月蕾 VOL I
今日は遅刻だった。
朝からついてなかった。
いつもの時間7:45にアラームをセットした目ざまし時計の電池が切れてたことから、1日が狂ったんだと思う。
起きたのは8:30で、朝の支度なんて服しか着替えてない。会社の引出しに歯磨きセットがあるから会社で歯磨きしようと考えながら、満員電車にのった。
「すみません。遅刻します。」って会社に電話。
「ん?具合でも悪いの?」とS先輩。社交辞令ぽい問いかけ。
「あっ、はい。生理痛が酷く、しかもお腹も壊してて」
OL歴4年。新人の頃より嘘が上手になった。
「大丈夫?休む?」
S先輩はどうせネットオークしながら応対してるし、仮に私が本当に生理痛+お腹壊すであったとしても心配なんてしてない。
と心の中で考えながら。
「平気です。もう会社の近くですんで。すみませんでした、本当は家出る前に電話しようと思ってたんですが、ダブルな痛さでそれどこじゃなくて。」
お母さんが言ってたっけ。1つ嘘をつくと多くの嘘をつくことになるって。
「んーわかった、タイムカード押しとくね今。」S先輩はそう言って電話を切った。
嘘ってどうして嘘になるんだろう?状況が実際と異なることを言ったらウソになるんだったら、政治なんて嘘からでた現実で動いてる。選挙にいって投票するなんて、嘘を推奨してる行動そのものじゃない? なんて考えながら駅のトイレでメイク。メイクが濃いと周りから男でも出来たといわれるし、ナチュラルで行けば、彼氏と別れた?なんて言われるしホントめんどくさい。
男がいたらとっくに結婚して仕事なんて辞めてるいっていう風に演じてるつもりだけど、男は単細胞だから、演技に気が付かない。寿退社?結局女の私って、社会的に差別化されてる気がする。いろんなところでこうやって嘘を付かないと、こうやって演技しないと現代社会生き残れない。男女平等?労働基準法?雇用の平等化?ねっ。法律すら嘘でできてるんだから嘘は常識。
課長に謝り、机について、社内メール報告の間違い探しが私の仕事。昼休みまでずっと間違いを探し続ける。勿論、仕事中のネット禁止なんて会社にはない。仕事が早く終われば定時までネット見て時間つぶすしかない。
幸い月末報告の後だから仕事量は少ない方。月末は発狂しそうにいなるくらい添付ファイルを開くけど。
「ねぇ、お昼にしない?」と愛美。
愛美は私と同期入社。別に棘も無いし、張り合う必要もない。
「うん。」
私達はファーストフード店に向かった。
「ねぇ。相談があるんだけど聞いてくれる?」
ハンバーガーの包みも開封しないうちに重たい話・・。
「うん。どうしたの?」
昼休み1時間で語れる内容でお願いします。と心の中でつぶやいた。
「ありがとう。私ね・・・・実は・・・」
目から水がこぼれ始めた。
マジですか?
「信じてもらえるかどうかわからないんだけど・・昨日ね・・」
「彼氏と泊りだったの。だから、朝、駅のロッカーに私服とかを入れておいたの。それで昨日帰るときロッカーを開けたのよ。そしたらね、ロッカーに血だらけの男の子が入って・・・死体?が入ってるのを見て、大きな声を出したの。そこらへんの浮浪者が駆け付けたんだけどね・・死体なんてなかったの。でもね私本当にみたのよ。荷物もちゃんとあったから、荷物だけ取って、というか死体はないから ダッシュでタクシー乗り場まで行って、タクシーで帰ったの。コンビニの前で止まってもらい、ビールと夕食を買って家に帰る道を歩いてるとね・・・」
オカルトですか・・・。
「男の子が・・・でんぐり返ししながら私のほうに来るの・・・」
「うんと・・お祓いとかいったほうがいいよ。」
これしか言えない。話の最後を聞くまでもない。
「私、ダッシュしながら彼氏に電話したの。彼氏が来てくれることになって、振り返ると男の子が、でんぐり返ししながら来るのよ。周りの人には見えてないみたい。チェーンと鍵を閉めて電気全部つけて、警察に電話してふるえて待ってたの。ゴーン、ゴーンってドアにぶつかり始めた男の子をのぞき窓から見たのよ。でんぐり返ししながら何回も何回もぶつかってるの。」
ここで相槌打たないと・・。
「で?警察来たの?」
「うん。チャイムが鳴ってのぞいたらお巡りさんだったの。家にあがられて事情を言わされてパトカーに乗せられて、薬物検査までしたのよ。」
「そうね・・愛美の話、幻覚とか見るクスリの中毒者ぽい。」
「勿論、クスリなんてしてないから。でね・・帰りにお巡りさんが」
「玄関の前に落ちてましたよ。」
って・・これを
愛美はカバンからB5サイズの折りたたまれた紙を出して、冷え切ってそう開けてもいないハンバーガーの上においた。
まま。でんぐりがえ できるようになった。
「ちょっとぉ・・なにこれ・・・でんぐりがえしのしが抜けてるし・・」
ダジャレいってる場合じゃないけど言わすにいられない。
「わからない。私子供なんて産んだことないし。とにかく捨てようと思ったけど、怖くて捨てれない。」
「彼氏きたんでしょ?」
「警察にいる時、電話をオフにしてくださいって言われてね、スイッチ入れたら彼氏からメールが。でね、家に着いたけどいないから帰る、って書いてあったの。で電話した。でも出ない・・・。」
TVとか映画のシナリオ通りね~。彼氏は死んでるのよ!その霊ボーイに殺されたんだ。と思ったけど言えない。しかもこの先の展開もわかってる。「ねぇ、怖いから今日一緒にいて、お願い。」でしょ?
「彼氏・・・どうしたんだろ。お願い・・怖いから当分、一緒に居させて」
ほらね。怖いなら実家帰れっていいたい。ていうか何で私?
「私、霊感とかないし除霊?とかできないけどいいのかな?あ、でもね
実は私のひいおじいちゃんの兄はフランスにいたハイカラな人で霊感もあったらしくその方面では有名だったらしいけど日本が敗戦した時にフランスのスパイ呼ばわりされて収監。牢獄の中で死んだんだ。霊感で脱獄出来る位の実力って、おじいちゃんやお父さんは言ってるけど、従兄の男の子がそのおじいちゃんの血だか霊感を引き継いだみたいで、親戚全員、従兄を怖がってる。紹介したいけど、メルアドなんかしらないや。ちなみ従兄にあったこともないけどね」
はい。ここで笑いなんですけど・・・愛美は笑わない。
「お願い一緒にいて・・頼めるの舞しかいないの」
飲み物を飲む。コーラの氷が全部溶けて味が薄い・・。考えよう。マジででんぐり返ししながら襲ってくる霊が来たら、私は何ができる?
ん?でも霊ならどうして玄関を通り抜けれないんだろう?
あれ?彼氏のこと心配じゃないのかな?
「解った。じゃあ仕事終わったら家にいこう。」
しまった・・今日は木曜日・・パーティーだ。
「あ!待って。今日さ、渋谷のクラブでパーティーがあるんだけど一緒いこうね。そんで朝まで盛り上がってから家で寝る。でいいよね?」
「うん、ありがと。付き合う。」
愛美の選択肢は最初からそれしかない。
「クラブまで追っかけてこないでしょ。それに会社にも来てないんでしょ?ゴロゴロ小僧。」
いたらいたで面白いけど。C課長どんなリアクションでゴロゴロ小僧と戦うんだろ。加齢臭VS霊って見たい気もする。
ファーストフード店から私達は会社に戻り、仕事を始めた。
定時少し過ぎて仕事は終わった。愛美とは会社の前で待ち合わせ。
カラスが空を飛んでいるのを見ながら私は今日1日の出来事を振り返った。
そう今日は朝からついてないことは決まってたんだ。
薄汚いコンクリートのビルにきれいな白いお月さまがいる。
濃紺の夕方の空に浮かぶ白いお月さま。私もあんな風に嘘だらけの世界から遠のいて凛として白く輝いてみたいものだ。
愛美まだこない。
お月さまがちょっとだけ黄色くなった。月って蒼くて黄色くて白銀で。
「おつ~舞。また明日ねー」
S先輩とY先輩が手を振り私の注意を月から引き離す。
「今朝はすみませんでした。おつかれさまです~」
舞って私のあだ名。あんたらにあだ名で呼ばれたくない。
お月さま、昔から世界は嘘で固められた食べかけのグラタンみたいなもんですか?
{こんばんは。お話はいかがですか?}
ゲッ・・おかしいのはウツルって聞いたことあるけど愛美の妄想がうつった!!
{いいえ。この世界は確かに嘘で作られ、かつて明けの明星の主とその弟が救いを述べましたが、人はみな、それを拒絶しこうなりました。}
誰だ?っていうか耳に直接聞こえるから妄想じゃない・・・
{私ですよ。}
気軽に姿を消せるからって、私ですよで済ますなんてお月さま助けてください!
{何をですか?貴方が今朝からフェイト、ドゥーム、ディストニーの3姉妹の糸から離れた時間に進んでいるからですか?}
げっ・・・月が私に話しかけてる・・・・・・・・・・・・・・・
愛美が会社から出てきた。どうしよ・・。
「ごめん。舞。待たせた? 舞?どうしたの?顔色悪いよ?」
あたりまえよ。あんたの妄想が写って電波だかメッセージをお月さまから受けれる体質に。
「んとー。これフライアー。」
今日のパーティートのフライアーを渡した。
私のお気に入りはDJじゃない。テーブルでいつも座っているDさんだ。Dさん目当ての女の子も沢山いるし、スタッフのJさんとかGさんなんか、かっこいい。
「舞?まさか見えるの?男の子・・顔色悪いよ?」
{またあとでお話ししましょう。志乃舞さん。}
「ん?えっと今日、あの日だから、気にしないで」
仕事終わりも嘘で終わる。やっぱり嘘をつくと嘘をたくさん付く必要になるのかな
VOL IIへ続く
月蕾IIは9/17 0時公開予定です!