなんですね」

 それで、佐々木吉信が風呂から上がるのを待っていたら、全然違う人間が台所に勝手に入って来たので、僕は「うわあああああ! 誰ですかっ?」と言ったら、彼は「佐々木吉信です」とポツリと言った。僕は開いた口が塞がらなかった。だって、彼はスポーツ刈りの爽やかな中年男性になっていたのだから。よくよく話を聞いてみると、浜本琢磨に紹介されて、今朝から新聞配達のアルバイトをし始めたらしい。人間、変われば変わるものだと感心してしまった。佐々木吉信は食事を終わらせると、すぐに部屋に帰って行ったので、僕も風呂に入ろうとしたら、田中の爺さんに呼び止められ「それで、本は出るのか?」と訊かれた。僕は仕方がないので、さっき老人三人組に話した同じ内容の話を田中の爺さんに話した。でも、田中の爺さんは、本の出版の話以外に、何か僕に訊きたそうなことがありそうだったので、僕は部屋から童話の原稿を取ってくると、田中の爺さんに渡して読んで貰った。田中の爺さんは、童話を読んだ後、口を開いた。


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